ナゼ予防接種後にお熱が出ることがあるの? ワクチンの安全性と副反応についての話

ナゼ予防接種後にお熱が出ることがあるの?
ワクチンの安全性と副反応についての話

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2019年5月13日、Twitterはワクチンに関するキーワード検索の最上位に、信頼性の高い公衆衛生情報が表示されるようになったと発表しました。これらはワクチンに関する誤った情報の拡散を防ぐための対策で、FacebookやInstagramなどでも、同様の対策を行っています。また日本だけでなく米国、カナダ、英国など世界中で実施しています。

全世界的に問題となっている、SNS上でのワクチンに関する誤情報の拡散。そこで本記事ではワクチンの安全性について考えていきます。お話を伺うのは、NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会の理事長で、すがやこどもクリニック院長の菅谷明則先生です。

 

世界中で反ワクチン活動が活発化 原因はSNSに?

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2019年初めに、WHO(世界保健機構)は、「2019年の世界の健康に対する10の脅威」(※1)と題した声明を出しました。その中のひとつに「Vaccine Hesitancy(ワクチン接種をためらうこと)」を挙げています。「Vaccine Hesitancy」は「接種の機会が提供されているにもかかわらず、ワクチン接種を先延ばしにしたり、拒否したりすること」とされています。

現在世界中で麻しんが流行しています。WHOでは2019年の3月までの麻しんの報告数は、2018年の同時期の4倍に達していると報告しています。アメリカ合衆国では1963年に麻しんワクチン接種が始まり、2000年に「麻しんの排除」が宣言されていますが、2019年はすでに940人が報告され、2000年以降で最も多くなっています。流行の原因は様々ですが、ニューヨーク州とニューヨーク市では宗教的理由でワクチンを接種していない人が流行の中心となっています。なおニューヨーク州では、2019年4月に公衆衛生の非常事態を宣言。また、ニューヨーク市ブルックリンの一部地区では予防接種が義務付けられ、接種をしない場合は罰金を科すことを決めています(※3)。

2015年にWHOから麻しんが「排除」と認定された日本(※4)でも、2016年8月には海外から持ち込んだとみられる麻しんが関西国際空港を中心に流行しました。(※5)。以来、麻しんはいろいろな地域で流行を繰り返しています。2019年に入って三重県の宗教団体でのワクチン未接種者の集団感染などもあり、すでに500人以上の麻しん患者が報告され、2013年以降では最も多くなっています(※6)。

排除された麻しんが、流行を繰り返す要因のひとつにあげられるのは、ワクチンの接種率の低下です。定期接種を受けていない人が増加すれば、大規模な流行につながります。ワクチンの安全性について不安や疑問から、ワクチンは危険なものだというSNSなどで広まっている誤情報を信じ、ワクチンの接種をしない人が一定数います。接種をしない人が増えた結果、「排除(※7)」を達成した国や地域でも麻しんが流行しています。

接種後の発熱や腫れはからだが正常に反応した証

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いろいろなワクチンに対する誤解が存在しています。中でも欧米社会で影響を及ぼしているのが、MMR(麻しん、おたふくかぜ、風しん混合)ワクチンの接種と自閉症の関連です。これは1998年にイギリスの医師が、最初に医学誌に掲載した論文で主張し、以降の反ワクチン運動の“拠り所”となっています。しかし、論文の不正が発覚し、2004年には掲載された雑誌からこの論文は撤回され、2010年にイギリス人医師は医師免許を剥奪されています。

菅谷明則先生は、こう強調します。
「自閉症とMMRワクチンとの関連は、その後の多くの研究によって完全に否定されていますが、欧米ではいまだに論文の著者は反ワクチン運動の父として活躍しています。麻しんの流行が世界的に問題となっていますが、特にアフリカ、ヨーロッパでは報告数が大幅に増加しています。ヨーロッパではウクライナでの麻しん患者数が多く、ヨーロッパ全体の約70%をしめています。MMRワクチンの接種率も低く(報道によると58%)、社会的情勢が接種率の低下をひきおこしていますが、MMRワクチンと自閉症との関連の誤情報が信じられているようです。ワクチンに対する不安はいつの時代もあります。昔の話ですが、病原性が十分に弱体化されていないワクチンが重篤な副反応(薬の副作用とは違うワクチンの投与によって起こる免疫反応以外の反応)を起こした事件もありました。しかし、ワクチンは試行錯誤を繰り返しながら開発され、現在のワクチンは科学的に効果と安全性が証明されているということをわかっていただきたいと思います」(菅谷先生)

たとえば日本小児科学会の2018年度版『予防接種の副反応と有害事象』(※8)では、2013年に起きたワクチン接種後の重篤な症状は、約10万回に1回と報告されていますが、ワクチンとの因果関係が科学的に証明されているものは少なく、たまたま接種直後に別の病気の発症時期が重なった“紛れ込み”も含まれています。

「10万回の接種で1回の重篤な症状があったとして、接種せずに実際にVPD(ワクチンで防げる病気:Vaccine Preventable Diseases)にかかるリスクの方がはるかに大きな問題です」(菅谷先生)

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一方、ワクチン接種後には軽度な「副反応」が起こることはあります。たとえば接種した場所が赤く腫れたり、少し熱が出たり…。ただ、これらの副反応は自然感染することに比べれば軽症です。しかし、「安全なはずなのに、なぜ副反応が起こるの?」と不安を覚えたり、ワクチンそのものに疑いを持つ方もいます。

