特別対談
少子化や待機児童はどうなる?
「2020年以降の日本の子育て」

2017.04.27

ミキハウス編集部

◆深刻な待機児童問題……でも、実は保育園は足りている?

——一人一人が少子化について問題点、課題点をきちんと認識すべきということですが、例えば吉村先生は産婦人科医ですが、そのお立場からその他にも何か思われるところはありますか?

吉村:子どもを産むということについての考え、意識の変革が必要だと思います。いまの若い世代は、生殖に関する知識が非常に乏しい。これは学校教育で、避妊と性感染症についてばかりを一生懸命教え、生殖に関する知識を教えてこなかったことに因ります。どうやったら子どもができるのか、つくりやすいのかということも教えていかないといけないんです。我々産婦人科医も、学校教育でそれらを教えてこないといけなかった。ですから生殖活動の減少は、ある意味、いまの若い女性、男性が悪いわけではなくて、教育する側、我々が大いに反省すべきことなんですよ。

——少子化を克服した国では、そのあたりもしっかりやっているということでしょうか?

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吉村:ええ。欧米では、そうした教育は、ものすごい若いうちからやっています。女の子に月経がきたとき、「そういうこと」を詳しく教えます。もちろん日本でもやりますが、それ以上に。たとえばお母さんが産婦人科に連れてくるんですね。そして産婦人科で避妊のピル飲む。ピルというのは避妊のためだけに飲むのではなく、8割は月経を改善するため、痛みを取ったり出血量を減らすために飲むんです。だけど、日本ではそういったことがなく、産婦人科の“垣根”が非常に高い。本来産婦人科は、妊娠したときだけではなくて、女性がよりよいライフをすごすために行くものなんですが、そうは思われていません。ここも教育をしてこなかった我々自信が反省すべきことかもしれない。

——松田先生は社会学というご自身の専門の立場から思われるところはありますでしょうか?

松田:社会学の分野から日本の子育てを見ていて2点思うところがあります。ひとつは、子育てをするとパパ友、ママ友ができること。それにより子どものネットワークが増えていくんです。そして親自身においては、色んな情報が入ってくることで育児不安からくるストレスが下がります。もうひとつは悪い話なのですが、かつて私も関わった内閣府が行った調査で、海外で子育てをしたことのある日本人100人に聞いたところ、みなさん声を揃えて「海外の方が子育てをしやすかった」とおっしゃったんです。

——安心・安全で教育レベルも高いなど子育てしやすい環境が日本では揃っているのに、それでも海外の方が子育てしやすいと…。どうしてでしょうか?

松田:もっとも多く共通して出てきた理由は、他の国の方が子どもを連れて歩いているときに声を掛けてくれたから。シンプルなことですけど、すごく大事なことなんですね。もちろん声掛けだけでなく、困ったら手助けしてくれる。日本ではそれがほぼないので、子育て中の親はすごく孤独を感じるらしいんです。

吉村:それ、すごくわかりますね。僕も子どもが4歳くらいのときに一緒にアメリカで暮らしていたんですけど、みなさんが本当にすぐ「かわいいね」って声をかけてくれました。それだけでね、うれしいものなんですよ。ただ、日本ではそういうことはあまりない。日本はそういうことができないような社会になっているのかもしれないですね。

——「子育て中の親が暮らしづらい社会」とまで言うと大袈裟かもしれませんが、そうした傾向は昔からあったのでしょうか?

松田:一般的に言われていることとしては、過去の方が地域の付き合いがあったと。

吉村:それがいつからか核家族になって、都会への流出が増えて非常に変わってきましたよね。子育てを支援する上では、そういった社会を形成していくということも大事かもしれません。たとえば、待機児童問題で保育園を作ろうとしたとき、周りの住民がうるさいと反対することがありますね。個人的にはこういう反対運動があるのはさみしいことだと思ってますが…松田先生はどう思われますか?

