産婦人科の権威が提唱する
女性のQOL(クオリティオブライフ)を上げるための
「月経を止める」、という新しい選択

この半世紀で女性の生き方は劇的に変わりました。今では結婚・出産を経ても社会で活躍している人が珍しくありません。そんなアクティブになったライフスタイルの中で、相変わらず女性の悩みの種となっているのが月経。(出産の高年齢化、少子化により)一昔前に比べて生涯の月経回数が増えたことで、子宮内膜症など女性特有の疾病の発症率が増加する原因になっている(※1)とも言われています。

本記事では、女性がより快適で健康的な生活を送るための月経との向き合い方について学んでいきたいと思います。月経の最新事情を教えてくださるのは、『ハッピーライフのために女性が知っておきたい30のこと』(毎日新聞出版)の著者で、出産準備サイトではおなじみの慶應義塾大学医学部名誉教授の吉村泰典医師です。

 

月経の辛さから解放されるにはどうしたらいいでしょうか?

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――社会で活躍の場が増えた現代女性ですが、その一方で月経の痛みや出血のために、やりたいことが思うようにできないという悩みを持つ人もいます。女性の社会進出が進んでいく中で、この問題は非常に深刻なように思います。

吉村先生:おっしゃるとおりですね。大小、個人差はあるでしょうが、月経が女性のQOL(Quality Of Life/生活の質)を下げていることは疑いようのない事実かと思います。私が医師の立場で、最近啓発しているのはピルなどを服用して月経を止めてしまう、ということ。驚かれるかもしれませんが、最近の世界の医学界では、「月経は必要ないもの」ということは常識です。

――月経が要らない? いきなり予想外のお話だったので、ちょっと驚いてしまいました。

吉村先生:もちろん妊娠を望んでいなければ、ですよ。妊娠を望んでいない女性は、排卵をなくし月経を止めてしまってなんの問題もありません。これについては、あとで詳しく説明しますね。その前にママやプレママが月に一度は経験している月経についておさらいておきましょう。月経というのは、受精卵が着床しなかった子宮内膜がはがれ落ち、腟から排出されることです。はがれ落ちる時に出血するので、月経=出血というイメージが強いのですが、実は出血は副産物。また月経痛に悩む女性も多いのですが、これは子宮内膜をはがそうとして子宮が収縮する際に起きるものです。

子宮と月経

――楽しみにしていたイベントや大切な仕事と月経が重なると何かと大変です。痛みや出血量が気になるし、生理用品を持ち歩いて、いつもより頻繁にトイレに行かなくてはならなかったり。これがこの先もしばらく続くのかなと思うと、憂鬱にもなります。

吉村先生:月経は妊娠・授乳で排卵が止まる期間をのぞいて、約40年間続きますからね。月経によって古い内膜を排出した子宮は次の排卵に備えてまた新しい内膜を作り、これがおよそ28日の周期で繰り返されます。月経周期にはエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが大きく関わっているんです。

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――冒頭で先生は「月経は必要ない」とおっしゃいましたが、こうした月経周期をきちんと繰り返すことが、妊娠・出産のために大切なのでは?

吉村先生:それがね、違うんです。そうしたことを何度も繰り返したところで、妊娠や出産がしやすくなるなんてことはまったくありません。むしろ毎月のように月経を続けていることの方が、妊娠にとってはマイナスになることもある。

――そうなんですね。月経は不必要という“常識”が医学界で定着したのは、いつぐらいからでしょうか?

吉村先生:約20年前、2000年くらいからですね。欧米ではすでにそのころから(妊娠を望まない期間の)ピルの連続服用で月経そのものを止めてしまうということが行われています。

Portrait of happy young woman standing in front of house building

――素朴な疑問ですが、そんなことをして大丈夫なんでしょうか?

吉村先生:まったく問題ありません。ピルで月経を止めても、女性のからだに影響はないということは欧米で長い年月をかけて実証されてきました。そもそも月経が起こるのは受精卵が子宮に着床しなかったから。女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンをピルでコントロールすれば、排卵が止まり、子宮内膜が妊娠に備えて厚くなっていくのを抑制しますから、連続で服用すると月経は起きないか、たまに起きても非常に軽くすむ場合が多いです。ちなみに日本のピルの利用者は世界的に見ても非常に少なく、普及率はわすが3%程度。しかも28日周期で月経を誘発する周期服用が主流です。一方、欧米では女性にとってピルは当たり前で、特にドイツなどでは普及率70%はあります。

――全然、違うんですね。

吉村先生:日本の場合は、女性にとって月経は仕方のないもの。痛かろうが辛かろうが、それはその人の“宿命”であり、それを受け入れなさいと。月経の辛さを知るよしもない男性に限って、そんな考え方を持っている方もいらっしゃいますね。

――男性に限らず女性にとっても月経は「当たり前のこと」として受け入れているように思います。もっとも日本でも生理痛がひどい際には鎮痛剤を使う人はいますよね。また、最近ですと、日常生活にも影響が出るほど月経に伴う症状が強い月経困難症の方がピルを使っていたりもします。

吉村先生:そうですね。ただ欧米では、そうした“重い人”だけでなく、シンプルにQOLを向上させるためにピルを飲んでいる方が多いんです。日本で連続服用できるピルが発売されたのは2017年のこと。欧米に比べて20年ほど遅れていますが、今もってピルに抵抗感を持つ方、誤解を抱いている方も少なくなく、医者としてそうした問題をどうにかしたいと悩んでいます。

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