日本ではじめての新型コロナウイルス感染者が確認されてから半年近く経ちました。日本では第1波のピークは越えたとは言え、第2波、第3波がいつ来るかわからない状況。この感染症から家族を守るために、ママ・パパは毎日身の回りのあらゆる事に気を配りながら生活していることでしょう。
そこで今回のテーマは“免疫力”。免疫力とは何か、免疫は感染症予防にどう働くのか、慶應義塾大学名誉教授で産科医の吉村泰典先生に詳しく教えていただきましょう。
私たちのからだには何段階もの自己防御システムが働いています
――感染症にかからないようにするには免疫力を落とさないようにすること、とよく言われます。そもそも免疫というのはどんなものでしょうか。
吉村先生:私たちのからだには、外から侵入してきた細菌やウイルスなどを異物として攻撃して、正常な状態を保つための自己防御機能があります。これが免疫と呼ばれるもので、免疫力とは病原体に抵抗する免疫のパワーのことです。免疫は大きく2つのタイプに分かれています。ひとつは「粘膜免疫」で、からだの中にウイルスや細菌を侵入させないための防御システムであり、もうひとつは「全身免疫」と呼ばれる、侵入してしまった異物と戦う排除・攻撃のシステムです。
――粘膜免疫と全身免疫と二つあるんですね。
吉村先生:はい。さらに詳しく説明すると、からだの一番外側にある皮膚が最初のバリアーとなり、異物を体内に入れないようにしているんですね。コロナ禍の中で手洗いが奨励され、顔の粘膜を触らないようにという注意喚起もありますが、これは手の皮膚に付いたウイルスが粘膜からからだの中に入っていかないようにしましょう、ということです。
――今や外から帰ったらまず手洗いをするのがすっかり習慣になりました。そのせいか、2019~20年の冬は、全国でインフルエンザにかかった患者は過去12年で最少になった、というニュースもありましたね。
吉村先生:そうですね。手洗いは非常に重要です。ただ、病原菌が皮膚から粘膜に侵入してしまっても、目、鼻、口、腸管など全身の粘膜部分には免疫物質・IgA抗体(免疫グロブリン)がいて、侵入してきた病原体にくっついて無力化させる働きを担っていることも知っておいてください。
――そこは「粘膜免疫」でガードしているということですね。でもすべてを、粘膜でガードはできないですよね?
吉村先生:はい、そうです。そうなると今度は「全身免疫」の出番です。全身免疫はリンパ節や脾臓(ひぞう)、血液中で働きます。全身免疫には、病原体の侵入を感知するとすぐに働く「自然免疫」とその後に登場する「獲得免疫」があります。
――なるほど、「全身免疫」は二段構えで機能するのですね。
吉村先生:「自然免疫」には、病原体を食べてしまう白血球の一種“好中球”や“マクロファージ”があります。一方、「獲得免疫」は“マクロファージ”などが分解したウイルスや菌の情報から病原体の性質を見極めて抗体を作り、狙いを定めて攻撃します。私たちのからだは、どんな異物に対してもぴったり結合する抗体を作り、過去に起こった免疫反応の特徴を記憶することができるようになっていて、次に同じものが侵入してきた時に防御反応をするようになります。つまり「獲得免疫」は人が成長する中でさまざまな病原体に接し、それらをからだに取り込んで獲得していく免疫なのです。抗体は“好中球”や“マクロファージ”を活性化する働きもありますから、「自然免疫」と「獲得免疫」は助け合ってからだを守っていることになります。
――免疫が働くシステムは随分複雑なんですね。ここで素朴な疑問ですが「免疫」と「抗体」の違いはなんでしょうか?
吉村先生:簡単に言うと、抗体は異物に対する最終手段ですね。抗体をつくるための予防接種ワクチンも「獲得免疫」の仕組みを利用して作られたものなんですよ。感染症にかかる前に、毒性の弱い病原体を体内に入れてあらかじめ抗体を作っておくことで、感染症の予防や重症化の防止に役立つというものです。新型コロナウイルス感染症も早くワクチン接種ができるようになるといいのですが、抗体にはいくつかの種類があって、感染予防に役立たないものもありますから、ワクチン開発には時間がかかるのではないかと危惧しています。