「ビジターによる訪問はすべてボランティア活動で、そこにお金を介さないことが双方にとってよい意味での距離感を生んでいる」と森田さんは言います。確かに有料のサポートとなれば、頼む方はお金を払っているのだからこのくらいやって欲しい、頼まれるほうもお金をいただいているのだから言われたことはすべてやらなくては、という気持ちが働いてしまいそうです。しかし、ボランティア活動というスタンスであれば、わざわざ訪問してもらえることに自然と感謝の気持ちが湧き、頼むほうも頼まれるほうも過剰な関わり方になることを防ぎます。
ビジターが家庭の中に入っていくことで、「その家庭のさまざまな問題と遭遇するのでは?」と心配の声もあがりそうですが、第三者が家庭を訪問することにより、問題が深刻になる前にその芽を摘み取る効果があることが、世界中のホームスタートで実証されているそうです。もちろん「これは専門家の範疇」と判断した場合は、すみやかに専門家の手に委ねるそう。その場合も、第三者が入ることで確実に早く専門家へと繋ぐことができるので、家庭訪問型のボランティアの意義は大きいと考えられています。
これまでにさまざまなケースを見てきた近江さんは、「ボランティアスタッフが専門家である必要はなく、ママ友みたいな気持ちで寄り添うことが大切だと思う」と話します。
「子育てに行き詰まりを感じるお母さんたちが必要とするのは、ガス抜きです。子育てを手伝ってもらう以前に、他愛もないことを話すだけで気分はずっと楽になるので、まずは話を聞くこと。お母さんたちの気持ちが満たされれば、自ずとそれまで悩んでいたさまざまな事柄も解決に向けて動きだすものなので、うまくまわっていくきっかけ作りのお手伝いがホームスタートのサポートだと思います」(近江さん)
現在、和光市のホームスタートにはビジターさんが約30人登録しています。実際にビジターとして活動する宮坂さんと田中さんに話を聞いてみました。
「まったく大変そうに見えなかったのに、本当はSOSを言いたかったんだということに驚きました」(田中さん)
「私が利用者の話を聞くだけで、本当に役立てているのかな?と思う気持ちもあるのですが、お会いした時に嬉しそうな顔をしてくれるのをみると、少しは役立てているのかもと思いました」(宮坂さん)
お二人とも利用者から「ありがとう」と言われたり、言葉では表現されなくても楽しそうにしている表情をみたりすると、とてもうれしい気持ちになるそうです。
ちなみに、ホームスタートではビジター訪問期間終了後も、双方から希望があればオーガナイザーを通して互いの連絡先を交換することができます。サポート終了後はホームスタートボランティアとしてではなく、地域の友人・知人としてのお付き合いに変わるというわけです。
和光市では、ホームスタートの支援サポートを経て、終了後は「もくれんハウス」に親子で顔を出すようになる人も少なくないといいます。この日も過去にホームスタートを利用したことがあるというママが、お子さんを連れて遊びに来ていました。友達はもちろん、ひとりも知り合いがいない土地で出産して、完全に気持ちが行き詰まってしまった時に、偶然張り紙で見かけた子育て支援情報がホームスタートだったそう。すぐにコンタクトを取り、いろいろと話を聞いてもらい、力になってもらった経験があると教えてくださいました。
「ホームスタートさんには本当にお世話になりました。頼れる知人がいない上に、双子だったのでもう精神的にも本当にまいってしまって。そんなタイミングで家に来て話を聞いてもらえただけでも、とても気持ちが救われました」(双子ちゃんのママ)
また、別の利用者からは次のような声も。
「ビジターさんが思いっきり一緒に遊んでくれたことで、上の子の赤ちゃん返りが落ち着き、優しい気持ちで子どもと接することができるようになりました。私にも子どもにとっても、よい時間が持てました」(2歳の男の子・2か月の赤ちゃんのママ)
「今まではイライラした気持ちを子どもへぶつけてしまっていました。先輩ママのおかげで、穏やかな気持ちで子どもと接することができるようになりました。もし、私と同じように悩んでいるママさんがいたら、私もビジターさんのように支えてあげたいと思いました」(4歳の女の子のママ)
オーガナイザーの森田さんは言います。
「地域に密着したボランティアの最大のメリットは、ボランティア活動が終わった後も地域の中で繋がっていけることです。たとえば、すでに自分の子育てが一段落付いている人もビジターさんとして関わることで、同じ地域で生活する親子やその子育て環境について関心を持って接するようになります。それは、地域にとってはとてもよいこと。また、子育て中の親御さんたちもボランティア支援をきっかけに地域に馴染んでいくケースが多いので、子育てボランティアという枠を超えた“地域力”“コミュニティ力”を上げる効果があると実感しています」(森田さん)
ホームスタートのボランティア活動は、子育てに行き詰まっている親子の支援を行いその関係性を継続することで、地域全体の子育て環境を整える役目も果たしていることがわかります。
和光市のホームスタートが立ち上がったのは2010年のこと。さまざまな活動を通して子育て中の親の声を拾うと「妊娠中が一番しんどかった」という意見が多く聞かれ、現在プレママを対象にした取り組みも思案中とのこと。ホームスタートは子どもが0歳から6歳までの家庭が対象者となっているので、新たによいネーミングを考えなきゃいけない」と森田さんは笑います。
地域をベースにした家庭訪問型子育て支援のホームスタートは、全国に70か所以上あります。興味がある方はぜひお近くのホームスタートに気軽にコンタクトを取ってみてはいかがでしょうか。
【お問い合わせ先】
■特定非営利活動法人ホームスタート・ジャパン事務局
〒169-0072 東京都新宿区大久保3-10-1 B棟2F
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■ホームスタート・わこう(NPO法人わこう子育てネットワーク)
〒351-0115 埼玉県和光市新倉1-16-22 おやこ広場もくれんハウス方
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