一度なると本当につらい乳腺炎。「また痛くなってきたかも……」「どうして私ばかり繰り返すんだろう」と、不安な気持ちで毎日をすごしているママも多いのではないでしょうか。予防のためにと、食事を制限したり、必死にマッサージをしたり。
「乳腺炎になりやすいかどうかは、体質や環境も大きく関係しているんです。だから、『私の管理が悪かった』なんて思う必要は全くありませんよ」と語るのは、産婦人科医の吉村泰典先生。この記事では、乳腺炎を繰り返さないために知っておきたい、NG習慣と、無理なく続けられる予防のコツをご紹介します。
- 【この記事でわかること】
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Q. 授乳のたびに「搾り切る」べき?
A. 必要ありません。 赤ちゃんが欲しがるままに「飲ませ切る」のはOKですが、授乳が終わったあとに、手や搾乳器を使って空っぽになるまで「搾り切る」のは控えましょう。毎回空っぽにすると、からだは「もっと母乳が必要だ」と勘違いして分泌が増えすぎ、かえって詰まりやすくなる(過剰分泌)原因になります。
Q. 甘いものや脂っこい食事はダメ?
A. 医学的には、特定の食事が直接の原因になるという明確な根拠はありません。厳格な制限でストレスを溜めるより、バランスのよい食事と水分摂取を心がけましょう。
Q. 授乳間隔はどれくらい空けていい?
A. 個人差がありますが、空きすぎは「うっ滞」のもと。赤ちゃんが欲しがるタイミングが基本ですが、おっぱいが張ってつらいときは、おにぎりを握るくらいのやさしい力で、張りの痛みが少し和らぐ程度に母乳を出す(圧抜き)ケアをしましょう。
Q. マンモグラフィ検査はするの?
A. 乳腺炎の診断には、痛みの少ない「超音波(エコー)検査」が主流です。マンモグラフィは圧迫時に痛みが強いため、炎症が落ち着いてから行うのが一般的です。
Q. 予防のためにマッサージに通うべき?
A. 必須ではありません。日々の授乳で赤ちゃんに深く吸ってもらうことが一番の予防ケアです。
なぜ詰まる? 医師が挙げる「3つの主な原因」

気をつけていても、なぜかおっぱいが詰まってしまう。吉村先生によると、その背景には主に3つの原因があるといいます。
原因その1:「授乳回数の不足・間隔の乱れ」
最も多いのが、授乳の間隔が空きすぎてしまうこと。
「本来ならもっと回数が必要なのに、忙しくてあげられなかったりすると、行き場を失った母乳が出口に溜まってしまいます。すると、パンパンになった乳腺が周囲の組織を圧迫し、血流が悪くなって炎症のスイッチが入ってしまうのです。特に産後間もない時期は、リズムが整うまで時間がかかるものですから、自然にしていても乳腺炎になることがあります」(吉村先生)
原因その2:「母乳の過剰分泌」
自分ではコントロールできない「体質」も大きな要因です。医学的には「ハイパーラクテーション(過剰分泌)」とも呼ばれ、赤ちゃんの飲む量以上に母乳がつくられすぎてしまう状態を指します。
「一生懸命やっても出にくい人がいるように、体質的に『つくられすぎてしまう』人もいます。これも努力でどうこうできるものではありません。過剰分泌のタイプの方は、どうしても供給過多になりやすく、少し間隔が空いただけで詰まりやすい傾向にあります」(吉村先生)
原因その3:「薬剤の影響」
意外な落とし穴として、薬の影響があるといいます。
「風邪薬や精神安定剤など、一部の薬がホルモンに作用して、母乳の排出を抑えてしまうことがあります。つくられているのに出にくくなるため、うっ滞しやすくなるのです。もし授乳中に他の薬を飲むことになったら、念のため医師や薬剤師に相談してみると安心ですね」(吉村先生)
よかれと思ったら逆効果? やりがち「NG習慣」

「予防しなきゃ」とがんばるあまり、実は逆効果なケアをすることも“乳腺炎あるある”だそうです。そこで乳腺炎を引き起こしがちなNG習慣についてもご紹介します。
毎回「すっからかん」になるまで搾るのはNGです
「残すと詰まる」と思って、授乳のたびに搾乳器で最後の一滴まで搾っていませんか? 実はこれ、脳に「もっと母乳が必要だ」と指令を送ることになり、母乳の過剰分泌を招いて、かえってパンクしやすい状態をつくってしまいます。
「もちろん、赤ちゃんが欲しがって飲む分には、たくさんあげても構いません。それは自然な生理現象だからです。問題なのは、授乳のあとに『空っぽにしなきゃ』と人工的に搾りすぎてしまうこと。搾乳をするにしても『おっぱいが軽くなったな』と感じる程度で止めておく。その『ほどほど』が大切なんです」(吉村先生)
予防のための「強圧マッサージ」もやめましょう
「しこりを残さないように」と、痛いのを我慢してグリグリ押すのは絶対にやめましょう。組織が傷つくと炎症が起きやすくなり、本末転倒です。
「昔はマッサージでしこりを潰すような指導もありましたが、今は推奨されません。強い刺激は乳腺の組織を傷つけるだけでなく、プロラクチン(母乳をつくるホルモン)の分泌を促してしまい、かえって張りが強くなることもあるのです。マッサージをするなら、なでるくらいのやさしさで十分ですよ」(吉村先生)
乳頭だけを浅く吸わせるのもNG
赤ちゃんが乳首の先だけをちゅぱちゅぱ吸っている状態だと、おっぱいの奥にある母乳まで届かず、飲み残しが発生しやすくなり、乳腺炎の原因となります。また、その吸い方をさせていると乳頭が傷つく原因にもなります。
「一番多い原因は、赤ちゃんの『くわえ方』が浅いことです。先っぽだけ吸わせていても、奥の母乳は出てきません。赤ちゃんの口をアヒルのように大きく開けさせ、乳輪まで深くガバッとくわえさせること。これだけで、驚くほどスムーズに流れるようになりますよ」(吉村先生)
今日からできる! 再発を防ぐ「現実的な」工夫

