I:社会が多様化して男の子と女の子の間にも、言ってみればいろんな性別の人がいることが一般的にも広く認識されるようになっています。先生はこうした多様な性についてどうお考えですか?
高橋先生:多様性を認め、享受することは成熟した社会としてとても大事です。多様な性についても当然、同じことが言えます。ただ、男性と女性ははっきりと異なる、という認識も重要です。例えば、男性の中でとても女性的な人と、女性の中でとても男性的な人が、性格まで同じというわけではありません。いわゆる“男女平等”についても、社会的な議論はいろいろあってしかるべきですが、何もかも同じにすべき、という主張には医師としては違和感を覚えます。性差は基本的には遺伝子で決まっているものですから。男性と女性がそれぞれの個性を生かし、異なる役割を果たすことは、すごく重要だと思います。
I:なるほど。
高橋先生:女の子として生まれた子が、女の子として育てられて、女の子として生まれたことを幸せに思いながらすごすのは、幸せの第一歩だと思います。男性もそうです。女の子にとっては、お母さんが優しく家族を支えている姿や、幸せそうな笑顔や女性らしいしぐさを見て、「私もお母さんみたいになりたいな」と思う。それが「女に生まれてよかった」と思える原動力なんです。一方、男の子が「男に生まれてよかった」って思うのは、お父さんががんばって働いて家族を守っている姿や、野球やサッカーを教えてくれる頼もしい姿を見て「男ってかっこいいな」と感じる時じゃないですか。
I:そうですね。自分の子どものころを思い返してみても、そうだったような気がします。ちなみに妊娠初期、着床から8週間くらいから性差が分かれる現象がママの体内で起きるとのことでしたが、その時期のママの行動や生活習慣が、そうした現象の妨げになったりすることはあるのでしょうか。たとえば、あることをしたり、ある栄養素を摂ったら胎児の男性化が進むとか……。
高橋先生:ないです(苦笑)。すべては遺伝子で決められています。中には遺伝子に問題があって男性化の異常が起きたり、誤った女性化が起こるなど、想定外の変化で男女がクロスして、運命が変わったりすることはありますが、妊娠中のお母さんの問題ではありません。いずれにしても男性になる、女性になる、という現象に、環境・努力は必要ありません。すべては遺伝子の仕組みに従って起きること。変わらないし、変えようもないんです。XYという染色体をもつ我々男性は、Y染色体を持たない女性に比べると、性格や行動パターンが良くも悪くも“男性的”です。男の子は幼稚で落ち着きがないでしょう(笑)。ところで少し専門的な話になりますが……ごくまれにXYYと、2つのY染色体を持っている男性がいます。Yが多いと、さらに男性的な性格が強調されてしまうんですね。
I:ということは、男の子のやんちゃぶりも遺伝子の影響だったんですか!
高橋先生:そうです、遺伝子で大枠が決まっています。お腹の中にいる時から何か月もかけて、遺伝子のドミノによって、男の子は男の子として、女の子は女の子として体が作られ、脳も性別に合わせた状態になって生まれてくると思われます。男の子にピンクの服着せたって、女の子になるわけではありませんよ。ただここで大事なことは、遺伝子のシナリオには良い意味での“遊び”がある、ということです。遺伝子で決められることは一直線で、そこから全くブレないというわけではなく、ある一定の振れ幅があって、その範囲から外れないように調整されているものなのです。だから、男性寄り・女性寄りっていうのはあります。環境によってどちらかに“正常に”ブレることは当たり前の現象ですし、むしろ好ましいことではないですか。
I:男性っぽさ、女性っぽさが環境で多少ブレることがあるのであれば、生まれついて持っている性格も、環境により変えることができるものなのでしょうか? たとえば2歳くらいのやんちゃな子どもに手を焼いているママは、どうにかしたいと悩んでいたりするのではないかと思うのですが。
高橋先生:左利きの子を訓練して右手も使えるようにする程度は可能ですが、遺伝子によってある程度決められている個性、性格や行動パターンを、しつけや教育で根本から変えることはほとんど無理、むしろ有害だと考えてください。強い個性に見える場合であっても、所詮、「遺伝子の正常な振れ幅」でしかないのでは。気にする必要はないと思います。同級生の中で、ものすごくやんちゃな子と分別のある子の差だって、大したことではありません。正常か異常かと言われれば、みんな正常です。ですから、お母さんの言うことを聞かなくても、いたずらが大好きでも、それほど心配しなくてもいいんじゃないでしょうか。
I:とはいえ、その小さな差がママやパパにとっては気になるものなんですよねぇ(苦笑)。
高橋先生:それはそうだと思います。ただ私が言いたいのは、やんちゃな息子、引っ込み思案な娘に困っているお母さんやお父さんも、あまり神経質にならずに、「男の子はそんなもの」、「女の子だもんね」とおおらかな気持ちで接したほうがいいということです。親の思い通りの子に仕上げるために、他の大勢の“良い子たち”と同じように行動するようにと、叱って無理強いするのではなくて、ありのままの姿を受け止めて、見守っていくことも大切なことではないでしょうか。
I:やはりその子が持って生まれた性格を曲げることなく、いかに社会の中で健やかに育っていけるか.が大事なのですね。これからも、そのことを念頭に子育てをしていきます。今回もありがとうございました。