「ワクチンを接種すると、まず『自然免疫』が異物を感知して排除しようとします。つまり接種後の発熱や腫れのほとんどは『自然免疫』が正常に働いたためです。この後にそれぞれの病原体に対する免疫を作る『獲得免疫』が働きはじめます。大切なお子さんのことですから、ちょっとしたことでも不安になるお気持ちはわかりますが、軽度な副反応なら過剰に心配する必要はありません。接種する前に副反応についての説明をしっかり受けて、理解していただきたいと思います」(菅谷先生)

接種後の赤ちゃんに発熱や腫れがあっても、おっぱい・ミルクを飲んで機嫌が悪くないようであれば、1日ぐらいは様子を見てもいい、と菅谷先生。ただ、しばらく熱が続いたり、嘔吐など他の症状がある時には予防接種と関係のない別の病気の疑いがあるので、医療機関を受診しましょう。

ワクチンの安全性について声を上げていかなければいけない理由

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日本では1歳未満のワクチン接種率は98%くらいと高く、私のクリニックでも、ほとんどのママ、パパは赤ちゃんの健康を第一に考えて、積極的にワクチンを接種しています。年齢が大きくなると次第に接種率が下がっているという問題はありますが、基本的には日本では『Vaccine Hesitancy』は、大きな問題にはなっていません。しかし信念として『ワクチンは接種しない』という保護者はいます。そういう方々に正しい情報を伝えても、なかなか接種してもらえません。また、反ワクチン運動が世界的に拡大しており、日本でも大きな問題となる危険性があります。我々医師ができることは、ワクチンの有効性と安全性についての正確な情報とVPDのリスクを正しく保護者に伝え、多くの方が着実に、そして遅れないようにワクチン接種をし、子どもたちをVPDから守っていくことだと思っています」(菅谷先生)

日々、ワクチンの正しい知識についての情報発信をしている菅谷先生。先生が理事長を務めているNPO法人のホームページでは「みんなのワクチン相談室」(http://www.know-vpd.jp/faq.php)を開設し、ワクチン接種を迷っている人のための情報を発信しています。そうした活動の中で、日本の予防接種制度が先進国と比べると遅れていることを実感されることもあるとか。

「あえて厳しい言い方をいたしますが、日本には科学的な根拠に基づいて、迅速に予防接種施策を行っていくシステムがありません。ロタウイルスワクチン、おたふくかぜワクチンが定期接種とならないこと、学童の百日咳が増加しているが就学前のワクチン接種が任意接種のままであること、成人男性のMRワクチン(麻しん・風しん混合ワクチン)第5期の接種の前に抗体検査をしなくてはならないことなど、いろいろな問題があります。また、現在の重要な問題はHPVワクチン(子宮けいがん予防ワクチン)の積極的勧奨が中止されたままになっていることです。科学的な安全性のデータが発表され、大多数の医師は積極的勧奨すべきだと考えています。行政がワクチンの安全性を信頼し、積極的勧奨を再開すべきです。行政がワクチンの安全性を信頼しない状態が継続すれば、日本の『Vaccine Hesitancy』を加速させる危険があると思います」(菅谷先生)

ワクチンを受けるリスクは、ワクチンを受けないリスクよりも圧倒的に小さい。言い換えれば、ワクチンを受けるベネフィット(恩恵)が、ワクチンを受けないリスクよりも極めて大きい。だから、ワクチン接種をする。これが予防接種の基本的な考えです。WHOの声明(※1)によると現在、予防接種によって世界中で年間2〜300万人の命が救われているそうです。今後も世界的な予防接種の普及によって、さらに150万人を救うことができるという試算もあります。赤ちゃんのワクチン接種はその子の健康を守るだけのものではなく、VPD(ワクチンで防げる病気)を地球上からなくしていくための社会的なアクションでもあります。子どもたちの幸せな未来のためにも、ワクチン接種は大切です。

 

〈参考資料〉
(※1)2019年の世界の健康に対する10の脅威(WHO/世界保健機構 2019年)
https://www.who.int/emergencies/ten-threats-to-global-health-in-2019
(※2)麻疹の流行について(WHO/世界保健機構 2019年5月9日)
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/measles
(※3)NY市、はしか流行で非常事態へ(ニューズウィーク日本版 2019年4月10日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/ny1000.php
(※4)麻しんについて(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html
(※5)発生動向調査における麻疹発生状況(国立感染症研究所 2016年10月7日)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-iasrs/6807-441p02.html
(※6)麻疹発生動向調査速報(国立感染症研究所 2019年5月9日)
https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2019pdf/meas19-18.pdf
(※7)麻しん排除に向けた進捗状況の変化(WHO 2011年2月)
http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/372/dj3722.html
(※8)予防接種の副反応と有害事象(日本小児科学会 2018年3月)
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_04hukuhannou.yuugaijisyou.pdf

 

【プロフィール】
菅谷 明則(すがや あきのり)
NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会 理事長 すがやこどもクリニック院長 医学博士 日本小児科学会専門医 慶應義塾大学医学部卒業。慶応義塾大学病院、東京都立大塚病院、東京都立清瀬小児科病院を経て、2005年9月に、すがやこどもクリニックを開院。2017年からNPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会の理事長を務めVPDの予防の啓発活動に取り組んでいる。

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