
――言葉の発達についてのママ・パパの悩みは、「なかなかちゃんとした言葉を話せない」「発音が下手なようだ」というのが多いようです。「これがいい」とか「こうしたい」といった意思表示はできるので、コミュニケーションには困らなくても、言葉を声にして発音できない子どもの場合、どうしたらうまく話せるようになるのでしょうか?
皆川先生:本人が話したいと思えるかどうか、がとても重要です。発話には言葉でコミュニケーションをしたいというモチベーションも大きな役割を果たします。どうモチベーションを上げられるか。
たとえば赤ちゃんの頃に「あー」とか「うー」とか言ったら、その言葉に積極的に応答してあげてください。すると『おしゃべりすると大人が反応してくれるんだ』ということを学びます。それは子どもにとって何よりの“ごほうび”になります。お子さんが声を出すのが楽しいと思えるような環境を心がけてみてください。
――これは個人的な体験エピソードです。今、2歳半の息子がいるのですが、発話はするけれども、親にしかわからないような言葉でおしゃべりをしているんです。親はわかるけれども、第三者は全然わからない。友だちからは「よくわかるね?」って言われるんですが、パターン化されているので、なんとなくわかるんですよね(苦笑)。ただ、親が汲み取りすぎるのもどうかなと思うこともあります。
皆川先生:いいポイントですね。発話が上手にならない原因のひとつは、親御さんがお子さんの片言を理解してしまうために、それで用が足りていると感じ、それ以上、ちゃんと話そうとするモチベーションを削いでいる可能性もあります。
――なんと!
皆川先生:ですので、片言の意味が分かってもすぐに「そうね、わかった」と答えるのではなく、オウム返しで応答して、親子でまねっこ遊びをしながら、発話の練習につなげてみたらどうでしょう。
バナナを見て「バー」と言うなら、まず「バー」と返してから、「バナ?」と誘導する。そこで「バナ」と答えられるようになったら、次は「バナナ」と教えてみるというような、まねっこ遊びですね。そういうやり取りの中で少しずつ発話の訓練をするという方法もありますよ。

――音を少しずつ足して言葉を教えるんですね。やってみます。ちなみにその子は2番目の子どもなんです。2番目の方が環境的にも言葉は早いものだと思いこんでいたのですが、まったく違いました(笑)。ちょっと小柄ということもあり、それも影響しているのかなと…。要は、発話が遅いのは口腔内の筋肉が未発達だからだ、という話もよく聞きますので、体の発達の遅さとも関連があるのかな、とか。
皆川先生:そうですね、それよりも「動機」が関係していると思います。相手に何か伝えたい、発話したいという気持ちがとても大切。私たちの研究グループでも無発音のお子さんを療育するときは、まずは発声させることに重きを置いています。とにかく、なんでもいいから声を出させるんです。
――意味がない言葉でも発話させて、寄り添ってコミュニケーションを取ること。そのコミュニケーションの中で、自分の考えている感情を言葉に表せるようになる…そういう段階を踏んでいくわけですね。
皆川先生:はい。コミュニケーションの萌芽は7、8か月ぐらいから始まっています。その頃の赤ちゃんは喋らないですが、いろいろな形でコミュニケーションを取ろうとしていますので、そういう伝える気持ちに対してちゃんと応えてあげてください。そして“伝えたい気持ち”を継続して持たせ続けることが、言葉の発達にもつながってくるかと思います。
――わかりました。子どもの“言葉力”を高めるためには、なによりママ・パパとのコミュニケーションが基本になるということですね。皆川先生、ありがとうございました。
おしゃべりができるようになる時期は、個人差があります。先生もおっしゃっていたように、早くお話できるようになったからいい、遅いからよくない、ということではありません。もし、なかなかおしゃべりしないな、と思っても焦ることなく、子どもに寄り添ってじっくりコミュニケーションを取り続けてください。あるときから、突然、言葉を話すようになりますよ。
さてインタビューの続きは後編で。こちらも是非、ご一読ください。