“本当の被害者”は赤ちゃんです 風しんの日に考えたい、大人としてやるべきこと

“本当の被害者”は赤ちゃんです
風しんの日に考えたい、大人としてやるべきこと

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2月4日は「風しんの日」です。日本産婦人科医会が母体の「“風疹ゼロ”プロジェクト」と厚生労働省が、抗体検査やワクチン接種を呼びかけるイベントを実施するなど、風しんについての正しい理解を広める取り組みが行われています。

風しんは“三日ばしか”と呼ばれるように、ほとんどの人にとっては熱と発疹が出るものの数日で治ってしまう一過性の感染症。ですが、妊娠初期のプレママがかかると、生まれてくる赤ちゃんが「先天性風しん症候群」となる可能性もある怖い病気なのです。そこで今回は“風疹ゼロ”プロジェクトの実行委員長で産婦人科医の平原史樹先生に、先天性風しん症候群をなくすために社会ができることなどについてお話を伺います。

 

風しんは子どもではなく、大人の病気となっています

眠る赤ちゃん

――妊婦さんにとって風しんは怖い病気ですよね。特に妊娠初期のプレママが風しんに感染すると、お腹の中の赤ちゃんが風しん先天性症候群となってしまう可能性があります。出産準備サイトでも過去記事で度々警鐘を鳴らしてきました。先生は何年もこの問題について長年取り組まれていますが、まずは現状についてどのような認識をお持ちでしょうか。

平原先生:解決できうる状況は整っているにも関わらず、そうなっていない…というもどかしさを感じています。ご存知ない方も多いかと思いますが、アメリカの疾病管理予防センター(CDC)は2018年10月から日本への渡航についてレベル2のアラート(※1)を発しています。これはコンゴ共和国のエボラ出血熱と同レベルの警告で、風しん抗体を保有していない妊婦さんは日本へ旅行すべきではないという内容です。グローバルな基準で見ると、日本の妊婦さんはそんな危険にさらされているということ。私たちは医療従事者として危機感を持って情報を発信していかなければならないと感じています。

――おっしゃるとおりですね。一方で、風しんに対する危機感はなかなか広まっていかない、という印象もあります。

平原先生:はい。風しんについての社会の認識を変えなくてはなりません。20年ほど前までは、風しんは主に子どもの間で、5~6年周期ではやる感染症でした。しかし合計2回の定期予防接種が制度化され、子どもの間で流行することはなくなっていきました。しかし、2004年頃から大人の患者が目立つようになったのです。つまり日本では2000年代に、風しんは子どもから大人の病気になったとも言えます。そして今や、風しんは職場で男性が感染源になって広がるケースが8割と言われています。

――事実上、大人の男性が風しんウイルスを媒介しているというわけですね。なぜそうなってしまったのでしょうか?

平原先生:予防接種の機会に恵まれなかったことが大きいですね。特に1962年(昭和37年)4月2日から1979年(昭和54年)4月1日の間に生まれた男性は、風しんの予防接種を受けるチャンスがなかったために抗体を持っていない人が圧倒的に多い。5人に1人は抗体を持っていないと考えていただいて結構です。この割合は非常に多いですね。妊娠を考えている女性、もしくは妊娠の可能性がある女性にとっては、とても望ましくない状況といえるでしょう。

――ちなみに女性の方が抗体を保有率が高いですね。妊娠を望む女性が抗体をしっかり持っていれば、自己防衛はできますか?

平原先生:ワクチンを2回接種してしっかり抗体持っていれば、かなり安心はできますが、それでも100%ということはありません。自己防衛の意識は大切ですが、同時にすべきは社会から風しんを根絶することなんですね。今は誰もが安心して妊娠できる社会にはなっていないわけですから。

――そこの危機感を持ってほしいということですよね。

平原先生:はい。無理に怖がる必要もないし、妊婦さんが風しんにかかったからといって、イコール先天性風しん症候群の子どもが生まれてくるわけではないです。ただ、正しい危機感はもっと広まってほしい。なので妊娠を考えている段階で抗体検査を必ずしてください。妊娠が分かった時に無料で風しん抗体価の検査を受けられるようになっているのですが、その検査は母子手帳を交付された後、妊娠4か月ぐらいで行われます。先天性風しん症候群は妊娠20週以内に感染した場合に一番リスクが高くなりますから、手続きを踏んでいる間に感染する可能性もあります。だからこそ、妊娠を考えている段階で抗体価検査をしてください。自治体名と風しん抗体検査と入れて検索すると、実施医療機関などを簡単に調べることができますよ。原則、各市区町村ですべてパートナーや同居人も含めて無料検査してもらえるので、是非検査してもらってください。

