――CM撮影の現場は、多くの機材があったり、見知らぬスタッフに囲まれたり、赤ちゃんにとっては落ち着かない環境だと思うのですが、井上さんは非常に自然な笑顔をカメラに収めています。何か特別なテクニックはあったのでしょうか?
井上: いえいえ、実はこんなにたくさんの赤ちゃんを撮影するのははじめてで、特別なテクニックはなかったのですが、今回自分の中で狙っていたのは「表情が変わる瞬間」でした。一口に赤ちゃんといっても、それぞれ性格や特性みたいなものがあって、撮影中もおもちゃに反応する子、音に反応する子、大人の動きに反応する子などいろいろいました。たとえば音や大人の動きに反応する子の場合、カメラの右側にお母さんにいてもらって、その反対側で僕がちょっと動いてみたり、音を鳴らしたりすると、赤ちゃんがパッと振り返って笑ってくれたりするんです。それがまたかわいくて…。
――表情が変わる瞬間をとらえるのは、いいアイディアですね!
井上: はい、顔が明るく生き生きした瞬間を捉えたかったので。今回このお仕事で僕が一番大切だと思っていたことは、とにかく赤ちゃんをかわいく撮ること。まず、どんなことを赤ちゃんがやっていたらかわいいのかということを可能な限り考えました。
そのため、お風呂に入る、ブランコに乗る、キッチンの道具を楽器のように使うなどあらゆるシチュエーションを想定し、準備しました。最初の撮影は、男の子がベッドでつかまり立ちをしているシーンでしたが、ベッドの外へ出たいというポジティブで好奇心旺盛な場面が表現でき、そのうえたくさん声の出る元気な子だったので、幸先のいいスタートでした。
――自分のお子さんを撮るときも、シチュエーションを考えてみるというのは大事なことかもしれませんね。
井上: そうですね。赤ちゃんを撮影するときは、実は“予想”することがとても大事です。
さっきこう動いたから次こっちに来るだろうということをイメージしてカメラを構える。
それがイメージ通りになった時はいい画が撮れた時です。
――赤ちゃんの動きを予想するわけですね。それを考えながら撮るのも楽しいでしょうね。
井上: そうですね。また、予想通り動かなくても、偶然に「いい画」が撮れることもあります。赤ちゃんの撮影は、ドキュメンタリー作品を撮るようなものだと思っていて、撮れたものがすべてリアルな作品となります。逆に、子どもが言葉を理解するようになると、意識してポーズをとったりするので(それはそれでかわいらしいのですが)、本当の“素”の姿を撮影するには、赤ちゃんの頃に限られるのかもしれません。
――たしかに親の要求どおりに動いてくれないから、撮影に困ることもありますが、逆にそれが醍醐味でもあると。
井上: ええ。彼ら、彼女たちが好きに動く、その姿を撮るとういうことがすごくおもしろいんだと思います。今度はこちらに顔を向けるだろうなと予想して、「あ、向いた」という瞬間を撮る。撮影者としては、そういう喜びがあります。