赤ちゃんのスキンケア最前線  “保湿剤ベタベタ塗り”が推奨されている理由

赤ちゃんのスキンケア最前線 
“保湿剤ベタベタ塗り”が推奨されている理由

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今年4月26日~5月12日にミキハウスのベビークラブ会員に向けたアンケートで、「赤ちゃんにとって、『スキンケア』は必要だと思われますか?」という問いに対して、「はい」と回答したのは6359人中6271人(98.6%)と、スキンケアに対する意識の高さが浮き彫りになりました。事実、赤ちゃんのスキンケアのため、ワセリンやクリーム、オイルなどをたっぷりと塗ることが多くの医療機関で指導されるようになっています。実は、この傾向はここ5年以内のこと。なぜそのような指導がなされるようになったのか、どうして乳児期の肌の保湿が重要視されているのか――国立成育医療研究センター総合アレルギー科の医師・山本貴和子先生に伺います。

 

新生児期からの丁寧な保湿がアレルギー疾患の予防に効果があります

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2014年10月、国立成育医療研究センターが発表したアレルギー疾患の発症予防法についての論文がアメリカの専門誌に掲載されました(※1)。新生児期からの肌の保湿がアトピー性皮膚炎を防ぐことを示唆した画期的な内容で、世界中の医学界から大きな注目を集めました。

親か兄弟がアトピー性皮膚炎を発症している新生児118人に対して行われたこの研究は、「保湿するグループ」と「保湿しないグループ」に分けて生後32週までのアトピー性皮膚炎及び湿疹の発症を観察し、分析したものです。その結果、新生児期から保湿剤を塗布していた子は、必要に応じて保湿していた子に比べてアトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低減したそうです。

国立成育医療研究センター総合アレルギー科の山本貴和子医師は、肌のバリア機能やアレルギーが起こるメカニズムについてこう説明します。

「皮膚には異物の侵入を防ぐための皮膚バリア機能があり、正常な皮膚では角層において皮脂、天然保湿因子(アミノ酸や尿素など)、角質細胞間脂質(セラミドや脂肪酸など)が皮膚の潤い(水分量)を一定に保っています。赤ちゃんの皮膚は一人ひとり違い、なかにはもともとバリア機能の弱い子もいるし、遺伝など何らかの原因でその因子がうまく働かず水分が逃げやすく乾燥肌になってしまうこともあります。皮膚バリア機能が壊れると、身の回りに漂っている異物などが侵入しやすくなってしまい、からだの免疫機能が異物を撃退しようとします。この時、免疫機能が過剰に働くと、アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応が起きます。アトピー性皮膚炎になると、皮膚バリア機能が低下し、表面から水分などが抜けやすくなってしまい、皮膚はますます乾燥してしまいます。そうなると、より肌は荒れてしまいます。つまり生後1〜2か月の早い時期から保湿で肌のバリアを整えて、乾燥から肌を守ることがアレルギー疾患を予防する第一歩と考えられています」(山本先生)

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空気中には無数のアレルゲンが存在している!

保湿によってアトピー性皮膚炎を予防するという情報は、この数年で医療関係者の間に定着していると山本先生。出産直後にお医者さまや助産師さんから「赤ちゃんの肌をワセリンやクリームで保湿するように」と教えてもらったママ・パパは多いのではないでしょうか。乾燥を防ぎ、肌のバリア機能を補強することで、身の回りに漂っている異物が肌から入らないようにすることが目的――というお話を山本先生から聞きましたが、そもそも身の回りのそれほど異物が漂っているものなのでしょうか?

答えはYES。しかも私たちが想像している以上に、生活空間の中には様々な異物が漂っているのです。たとえば卵アレルゲン。2019年3月に同センターが発表した論文(※2)によると、全国4地域の3歳児のいる約90件の家庭で布団についたほこりを採取し分析した結果、100%の家庭で卵のアレルゲン分子が検出され、その量はダニアレルゲンよりも多かったそうです。

「空気中には卵だけではなく、あらゆる食品や身の回りのものから遊離した目に見えない分子が無数に存在しています。初めて卵を食べた子にアレルギー反応が出ることはよくあることですが、これは口から入れる前から、空気中に浮遊する卵のアレルゲンが皮膚から入り込んでしまっていると考えられます。つまり肌が乾燥してバリア機能が低下していると皮膚から食物アレルゲンが入り込みやすくなり、アレルギー体質になりやすい、というわけです。現代社会で暮らす私たちは、様々なアレルゲンと共存しています。こんな環境で暮らす赤ちゃんにとって一番の問題は、皮膚からのアレルゲンの侵入です。ですから保湿で肌のバリア機能を整えなくてはいけないんです」(山本先生)

