保湿によってアトピー性皮膚炎を予防するという情報は、この数年で医療関係者の間に定着していると山本先生。出産直後にお医者さまや助産師さんから「赤ちゃんの肌をワセリンやクリームで保湿するように」と教えてもらったママ・パパは多いのではないでしょうか。乾燥を防ぎ、肌のバリア機能を補強することで、身の回りに漂っている異物が肌から入らないようにすることが目的――というお話を山本先生から聞きましたが、そもそも身の回りのそれほど異物が漂っているものなのでしょうか?
答えはYES。しかも私たちが想像している以上に、生活空間の中には様々な異物が漂っているのです。たとえば卵アレルゲン。2019年3月に同センターが発表した論文(※2)によると、全国4地域の3歳児のいる約90件の家庭で布団についたほこりを採取し分析した結果、100%の家庭で卵のアレルゲン分子が検出され、その量はダニアレルゲンよりも多かったそうです。
「空気中には卵だけではなく、あらゆる食品や身の回りのものから遊離した目に見えない分子が無数に存在しています。初めて卵を食べた子にアレルギー反応が出ることはよくあることですが、これは口から入れる前から、空気中に浮遊する卵のアレルゲンが皮膚から入り込んでしまっていると考えられます。つまり肌が乾燥してバリア機能が低下していると皮膚から食物アレルゲンが入り込みやすくなり、アレルギー体質になりやすい、というわけです。現代社会で暮らす私たちは、様々なアレルゲンと共存しています。こんな環境で暮らす赤ちゃんにとって一番の問題は、皮膚からのアレルゲンの侵入です。ですから保湿で肌のバリア機能を整えなくてはいけないんです」(山本先生)
保湿で予防できるアトピー性皮膚炎。ただ、保湿をすれば絶対に大丈夫、ということでもありません。
「アトピー性皮膚炎の原因は肌の乾燥だけでなく、遺伝や環境などが複雑に関わっている場合もあるので、保湿をすれば100%予防できるというものではないんです。イギリスと北欧で行われた保湿剤によりアトピー性皮膚炎発症が予防できるかを調べた大規模な二つの研究では、残念ながら保湿剤塗布したからといってアトピー性皮膚炎が予防できるという結果ではありませんでした。おそらく保湿剤による予防効果のあるお子さんとないお子さんがいると考えられます。実際に私が診察していても『こんなに一生懸命保湿しているのに赤ちゃんがアトピー性皮膚炎になってしまった』とがっかりしたママが訪れることもあります。そういうときに改めてお話させていただくのは、『保湿で100%すべてのお子さんの予防は不可能だが、アトピー性皮膚炎になる可能性は減る』ということと『アトピー性皮膚炎は適切な治療をすれば改善できる』ということです。意外と、アトピー性皮膚炎は治らないと思ってらっしゃる方もいるのですが、ちゃんとした治療をすれば確実に治ります」(山本先生)
なお、アトピー性皮膚炎を改善するための“適切な治療法”については、次週の記事で詳しく触れたいと思います。