松田:私は、その部分に関しては住民の意見の通りだと思います。

吉村:おや、そうですか(少し驚きの表情で)。その意図は?

松田:そもそも保育園が足りない地域、特に東京23区内では、住宅地の中などかなり“無理なところ”にも建てようとしていますよね。それじゃ、反対する人がいるもの仕方ないことだと思います。社会正義を盾に、一部の人に負担を押し付けるのはあまりよくないことだと考えています。

吉村:ただ保育園は足りていませんね。

松田:僕はそこから疑いを持っています。人口減少なども含めると、むしろ保育園はすでに設置しすぎなくらいあります。いまある施設、いまある制度をうまく使っていくだけで、保育園にそこまで頼らずとも子育てはできます。たとえば育児休業。子どもが0歳児のとき育児休業をしっかり取るようにできれば、その分保育園に空きが生まれます。そこに1歳児、2歳児を持っていけば、現状の保育園の数があれば一瞬で待機児童はなくなります。

吉村:なるほど。先生は育児休業について、どのくらいの期間で考えていますか?

松田:1年から2年です。もうしっかり取ってもらいます。

吉村:結構長い期間ですね。

松田:スウェーデンなどはそうなんですよ。あの国では0歳児保育がない。ノルウェーもそうです。少なくとも0歳児のうちは在宅でやっていくというのがヨーロッパの流れです。誤解を恐れずに言うと、日本の子育ては保育園に頼りすぎています。現状の制度をうまく運用したり、拡張すれば多くの問題は解決します。そもそも日本においても、80%の自治体では、待機児童はいません。問題になっているのは、ひたすら東京の23区内です。

吉村:たしかに東京でも、あと5年くらいたったら保育園は余ってくると思います。一生懸命、新しい施設を作ることばかり考えずに、たとえば幼稚園をもう少し上手に使ったりする方法を考えた方がいいのかもしれない。もちろん一律に育児休業を1年も2年も取りましょうということであれば、それはそれで現実に即していないとは思います。もっと早く現場復帰したいお母さんも多いでしょうし。

松田:そうですね。そこは選択肢に幅があってもいいと思います。ただ例外を除いて0歳児は在宅でじっくり子育てできるような社会になれば、現在の待機児童問題は解消される。そのことは知っていてほしいですね。

——待機児童問題を考えるにあたっては、ついつい新規施設をつくることに考えがいきがちですが、もっと他のやり方もあるというご意見は大変勉強になりました。

松田:ただ、これは「僕の考え」であって正解かどうかはわかりません。少子化に関しては、長期的な取り組みをしないと回復していかない性質のものですので、そこは曖昧にならず、目標を掲げ続けることが必要だと思っています。今後も、いろいろな可能性については是々非々で議論していきたいと思います。

吉村:そうですね。いまの少子化の問題は、経済的、政治的、さまざまな問題を包含しています。少子化というのは一番難しい課題でもあり、放置すると日本という国がなくなってしまいかねない。だからこそ、もう少しみんなが真剣に考えて欲しいと思うんですよ。ひとりひとりがもっと危機感を持って、自分の子ども世代のために何かしていかないと。子育てをしっかりすることはもちろん大事です。ただ、子どものことを思うなら、目の前の子育てだけでなく、この国がどのような国になるのかということを長期的な目で見る必要があると思いますよ。

 

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【プロフィール】

吉村泰典(よしむら・やすのり)
1949年生まれ。産婦人科医、慶應義塾大学名誉教授。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次・第3次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。

松田茂樹(まつだ・しげき)
1970年生まれ。中京大学現代社会学部教授。専門は少子化対策、子育て支援、家族論。第一生命経済研究所主席研究員をへて現職。内閣府「少子化危機突破タスクフォース」構成員。著書に『少子化論―なぜまだ結婚・出産しやすい国にならないのか』、『何が育児を支えるのか―中庸なネットワークの強さ』、『揺らぐ子育て基盤―少子社会の現状と困難』など。

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