特別な道具を用意したり、マッサージに通わなくても大丈夫。毎日の授乳の中でできる、ちょっとした工夫をご紹介します。
「ほどほど」の搾乳コントロール
おっぱいが張ってつらいときは、全部出し切らず、「圧が抜けて楽になる程度」に手でやさしく搾りましょう。これを心がけるだけで、母乳のつくられすぎを防ぎ、適度な量をキープしやすくなります。
「目安としては、パンパンに張った皮膚の突っ張りが消えて、『ふっと軽くなったな』と感じたところでストップすること。全部出し切ってしまうと、からだは『空っぽになったから、また満タンにしなきゃ』とがんばってしまいます。少し残しておくことで『もう十分足りていますよ』というサインを脳に送り、過剰な分泌を抑えることができるのです」(吉村先生)
授乳ポジションのローテーション
いつも同じ抱き方だと、おっぱいの同じ場所ばかり吸われて、別の場所に母乳が溜まりがちです。「横抱き」「縦抱き」「フットボール抱き(わき抱き)」など、時々抱き方を変えてみましょう。
「実は、赤ちゃんのあごが当たる方向の母乳が、最も強く吸い出されると言われています。ですから、もし『おっぱいの外側が張っているな』と感じたら、フットボール抱きのように赤ちゃんのあごが外側に来るよう抱き方を調整してみるのがおすすめです」(吉村先生)
〈▲ こちらがフットボール抱き。ラグビーボールを小脇に抱えるような姿勢です。このとき、ママの手のひら全体で、赤ちゃんの頭(首の後ろ)をしっかりと支えてください、通常の「横抱き」とは赤ちゃんの吸う角度が変わるため、特におっぱいの外側・脇側の詰まりに対して効果的です〉
「抱き方を変えることで赤ちゃんの口の角度が変わり、いつもより深くくわえさせやすくなるというメリットもあります。毎回変える必要はありませんが、1日の中でローテーションするだけでも、飲み残しによるムラ(うっ滞)を防ぐ効果がありますよ」(吉村先生)
締め付けない下着選び
ワイヤー入りのきついブラジャーや、サイズの合わない下着は、乳管を物理的に圧迫して流れを悪くすることがあります。
「乳管はとてもデリケートな管です。下着のゴムやワイヤーで外側から圧迫され続けると、そこがせき止められて流れが悪くなり、詰まり(うっ滞)の原因になることがあります。特に授乳期間中は、サイズも変わりやすい時期です。デザインよりも機能を重視して、ゆったりとしたノンワイヤーや、締め付けの少ない授乳用ブラジャーを選んで、乳房を圧迫から解放してあげましょう」(吉村先生)
「断乳」ではなく「卒乳」を。長期視点での予防

職場復帰などのタイミングで乳腺炎になる方も少なくありません。吉村先生は、長期的な視点での予防として「卒乳」という考え方を提案します。
「昔は『職場復帰するから断乳しましょう』といって、ある日突然ピタッと授乳を止めることもありましたが、急な断乳は乳腺炎のリスクを一気に高めます。今は『断乳』から『卒乳』の時代。授乳を続けながら職場復帰するケースも増えていますし、もし止めるにしても、徐々に回数を減らして、からだと赤ちゃんを少しずつ慣らしていくことが大切です。焦る必要はありません。ご自身のペースで、おっぱいと付き合っていってくださいね」(吉村先生)
乳腺炎を100%防ぐ魔法はありません。ママの体調や赤ちゃんの飲みムラで、なるときはなってしまいます。だからこそ、「予防できなかった」と落ち込むのではなく、「あ、ちょっと張って痛いかも。よし、しっかり飲ませて、あとはパパに家事を頼んで早く寝よう」と、変化に早く気づいてからだを休めることを目標にしましょう。あなたは十分がんばっています。完璧を目指さず、まずはご自身のからだを一番にいたわってあげてくださいね。

- 【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)
- 慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。









