――日本では少子化が止まらないというのに待機児童問題は深刻です。ドイツは子どもが増えているそうですが、保育園は足りているんですか?
溝口さん:ドイツでも都市部は保育園不足です。ベビーブームに追いついていないんだと思います。うちも月150ユーロ(約2万円)ぐらいで丸1日預けられる公立の保育園を希望していましたが全然見つかりませんでした。仕方なく1歳半から保育料の高い私立に通わせています。しかも半日だけの枠しか空いていなくて、午後2時~6時の4時間預けて月560ユーロ(約7万3千円)です。これには困っています。
――ベビーブームは喜ばしいことですが、それは大変ですね。
溝口さん:ミュンヘンは移民が比較的少ない地域なので、移民の多いベルリンあたりはもっと大変だという話も聞きます。そして、今の幼い子たちが小学校に行く頃には小学校も足りなくなるだろうと言われています。その一方で、保育園や幼稚園の先生たちの待遇改善を求めるデモも起きていて、これからは増えてきた子どもたちの教育環境についてもっと考えるべきなのかも知れません。
――難しい問題もあるのですね。さて最後に、日独の子育てに関する価値観や文化の違いについて感じていることがあれば教えてください。
溝口さん:そうですね。日本では何となく無意識のプレッシャーがあって、その価値観に従っていたような気がします。例えば女の子はお人形が好きで、男の子ならやっぱり電車好きだよねとか。でも、女の子が電車好きであってもいいし、男の子がお人形好きでもまったく問題ないわけですよね。どこか子どもに従来の価値観や大人の思い込みで、子どもの性格や好みを規定してしまっていないか。ドイツはそのあたりもっと多様性を認めるというか、人のことはあれこれ気にしない空気感があって、そんな社会で暮らしているうちに、私ももう少し「自分らしさ」「その子らしさ」を大切にしてもいいのかなと思うようになりました。
――ドイツで子育てをすることで、そういう一面が少し覗いて見えたということですね。
溝口さん:はい。娘の保育園では子どもたちは自分のやりたいことをやりたい時にやりたいだけすることができます。外に出たい子は外遊びをするし、部屋にいても遊びを自由に選ぶんです。とことん自由なんですよね。そういう小さい頃からの経験が、子どもの意思を育て選択する力を作るのかなと思うことがよくあります。
――そうした子どもたちが育ち、ドイツの社会をつくっていく。だからこそ成熟した社会が形成されていくのかもしれませんね。
溝口さん:そうかもしれません。ドイツ人にとって大切なのは自分の価値観を持って自分で選択すること。夫と私は子育てに関しても家庭の事情、仕事の状況を見ながら、自分たちがどうありたいのかを考えて、2人で決めるようにしています。私は、そんなドイツ人の考え方、価値観が好きだし、娘にはそうした思考ができる人間に育って欲しいと考えています。
※ ※ ※
子どもは社会が育てるものと考え、子育てをあたたかく見守る人々と社会全体の支援を実感しながら自分たちなりの考えを持って育児に取り組むママとパパ。ドイツの子どもたちはそんな大人たちに見守られてすくすくと育っていくのでしょう。
ドイツと日本では社会の在り方や人々の考え方が違う部分も大きく、そのまますんなりと受け入れられるものではないかもしれません。しかしながら、日本をもっと子育てがしやすい社会にしていくために、ドイツに学ぶことは少なくないのではないでしょうか。
【プロフィール】
溝口 シュテルツ 真帆(みぞぐち しゅてるつ まほ)
フリーランス編集者。2004年から日本の大手出版社で編集者として雑誌や単行本の編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動する。ドイツと日本をつなぐ出版社・まほろば社(https://www.mahoroba.de/)代表。