――そのほかに産後の生活で日本との違いを感じることはありましたか?
溝口さん:ドイツでは日照不足を気にしていて、日光浴が奨励されます。ビタミンDの錠剤は生まれた時から与えていて今でも飲ませていますし、日が差す窓辺に寝かせなさいと指導されるんです。生まれたばかりの子どもを連れて公園や森に行くのも当たり前です。
――日本でも最近は赤ちゃんのビタミンD不足が心配されるようになりましたけれど、そこまではしていませんね。ずいぶん違うんですね。
溝口さん:外に出ることには、新鮮な空気とたっぷりの日光を浴びさせなさいということもありますが、社会性を育てるという意味合いもあるようです。ドイツでは子どもは社会が育てるものという考えが浸透しているようで、赤ちゃんが小さい頃からどんどん外に出ていろんな人と会うことをすすめられます。ヘバメさんに「アジア人の女性は家から出ないからもっと外に出なさい」と言われたこともありました。
――日本では産後1か月はママも外出しないのが普通ですからね。
溝口さん:うちの子は生後1週間ぐらいで散歩に連れて行ったかな。でももっと早い人はたくさんいますよ。まだ生まれたてみたいな真っ赤な赤ちゃんをスーパーマーケットで見かけたことも一度や二度ではありません。職場へのあいさつに生後1週間ぐらいの子を連れて来る人もいますね。
――周りの人も平気なんですね。授乳はどうですか? 母乳とミルク、どちらをあげる人が多いのでしょう?
溝口さん:そこは日本と似ています。産科では母乳育児が奨励されているし、母乳をあげて足りない時はミルクで補うというママが多いのではないでしょうか。ただ良くも悪くも個人主義でよその家庭がどういう育て方をしていようが他人は口を出さないのがドイツ流ですから、どうしても母乳でなければなんてプレッシャーを感じることはありません。
――自然体なんですね。
溝口さん:自然体も自然体、カフェや公園のベンチ、バスの停留所みたいなところでも赤ちゃんにおっぱいをあげていたりとか、ドイツのママたちはかなりオープンに授乳しています。それにはちょっと驚かされましたけど(笑)。
――欧米では赤ちゃんはママ・パパと別の部屋で寝かせると聞きますが、ドイツもそうですか?
溝口さん:そうですね。Vol.1で登場したオランダ在住の吉見さんと同じように、うちにも娘の部屋があって、夜の授乳がなくなった生後7~8か月からはひとりで寝かせています。夜中に目を覚まして泣いたら迎えに行って、ちょっとあやして寝なかったら、私と一緒にベッドで寝ちゃったりすることもあるんですけれど、一応「ひとりで寝てね」ということになっています。そこは日本と違いますよね。
――赤ちゃんをどんどん外に連れ出すということですが、街の人の反応はどうですか? ドイツは子どもに寛容な社会なのでしょうか?
溝口さん:ドイツは社会全体にゆとりがあります。1日きっちり8時間労働の人が多数派で休みも多いので、みんな気持ちに余裕があるからでしょうか。街のつくりもゆったりしていて、歩道も広いのでベビーカーでのんびりお散歩もできますし、妊婦さんや子どもたちにも温かいまなざしが注がれていると感じます。もっともドイツが、たとえば東京で働く人くらい忙しくて休みもなく、満員電車が当たり前のストレスフルな社会だったら、そんなに寛容じゃいられないと思いますけどね。
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妊娠・出産にも医療費がかからず、産前産後のケア体制が整っていて、街の人も子どもにやさしいドイツ。日本と同様に少子化だったにもかかわらず、こうして出生数が回復しているのも、こうした背景があるのですね。
続く後編ではドイツの子育て支援策や育休事情などについてご紹介しましょう。
〈参考文献〉
「ドイツはベビーブーム 2016年の出生数が96年以来最大」(ロイター 2018年3月28日)
https://jp.reuters.com/article/germany-population-idJPKBN1H50LW
【プロフィール】
溝口 シュテルツ 真帆(みぞぐち しゅてるつ まほ)
フリーランス編集者。2004年から日本の大手出版社で編集者として雑誌や単行本の編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動する。ドイツと日本をつなぐ出版社・まほろば社(https://www.mahoroba.de/)代表。