I:親が心配しなくても子どもは遊びの中で自然に根気ややる気を養うし、前向きな気持ちもその中で育っていくわけですかね。
高橋先生:前向きっていう表現が適当かどうかはわかりませんが、消極的の反対ですね。やる前から諦めたり、怖がってやらないよりは、いろんなことにどんどん挑戦する方がずっといいじゃないですか。どんなことにでも積極的に取り組む子も中にはいると思います。でもほとんどの子は、運動が得意だったり、物知りになることに興味があったり、お絵かきが好きという具合に、特定の分野に興味や関心を持つものです。意欲を持って取り組めることがそれぞれで違うのは当たり前ですから、まずは好きなことを見つけるために、いろいろ体験させてみることでしょう。
I:やる気を持って取り組めそうなことを自分で見つけられるように、親がちょっとヒントを与えてあげるという感じですか。
高橋先生:そうですね。まだ一度もやったことがないけれど、とりあえずやってみようっていうのが“前向き”ということでしょうか。さらに、一度失敗したとしても、もう一度やってみようと思うことも前向きな姿勢でしょう。その反対が消極的なんだけれど、子どもは好奇心が旺盛だから、面白そうだと思ったら「もう止めたら?」と言っても、あきらめずに手を出すものですよ。そういう意味では子どもは生まれつき前向きなんでしょうね。
I:子どもは生まれつき前向き…いい言葉ですね。
高橋先生:仮にやる前から諦めてしまう子がいるとすれば、その子は親から「失敗するからやめておきなさい」とか「だから、最初から無理だって言ったでしょ」って常日頃から言われているのかもしれないですね。繰り返しになりますが、前向きじゃない子っていませんよ。白血病で1年間も学校を休んでいる子でも、入院中ですら学校の勉強を続けています。元気になって学校に戻ったときのためにね。骨肉腫で片脚を失っても、リハビリしながら勉強して「第一志望に受かったよ!」と笑顔を見せてくれた子もいます。あの子たちは前向きという言葉が申し訳ないぐらい、あたり前のこととしていろんな事に取り組んでいるんです。将来に備えていろんな事に興味を持ってトライしようとする根気は、生まれつきの障害や重い病気と戦っている子も健康な子もみな同じです。
I:子どもにとって前向きに取り組むのは普通のこと、これは覚えておきます。もし、子どもが前向きになれないなら、親が余計なプレッシャーを掛けていたり、やる気の芽を摘んでいるような言動をしているかもしれない…僕も無意識にそんなことをしていないか、ちょっと考えてみたいと思います。
高橋先生:チャレンジを恐れない子は、見知らぬ物事に接したり、新しい体験を積むことに慣れているんですね。過去にそういう積み重ねをしているということです。その中にはいくつも失敗があったはずですが、失敗しても大丈夫と思える成功体験も同じようにあったと想像できます。いろんなことにチャレンジしてみよう、1回ぐらい失敗しても、面白くないと思っても、もうちょっとやってみよう、と考えられるようになって、根気もやる気も自然と育まれていくのではないかと思います。
I:はい。親自身が子どもを信用して前向きにいろんなことをやらせてみる必要がありそうですね。
高橋先生:そうですね。人を傷つけることや危険なことでない限り、いろんなことをやらせてみるということが大事だと思います。でも、親が先回りをして多種多様なものを用意する必要もありません。子ども同士が遊びの中で学ぶことが大切です。子どもの遊び方っていうのは同じ場所、同じ仲間でも日々変わっていきますよね。いろんなことに興味を持ち、みんなが楽しめるような遊び方を工夫していくためには互いに根気も必要です。また、知らない子どもたちの中に入って一緒に遊び始める瞬間って、前向きな気持ちが存分に発揮されていると言えるでしょう。でも、それができないからと言って、前向きじゃないというわけでもない。子どもは成長の過程でどんどん変わっていきますから、他の子と比べても意味はありません。親御さんもあまり神経質にならないで、おおらかな気持ちで、“根気よく、前向きに”わが子の成長を見守っていただきたいと思います。
何事にも積極的な子どもは大勢の中でも存在感があって、ママ・パパはちょっぴりうらやましい気持ちになるかもしれません。でも先生が教えてくださったのは、子どもはその子なりの過程を経て成長していくし、同年代の友だちの中で遊ぶことで根気ややる気も含めた生きるために必要な力が育くまれていくということです。引っ込み思案でどんな事にも興味を持たないように見えるわが子でも、一歩引いた場所から冷静に状況を観察し、その状況から何かを吸収しているはずです。そう思えば、ママ・パパも安心できるのではないでしょうか。
それぞれのペースで成長する子どもたちのありのままの姿を受け止め、そっと見守ってあげることが、親ができる最高のサポートなのかもしれませんね。
専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。