withコロナ時代の必修科目? 「免疫力」についての正しい知識

規則正しい生活とバランスのいい食生活が免疫力を正常に保ちます

規則正しい生活とバランスのいい食生活が免疫力を正常に保ちます

――そもそも免疫力というのは、個人差があるものなのでしょうか?

吉村先生:個人差は当然ありますし、免疫力はすべての人が同じように持っているわけではありません。また妊娠中はからだに大きな変化が起きているわけですから、妊婦さんは免疫バランスや心肺機能も不安定になりがちです。また小さな子どもは自分の中にない菌や異物に接触する機会が少ないので、大人と同じ免疫力はないようです。加齢も免疫力が落ちる一因ですね。一般的には、妊婦さんと子どもとお年寄りは免疫力が低いと思っていただいて差し支えないと思います。

――「免疫力をアップする」などとうたった食品の広告などを見かけることがありますが、免疫力は本当に食品などで高めることができるのでしょうか?

吉村先生:特定の食品を摂取して、免疫力を高めるというのはちょっと考えられません。医学的にはなんらエビデンスもないです。ただ、食生活を含めた規則正しい生活で正常に保つ事は可能です。睡眠不足や不規則な生活、バランスの悪い食事、過度なストレスは粘膜の免疫力を低下させると言われています。免疫力が低下すると、病原菌がからだに侵入しやすくなります。深夜まで仕事をして、まともな食事もとらないで、深酒をして、睡眠も少し…みたいな生活をしていると、当然、免疫力も働かずに感染しやすいからだになってしまいますよ。

――逆に言うと、健全なライフスタイル、たとえば早寝・早起きとバランスの良い食事をすれば、免疫力を維持できるというわけですか?

吉村先生:ええ、正確に言うと「粘膜免疫」の機能を維持できます。先ほどもお話ししましたように、からだに細菌やウイルスなどの異物を侵入させないためには、「粘膜免疫」のIgA抗体の働きが重要です。IgA抗体は全身の粘膜部分にあり、特定の菌やウイルスだけでなく、さまざまな病原体にくっついてそれらを不活性化するものです。

――全身の粘膜部分というのは、目、鼻、口、さらに腸管でしたね? 

吉村先生:そうです。消化管の表面、特に小腸の表面積は広げるとテニスコート1面分もあると言われるほど広く、感染を防ぐ働きが活発な器官です。そこでは侵入を感知すると大量のIgA抗体を分泌して病原体の動きを止め、病原体をマクロファージが食べやすい形にしたり、便として排出するといったことが行われているのです。ちなみにIgA抗体は母乳に多く含まれていて、特に産後数日間の母乳にはIgA抗体が非常に多くなっています。生後すぐの赤ちゃんに初乳を飲ませるのは、口や腸を感染から守るという意味でも大切な意味があるんですね。

――新型コロナの感染予防にばかり気を取られていますが、初夏から夏にかけては食中毒も気になります。

吉村先生:そうですね。食中毒も感染症から起こることが多いものです。規則正しい生活とバランスのいい食事に加えて、からだを冷やさない、ストレスを避ける、適度な運動をするなど、免疫力を保つために心がけていただきたいですね。


外出自粛でかつてない日常を体験した日本でも、非常事態宣言の解除とともに少しずつ街には人の姿が増えてきました。それでも新型コロナウイルス感染症との戦いには終りが見えず、国内の新規感染者数に一喜一憂する日々はまだ続きそうです。吉村先生に教えていただいた免疫の仕組みを頭の片隅に置いて、プレママばかりでなく、家族みんなの健康維持に役立てていただければ幸いです。

吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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