専門医が語る ワクチン接種と妊活 ホントの話

新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいます。あわせて海外や国内での接種後の様子が伝わるにつれ、その効果よりも副反応が気になる方もいらっしゃるようです。特に妊活中、妊娠中、授乳中の方は、ワクチンの影響について不安を持たれている方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、慶應義塾大学名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生に、妊活〜妊娠〜授乳期における新型コロナウイルスのワクチン接種の影響について伺いました。

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)先生のプロフィール
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

妊娠中でも授乳していても、新型コロナウイルスのワクチンは接種できます

妊娠中でも授乳していても、新型コロナウイルスのワクチンは接種できます

――今日はプレママや授乳中のママの新型コロナウイルスのワクチン接種について先生に教えていただきたいと思います。ワクチン接種が進んで、副反応などについてもメディアなどで報道されることが多くなりました。まずお聞きしますが、妊婦さんや、授乳中の方は、このワクチン接種をしても問題ないと考えてよいでしょうか?

吉村先生:はい、特段問題ないと考えてよいと思います。妊娠中でも、授乳していても接種できます。

――妊娠中は副反応が出やすいということはないのでしょうか?

吉村先生:それはありませんね。日本よりも早く接種が始まった欧米では、妊娠を希望する方に向けて積極的な接種が奨励されています。実際、米国では2021年4月7日時点で7万人以上の妊婦さんが接種していますが、重篤な副反応や胎児への影響は報告されていません(※)。

――一方でワクチンの副反応に関する報道も散見されます。そういうニュースを見ると「大丈夫かな」と不安になるのですが。

吉村先生:わかります。そもそもワクチンというのは異物を身体に入れるわけですので、何かしらの反応があるのは至極当然のことなんです。ワクチンの投与により免疫反応が起こり、感染症の発症を防ぐ免疫ができるわけですから。このときに、熱が出る、倦怠感が起こることをそこまで心配する必要はありません。しかしこれは国民性なのか、それともメディア環境が影響しているのかわかりませんが、日本人はワクチンを忌避する傾向が、欧米人よりも強いように思われます。

専門医が語る ワクチン接種と妊活 ホントの話

――それはなぜでしょうか?

吉村先生:やはり日本の場合は、過去の薬害問題、さらにHPVワクチンの副反応報道などが影響しているのでしょう。しかしシンプルにリスクとベネフィットをどう考えるかという観点で判断していただきたいと思います。たしかに副反応はゼロではないです。事実、軽い副反応を訴える人は多数いますね。つまりそういう意味ではリスクがゼロではない。しかし重篤な副反応が報告されているケースは極めて少なく、ワクチン接種との因果関係も明瞭ではありません。

私が強調したいのは100%の安全、ゼロリスクを求めるあまり、ベネフィットを見ないのは健全ではないということ。ワクチン接種が個人や社会に与えるベネフィットを考えれば、つまり公衆衛生の概念からすると積極的に接種をするのがよいかと思います。

――新しいタイプのワクチンということで、不安がる人もまだいらっしゃると思います。

吉村先生:たしかに新型コロナウイルスのワクチンに使われているメッセンジャーRNAワクチンは、これまでの生ワクチンや不活性化ワクチンとは全く違う新しい技術が使われていて、ウイルスそのものではなく、その遺伝子の一部を接種して抗体をつくるものですね。ただ、これも突貫でつくったものではないです。米国で7、8年前から開発が進んでいた技術を応用して作られています。今後1~2年で回収したデータの分析をしてからでないと、確定的なことを言うのは早いかもしれませんが、すでに世界で何億人にも接種されていますので、安全性の高いワクチンと言って差し支えないかと考えます。

――妊婦さんや授乳中のママでもワクチン接種は問題ないと聞いて安心しました。一方で妊活中の方についてはどうでしょうか。妊娠初期はいろいろ注意が必要な時期と言われていますが、たとえば妊活中の方が妊娠に気づかずに接種しても大丈夫なのでしょうか?

吉村先生:はい、接種したからと言って、それが理由で流産するということはないと考えて結構です。ただし、日本産婦人科感染症学会と日本産科婦人科学会では、接種の時期は念のために妊娠12週までの器官形成期を避け、また万が一の副反応に対応できるように妊婦さんは産婦人科施設で接種することを勧めています(※)これは欧米諸国よりもずっと慎重な方針と言えます。欧米ではそんなことを気にせず接種していますからね。これは妊婦で感染するより、ワクチン接種をした方がいい、という考えが背景にあります。

――なぜ海外と日本とでは対応が違ってくるのでしょうか?

吉村先生:やはり海外は感染者数、重症者数が桁違いに多いことがあります。日本のように感染者数が(相対的に)抑えられている国の場合、妊婦が新型コロナウイルスに感染したとしても妊婦や胎児に与える影響は報告がありません。ところが感染者数が多い国では、一部で母子感染や死産の症例が報告されています。たとえば米国のCDC(疾病対策予防センター)の報告では、新型コロナウイルス感染症の妊婦さんが集中治療室に入るリスクは一般の人の3倍で、死亡するリスクも1.7倍。米国では感染者数が爆発的に増加したので、感染すると重症化しやすかったのでしょう。ですから、日本のように妊娠12週までの接種を避ける、というような方針は打ち出さず、とにかく接種を優先している。そのほうが明らかなベネフィットがあるであろう、という考えですね。

――欧米諸国ほど感染者数が爆発していない日本は、妊婦さんへのリスクもそこまで心配しなくていい状況であるというわけですね。

吉村先生:そうですね。現時点で日本では、感染が妊婦さんや胎児に影響を与えた例はありません。ただし、基礎疾患があると重症化リスクが高くなると言われているのと同じで、妊娠高血圧症候群など妊娠合併症の方は重症化リスクが高くなることが考えられるので、かからないにこしたことはない。だからこそ、妊婦さんもワクチンを打ちましょうということになるんです。もし今妊娠を考えている方は、パートナーも一緒に妊活前に接種を済ませておくとよいかと思います。

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