保湿で予防できるアトピー性皮膚炎。ただ、保湿をすれば絶対に大丈夫、ということでもありません。

「アトピー性皮膚炎の原因は肌の乾燥だけでなく、遺伝や環境などが複雑に関わっている場合もあるので、保湿をすれば100%予防できるというものではないんです。イギリスと北欧で行われた保湿剤によりアトピー性皮膚炎発症が予防できるかを調べた大規模な二つの研究では、残念ながら保湿剤塗布したからといってアトピー性皮膚炎が予防できるという結果ではありませんでした。おそらく保湿剤による予防効果のあるお子さんとないお子さんがいると考えられます。実際に私が診察していても『こんなに一生懸命保湿しているのに赤ちゃんがアトピー性皮膚炎になってしまった』とがっかりしたママが訪れることもあります。そういうときに改めてお話させていただくのは、『保湿で100%すべてのお子さんの予防は不可能だが、アトピー性皮膚炎になる可能性は減る』ということと『アトピー性皮膚炎は適切な治療をすれば改善できる』ということです。意外と、アトピー性皮膚炎は治らないと思ってらっしゃる方もいるのですが、ちゃんとした治療をすれば確実に治ります」(山本先生)

なお、アトピー性皮膚炎を改善するための“適切な治療法”については、次週の記事で詳しく触れたいと思います。

保湿剤はたっぷり塗ってあげましょう

赤ちゃんのスキンケアの基本は、お肌を清潔に保つことと保湿です。肌を乾燥から守るために、入浴の際には以下のことに気をつけましょう。

【1.ママ・パパの手によく泡立てたベビーソープやシャンプーをたっぷりとって、直接やさしく洗う。首、脇、手足のくびれ、指などは重なった皮膚を伸ばしながらママ・パパの指を入れて奥まできれいに】

【2.ソープやシャンプーが残らないようにしっかりすすぐ】

【3.お風呂からあがったら、からだを擦らないようにタオルでやさしく包みこむようにして水分をしっかりと取る】

【4.からだを拭いたら、すぐにたっぷりと保湿剤を塗る】

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保湿は特に丁寧にしてあげたいですね。お風呂上りや朝やお昼間の着替えで服を脱がせた時に塗ってあげることを習慣にすれば、赤ちゃんにもママ・パパにもそれほど負担なく続けられそうです。

「ベビー用の保湿クリームやオイル、ワセリンなどで保湿しましょう。ママ・パパが指にたっぷりととって、からだ中にくまなく塗ってあげてください。ちょっと多めかな、と思えるくらい塗ってもらった方がいいと思います」(山本先生)

なお、アトピー性皮膚炎を発症すると赤ちゃんはかゆみで泣いたり、肌を掻いてしまったり。夜もぐっすり眠ってくれず、ママ・パパは疲れ切ってしまうこともあるようです。

服やシーツにワセリンやクリームが付くとシミになりそうでたっぷり塗るのをためらうママ・パパもいるかも知れませんが、油のシミならお洗濯できれいに取ることができます。アレルギー疾患の予防にもつながるので、赤ちゃんの肌の保湿のために、迷わずたくさん塗ってあげてくださいね。

赤ちゃんのからだの洗い方、外用薬・保湿剤の塗り方については、独立行政法人環境再生保全機構のパンフレット(https://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/00/archives_a-000.html)で詳しく説明されています。HPからダウンロードすることもできますから、参考にしてください。

 

〈参考資料〉
(※1)「世界初・アレルギー疾患の発症予防法を発見」(国立成育医療研究センター 2014年10月)
http://www.ncchd.go.jp/press/2014/topic141001-1.html
(※2)「100%に子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出」(国立成育医療研究センター 2019年3月)
http://www.ncchd.go.jp/press/2019/20190305.html

 

dr

【プロフィール】
山本貴和子(やまもと きわこ)
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター アレルギーセンタ―・総合アレルギー科医師 日本小児科学会・小児科指導医 日本アレルギー学会・専門医 医学博士 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)メディカルサポートセンター・チームリーダー 「妊娠中からの児のアレルギー疾患予防ヘルスリテラシー教育プログラムの開発と評価」プロジェクト代表

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