私達は新型コロナウイルスにより、嫌というほど感染症の恐ろしさを知りました。そして、言うまでもなく感染症は新型コロナだけではありません。
特におなかで赤ちゃんを育てているプレママにとって、最も気になる感染症は風しんです。
実はこの1年、国内外の人の移動が少なくなり、マスクや手洗い、3密を避けるなどのコロナ対策が功を奏して、多くの感染症が減少しています(※1、※2)。しかしながら「今の状況のままでは数年後には、風しんが再び流行する恐れがあります」と指摘するのは、国立感染症研究所感染症疫学センター室長で医学博士の多屋馨子先生です。
感染が収まっている今だからこそ気をつけたいプレママの風しん予防策とプレパパのワクチン接種の重要性について、多屋先生にお話を伺いました。
風しんウイルスは新型コロナウイルスよりも感染力が強いです
2月4日は「風疹(しん)の日」。出産準備サイトでは、改めて風しんについて考えたいと思います。
風しんとは、風しんウイルスに感染することで発症する病気で、主な症状は、発熱、発疹、リンパ節の腫れなど。感染経路は、飛沫感染と接触感染に加えて、先天性風しん症候群を引き起こす母子感染があります。
風しんは比較的症状が軽い感染症としてとらえられがちですが、多屋先生は「みんなが軽い症状というわけではありません」と教えてくださいます。
「2018年から2020年の3年間で風しんを発症した5,342人のデータを見ると、約250人にひとりが血小板減少性紫斑病(出血しやすく、出血が止まりにくくなる病気)にかかっていますし、風しん脳炎を発症した人もいます。2012~13年の大流行では、もっと大勢の方が合併症に苦しみました。特に大人の場合、長く続く高熱や関節痛につらい思いをする方も少なくないようです」(多屋先生)
新型コロナで無症状の感染者の存在が取りあげられていますが、風しんの場合もこうした不顕性(ふけんせい)感染の患者さんが15~30%ほどいると推定されています。感染してから発症するまでの潜伏期間が約2~3週間と長く、発症の約1週間前から感染力を持つために感染に気づく前に他人にうつしてしまう可能性も大きい病気です。
また風しんウイルスは、全員が免疫を持たない人の間での“基本再生産数”(ひとりの感染者から何人にうつるかを示す数)が5~7と感染力が強いのも特徴です。この年末年始に新型コロナウイルスが激増していると言われた時でも、「実効再生産数が1を超える水準」でしたから、風しんがいかに強い感染力を持っているかが分かります。
そして、風しんウイルスの感染を考える際、忘れてはならないのはプレママ、そして胎児への影響です。プレママが妊娠20週頃までに風しんウイルスに感染すると「先天性風しん症候群」を引き起こす恐れがあります。
「先天性風しん症候群」とは、おなかの赤ちゃんに難聴や白内障、心疾患などが起こる先天性の異常。専門家として風しんと先天性風しん症候群の予防医療に携わる多屋先生によると、妊娠初期のプレママの感染は特にリスクが高いそうです。
「妊娠20週ぐらいまでは、妊婦さんのおなかの中で赤ちゃんの耳や目、心臓などの器官ができ上がっていく時期です。妊娠1か月で風しんを発病すると、50%以上の赤ちゃんに異常が起き、2か月で35%、3か月で18%、4か月で8%程度の赤ちゃんに影響するというデータがあります。ですから、妊娠中は感染しないように十分に気をつけていただきたいと思います」(多屋先生)
プレママは予防接種の記録を母子健康手帳などで確認してください。記録が見つからなければ、医療機関で抗体検査を受けて確かめることもできますので、プレママはもちろんのことプレパパも妊娠前に抗体の有無を調べるようにしてください。