風しんが“大人の感染症”となったことで、被害を受けるのは赤ちゃん

指をしゃぶる赤ちゃん

平原先生:先ほど「日本では2000年代に、風しんは子どもから大人の病気になった」と話しましたが、大きな転換点となったのは2004年。この年の風しんの流行で、大人の風しん患者が増え、その結果妊婦さんまで感染してしまって、全国で10人の先天性風しん症候群の赤ちゃんが生まれました。つまり、新生児の心臓や聴覚の異常がママの風しん感染によるものと断定された件数が1年で10例あったと。例年1件あるかどうかだったのに、いきなり10件ですからね。これには国も危機感を持ったし、メディアでも大きく取りあげられました。

――今から15年以上も前のことですね。

平原先生:10名というと少ないじゃないかと思われる方もいるかもしれませんが、妊娠中に風しんと診断されたために、わが子が先天性風しん症候群になる可能性を考えて、断腸の思いで人工中絶をされた人も少なからずいたことでしょう(とても悲しいことですが)。また風しん感染に気づかずに出産した場合、赤ちゃんの心臓に異常があっても先天性風しん症候群という診断にはなりません。生まれつき心臓に疾患のある赤ちゃんは少なくないので、その中に埋もれてしまったケースもあるのではないかと考えられます。

――数字には現れていない“被害者”も少なくないだろうということですね。

平原先生:そうだと思います。当時は患者の数をきちんと把握していなかったので、あくまで推定ですが、2004年の流行では推定で4〜5万人ぐらいの人が感染したのではないかと言われています。これはまずいということで、2004年に厚生労働省に風しんの研究班が発足し、「緊急提言」が出されました。この提言には4つの骨子があって、まずワクチンの未接種者をなくすこと、それから風しん患者の全数把握をすること、3つ目はワクチンの2回接種の実現、最後に妊婦さんの相談窓口の設置でした。2006年までに未接種者の問題以外はほぼ解決できていましたが、未接種者へのワクチン接種という課題だけが残ってしまいました。

――その残された課題が、数年後の大流行を生むことになったわけですね…。

平原先生:そうです。ワクチン未接種の男性が一定数存在する限り、日本から風しんをなくすことはできません。僕らは再流行が起こるのではと心配していたところ、2011年から海外で感染して帰国後に発症する例が各地で見られるようになり、2013年には爆発的な流行となって1万4000人超の人が感染したと報告されています。それで、その年に生まれた赤ちゃんのうち32人が先天性風しん症候群と診断されました。約5万人が感染した2004年は10人だった先天性風しん症候群の赤ちゃんが、感染者数が約1万4千人の2013年には32人になってしまったというのは憂慮すべき状況です。

――感染者数は減っているのに、先天性風しん症候群の赤ちゃんは増えている。なぜ、そんなことになっているのでしょうか?

平原先生:2013年の感染者がほとんど大人だからです。風しんのワクチン接種を受けていない男性たちが働き盛りになり、軽い風邪のような症状では病院にも行かないし、仕事を休むこともありませんから、職場での感染が繰り返されるようになってしまった。事実、職場で感染した妊婦さんもいますし、男性が家庭に持ち帰ってパートナーの妊婦さんが感染したというケースも少なくないんです。重症化することもありますが、基本的には大人にとって風しんは重い病気とは言えないかもしれない。でも自分のためではなく、社会や小さな命のために、意識を変えてほしいのです。同じ社会で生活をする以上、抗体を持たないことは“凶器”にもなりうるということを自覚してほしいです。

マスクをして働く男性

企業が協力をすれば、子どもたちを先天性風疹症候群から守れるはず

2013年の大流行以降、厚生労働省は2014年に「風しんに関する特定感染症予防指針」(※2)を策定し、2020年までに日本から風しんをなくすことを宣言。そして医療関係者らを中心に、パパ世代のワクチン接種をいろいろな形で呼びかけてはいますが、2018年からまた風しんの流行が始まっています。

平原先生:この状況を食い止めるためにはとにかく“ワクチン空白世代”の接種率をあげるしかありません。そこで国は2019年4月から1962年(昭和37年)4月2日から1979年(昭和54年)4月1日の間に生まれた男性を対象に抗体検査とワクチン接種が無料で受けられるクーポン券の配布を始めました。

