「子どもの仕事はあそぶこと」という言葉があるように、子どもにとってあそびは日常であり自然な営み。自らの好奇心に従ってあそぶことで、なにかを発見したり、面白さを見つけたりしながら、少しずつできることを増やし、身の回りの世界を広げながら成長していきます。
あそびを通じてわが子の成長を感じることは、親にとっても楽しい時間です。ただ、知育玩具のように月齢に合わせたあそび道具があふれ、発育に関する情報も飛び交う現代の子育て環境のなかでは、「子どもによいあそびを与えられているか」「うちの子の成長は遅れているんじゃないか」、そんな不安を抱えることもあるかもしれません。
子どもにとってあそびとはなんなのか。大切にすべきことはどんなことか。子どもの発達と成長を応援するあそび道具を数多く販売し、自社のあそび場運営のほか、公園や幼稚園・保育園などのあそび環境づくりも行う株式会社ボーネルンドの村井雄一さんにお話をお聞きします。
1982年生まれ。株式会社ボーネルンド 遊環境事業部あそびサポート営業部次長。2004年、親子の室内あそび場「キドキド」オープンに学生インターンとして関わる。2005年入社後は、キドキドのプレイリーダーとして、多くの親子にあそびを提供。キドキド店長を経て、同社のプレイリーダー育成を担当。
現在は、同社のあそび場だけでなく、自治体の子育てイベントや幼稚園・保育園などでも広くあそびを届ける仕事に従事。
プレイリーダー、一児の父として、子どもの「得意なこと」「やってみたいこと」を引き出し、個々の特性を応援するように日々努めている。
あそぶことは生きること。ボーネルンドが考える「子どものあそび」
――くすぐったり、“いないいないばあ”をして喜ぶ赤ちゃん時代から、お友だちと一緒にあそぶ幼児期、道具を使ってダイナミックに活動する小学生まで、子どもはあそぶことが大好きです。そもそも “あそび”とは、子どもにとってどんなものなのでしょうか?
村井さん:子どものあそびを考える時、ポイントとなるのは“あそびのひとつ?ひとつに意味があってなにひとつ無駄がない”ということ。子どもにとってのあそびは時間つぶしではなくて、日常的で能動的なもの。あそぶことそのものが生きるために必要な力なんです。あそびを継続することでその経験がどんどん溜まり、溜まったぶんだけ生活が豊かになっていくものだというのがボーネルンドの考え方です。
――年齢に応じてできることもだんだんと増えてきます。あそびが育む“生きるために必要な力”とはどういったものがあるのでしょうか。
村井さん:ボーネルンドではあそびが子どもの「想像力」「発見と理解」「創造性」「コミュニケーション能力」を育むと考えています。たとえば積み木やブロックあそびで、三角と四角の積み木を合わせたら家になる、という見立てあそび。これは想像力につながっています。自由に発想してイメージを膨らませていくあそびの経験は、夢を見たり想像したりする力を育んでいきます。
村井さん:また、オレンジ色と緑色を組み合わせるとニンジンに見えるね、といったあそびは感動を楽しむあそび。見て聞いて、触って確かめて「本当だ!」という発見と理解が学びを深めていきます。5〜6歳になると自分の感性を生かして形づくることをしたり、役割を持たせたりすることもできるようになります。イメージをかたちにする楽しさや、つくりあげた時の達成感は創造性を育みます。
こうしたあそびを通して感じる楽しさやおもしろさをお母さんやお父さん、お友だちと共有することも大切です。信頼感を持って人と関わる経験の積み重ねはコミュニケーション能力の発達にもつながっていきます。
それぞれの年齢や発育・発達にあわせたあそび道具というものがあり、それらが子どもの“生きるために必要な力”を育むのではないかと、私たちは考えているんです。
からだを動かすあそびが重要。知っておきたい「36のからだの動き」
――近年、子どもの運動能力の低下が問題となっています。子どもの発育発達学の専門家である山梨大学の中村和彦先生は、子どもが成長する過程で身につけるべき動作として、「36の基本動作」を推奨しています。この基本動作をできるだけたくさん身につけるように、からだを動かすあそびが重要視されているそうですね。
村井さん:36のからだの動きは大きく分けると、たつ/すわる/まわるといったからだのバランスをとる動き(平衡系)、はしる/のぼる/くぐる/とぶといったからだを移動させる動作(移動系)、なげる/つむ/たおすといったものを使う・扱う動き(操作系)、という3つに分かれています。
村井さん:36項目を並べてみると多いと思われるかもしれませんが、実はその大半は朝起きてから寝るまでの間に無意識にやっている動きでもあります。だから「これができない」とか、「この動きをさせないと」と神経質になる必要はありません。むしろたくさんからだを動かしてごはんを食べて、よく眠り、しっかり排泄する、という生活リズムをきちんと整えることが重要で、日々の生活の中でしっかりあそんでいれば、36の動きのほとんどはできているはずです。
――であれば、近くの公園や自宅でも36のからだの動きが刺激されるあそび方はできるということでしょうか。
村井さん:はい。日々の生活の中にある動きだから、特別なことはなにも必要ありません。いちばん手軽で豊かなのは、やはり自然の中であそぶことだと思います。自然は五感を刺激しますよね。おひさまが眩しいねとか、風が冷たいねといった時間や季節によっても違いがあって同じ日はありません。そういった些細なことでも子どものあそびを刺激する要因になると思いますよ。虫や草をじっと観察したり、きれいな石を集めたり、それだけでも立派なあそびです。
36の動きを促す仕掛けをふんだんに取り入れた「キドキド」
