結婚したら仕事をやめる「寿退社」の時代から、育児休業が当たり前の世の中になっていますが、マタニティハラスメント、いわゆる“マタハラ”という言葉も聞かれる時代です。しかし、従業員の幸せを願う気持ちは、どんな業種、どんな業態の会社でも同じ。それを、先進的な取り組みとして形にしている、ある企業の事例を紹介します。
「働く意欲のある人はやめる必要がない」 名物社長のモットー
「株式会社日本レーザー」(東京都新宿区)は、理科学用・産業用のレーザー機器を扱う輸入商社。従業員は60人ほどですが、年商約40億円の会社です。2011年の第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞や、今年度の「ワークライフバランス認定企業」(東京都)の選出など、さまざまな団体から表彰されています。同社代表取締役社長の近藤宣之さんは、厚生労働省の「女性の活躍推進協議会」委員にも選ばれ、全国各地で講演することも多いそうです。
近藤さんは、それまで勤めた一部上場企業や、経営に携わったアメリカの企業で、会社の都合で社員をやめさせるリストラを目の当たりにしてきました。そして、それは企業のあり方としては正しくないと感じ、社長になって21年間、自社のモットーを「人を大切にする会社」とし、それを実践しています。
株式会社日本レーザー 代表取締役社長 近藤宣之さん
「現在も日本では60%くらいの女性が、子どもの出産で仕事をやめてしまいますが、働く意欲がある人はやめる必要はありません。うちの会社では、来年初めに30代後半と40代の女性課長が産休に入る予定です。二人ともベテランですが、一人は新卒で入って、18年ほどたっていますから、そこまで育つのに相当な時間がかかっているわけです。だから、せっかくの能力のある社員を退職させるより、結婚して、子どもを産んで休んで、また会社に復帰してもらうほうがいいのです。これまで4年連続で育休産休が出ています」
出産、育児でやめる人を会社が出さないことは、さまざまなメリットがあるそうです。
「子どもを育て、仕事もするということは、妻として、母として、社会人として3つの仕事をするということ。それはとても大変なことです。だけど、女性の生きがい、働きがいが満たされます。そして、その人たちの会社への感謝や忠誠心、会社に貢献しようという気持ちは、会社にとって無形の財産なんです」。また、「そういう人たちがいると、他の社員にもいい影響が出るんです」と近藤さん。「会社には目に見えない社風とか企業文化がありますが、それが育まれるのです」。