――妊婦さんや妊娠希望者のパートナーでなくても、その世代の男性であれば無料で抗体検査とワクチン接種が受けられるようになっているというわけですね。実は私も対象者で、昨年に利用させていただきました。自治体から送られてきたクーポン券を持参して、近くの医療機関で血液採取。その1週間後に検査結果を聞きにいきました。おかげさまで抗体は十分にあったので、ワクチン接種の必要性はありませんでした。

平原先生:それはよかったです。ただこの施策も認知度が低いからか、今の段階での実施率は対象者のわずか15%にとどまっています。検査や接種ができる医療機関はたくさんあるのですが、働いている男性にとってはそのために休みをとって病院に行くのはちょっと難しいというのが現実なのかも知れません。

――なるほど。たしかに風しんという感染症が妊婦さんや社会に及ぼす影響を認識している人は多くないな、という実感はあります。もしくは情報として知っていても、どこか“自分ゴト”として捉えられていないような…。

平原先生:そうですね。個人の当事者意識を高めるのは、なかなか難しいと思います。そこで以前から、なんとか職場ぐるみで取り組んでもらえないかと考えています。健康診断の時に対象者だけ検査項目を増やせばいいわけですからね。しかも今は、検査代やワクチン代は100%公的負担でまかなえます。

――企業の健康診断に組み込むということです。たしかにそれが広く実現できれば、検査率はかなり上がりそうですね。

平原先生:そう思いますね。すでに健康診断のメニューに入れている企業もありますが、それがもっと大きく広がっていけば…。企業ぐるみでこれから生まれてくる子どもたちを先天性風疹症候群から守ろうという風潮が生まれれば、一気に変わってくるのではないかと思いますね。

妊娠を希望する女性とパートナーのための無料の抗体検査もあります

妊婦

平原先生:風しんウイルスは海外渡航者が感染して持ち帰るケースと、海外からやってくる外国人の方が持ち込むケース、大きく2つあります。今年は東京オリンピックが開催されて、海外から多くの観光客が訪れるので風しんに限らず、感染症に特に気をつけなくてはいけません。ただ世の中のみんなが1歳以上でワクチン接種を2回して、90%以上の人が抗体を持っていれば、たとえ海外から持ち込まれることがあっても風しんは流行しません。“ワクチン空白世代”の抗体保有率は75~80%なので、あと10~15%の人が抗体を持てば、風しんが流行することはなく、先天性風しん症候群の赤ちゃんが生まれるリスクは格段に減ります。ほんのひとかたまりの人の意識と行動が変わるだけで、日本は安心して妊娠できる国になるのです。

――意識と行動を変えるために…微力ではありますが我々もその意識を持って情報発信してまいりたいと思っております。

平原先生:よろしくお願いします。最後にしつこいようですが、先天性風しん症候群の原因は、大人の風しん感染です。風しんを防ぐ方法もわかっているし、防ぐための武器(ワクチン)を持っているし、防ぐ知恵もあるのに、それを充分に使えていないのは、本当に悔しいことなのです。女性のより一層の活躍が期待される社会だからこそ、安心して子どもを産み、育てられる社会であってほしいと僕は考えています。

※         ※         ※

風しんの本当の被害者は誰なのか。そのためにできることはなんなのか。そのシンプルな問いに向き合うことが、今の大人世代には求められているような気がします。小さな命を守り、彼らが健やかに成長する環境を整えていくために、風しんの問題を社会全体で考え、取り組んでいきたいものです。

 

〈参考文献〉
(※1)Traveler’s health (Centers for Disease Control and Prevention 2020年1月3日)
https://wwwnc.cdc.gov/travel/notices/alert/rubella-japan

(※2)「風しんに関する特定感染症予防指針」(2014年3月 厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000186690.pdf

 

【プロフィール】
平原 史樹(ひらはら ふみき)
”風疹ゼロ”プロジェクト実行委員長 横浜市病院事業管理者 横浜市病院経営本部長 横浜市立大学名誉教授 公益社団法人日本産婦人科医会副会長 産婦人科医 2004年に発足した厚生労働省の研究班「風疹流行にともなう母子感染の予防対策に関する研究」で班長を努め、2012年には「風疹流行及び先天性風しん症候群の発生抑制の関する緊急提言」を取りまとめるなど、日本から風しんをなくす運動に長年取り組んでいる。

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