――2004年にスタートし、現在は全国に16箇所あるボーネルンドの室内あそび場「キドキド」。「ベビーガーデン」「ディスカバリータウン」「アクティブオーシャン」という3つのゾーンを自由に行き来し、自分の意思で好きなあそびに没頭する子どもたちの姿が印象的です。
村井さん:1990年代後半、子どもの体力が急激に低下していました。当時の日本は、学力低下ばかりが注目され、体力低下にはほとんど目が向けられていませんでした。わたしたちは、子どもの体力低下の大きな要因の一つが「あそび不足」だと実感し、日常的なあそびの機会をつくるため、2004年にキドキドを開発しました。
山梨大学の中村和彦先生に協力いただいた調査によると、先の“36の基本動作”のうち、キドキド内ではたった30分で26の動きを体験していたことがわかりました。とはいえ意図的に36の動きをさせようというものではありません。楽しくあそびながら自然とそれらの動作につながるよう、プレイリーダーが仕掛け人となって子どものあそびをサポートしています。
――最近は以前に比べて体を動かすことの重要性が認知されてきていますよね。特にあそびの中で育む非認知能力(コミュニケーション能力や意欲、忍耐力など学力とは異なる能力)が着目されています。
村井さん:非認知能力を伸ばすのに1番いいあそびが「鬼ごっこ」。年齢が違ってもみんなが知っていて、色鬼とか高鬼といったバリエーションも多く、あそびの中にちゃんとルールがあります。小さい子がいればその子に合わせて共通言語で説明しないといけない。走ったり、隠れたりする中で36の動きもかなり入ってきます。
村井さん:だからといって子どもに「鬼ごっこをやりなさい」というのはちょっと待ってくださいね。偶然集まった仲間と今日なにする? と言って楽しくあそびながら伸びていくのが子どもにとってはいちばんいいのです。
最近、子どもたちの生活の中に時間/空間/仲間の「3つの間」が少なくなっていると言われています。習い事に追われてあそぶ時間が少なくなってしまうことや、公園などのびのびとあそべる場所も少なくなってきています。さらに、ゲームやネットでのひとりあそびが増え、一緒にあそぶ仲間も減ってしまう。この3つの間が失われ、子どもたちのあそびが減ったことが、運動不足や体力の低下につながっていると考えられています。
子どもたちが取り戻すべきこの3つの間に、私はもうひとつ「ひと手間」も加えたいと考えています。私たち大人ができることは、子どもたちが失った3つの間を補完するひと手間を加えること。望ましいあそび環境を整えてあげることで、子どもたちの生活はもっと豊かになるのではないでしょうか。
子どもの個性を重視して、得意なことを一緒に見つめてあげる
――子どもによって活発だとか、おとなしいといった性質・個性もあります。せっかく環境を整えても、親の思惑通りにあそんでくれず、36の動作を満遍なくさせられないと焦ったり、心配してしまうお母さん・お父さんもいるのではないでしょうか。
村井さん:確かにあそびには、お子さんごとの特性も表れますね。せっかくキドキドにあそびに来たのに結局ブロックあそびしかしなかった、とがっかりされる親御さんもいらっしゃいます。そういう時に私たちは「夢中になってあそべることが素敵なんですよ」と伝えています。
子育てに関してもたくさんの情報があり選択肢の多い時代なので、ほかの子どもや平均値と比較して子育てが苦しい方もいらっしゃると思います。特にお母さんは多いかもしれないですね。子どもだってご機嫌が斜めな時もあるし、気分が乗らなかったという時だってあります。お子さんの表情や目の前で起きていることに一喜一憂しなくていいと正直思っています。
――あそびを通じて子どもは成長していく、学んでいくんだ。そう聞くと、子どもたちの自主性を重んじなければと思いつつも、よかれと思って「望ましいあそび」を押し付けてしまいそうになることもあります。最後に私たち親が子どものあそびにどう向き合っていったらいいか、アドバイスをいただけますか。
村井さん:たしかにあそびを通じて子どもたちは学び成長していきますが、発達や知育は目的ではなくあくまでも結果として捉えていただきたいと思います。
あそび道具もあそび場もあくまで手段・手法の選択肢の中のひとつ。私たちは指差し点検ではないですが、今起きていることを「ここがよかったけどどう思いますか?」とか「これは苦手だけどこれは得意ですよね」という会話をしながら、ポジティブに子どもを見ることを伝えています。
子どもの成長にはグラデーションがあって、この動きが洗練されてきたな、ということがゴールなんです。昨日よりも今日、今日よりも明日、よりスムーズにできたねとか、遠くに投げられたね、ちょっと早く走れたねという声掛けをして、自己自覚させることがポイントだと思います。つまり他の子どもと比べて見るのではなく、昨日の「きみ」より少しでもできるようになったら褒めてあげることが大事。
子育てに対する目線はこの20年で圧倒的に変わっています。子どもとのあそび時間のすごし方を大切にされる親御さんも増えたように思います。お母さん・お父さんには、自分の子どもの好きなこと、得意なことを一緒に見つめてあげる。あるがままの姿を応援する。それだけでいい。頑張らなくていいんですよと伝えたいですね。子どもだけでなく、親御さんも一緒にあそびを楽しんで欲しいと思います。
どのようなあそびに夢中になろうと、その熱中する姿こそが、子どもの成長の証。子どもたちのあそびに寄り添い、その楽しい気持ち、うれしい思いに共感することで、親子の絆は深まり、また親である私たち自身も新たな発見と喜びを見つけることができるでしょう。
子どもたちの笑顔あふれるあそびの時間は本当にかけがえのないもの。子どもたちが自由に、そして豊かにあそぶことを、心から応援してあげてくださいね。