ねんねの赤ちゃんの顔を覗き込んで、「早くしゃべらないかな」、「最初の一言はなんだろう」と語り合うママとパパ。2年後、3年後にわが子とどんなやり取りをするのでしょう。
慶應義塾大学で赤ちゃんラボを主宰する皆川泰代教授に「コミュニケーションのための言葉力」をテーマにお伺いしました。
慶應義塾大学文学部教授 国際基督教大学卒 東京大学大学院医学系研究科、脳神経医学専攻 認知・言語医学講座終了 博士(医学)。慶應義塾大学赤ちゃんラボを主宰し、ことば、社会性、感覚・知覚、運動などの発達についての研究を行っている。1児の母。
社会情動的スキルがあってこそ、コミュニケーション能力が発揮されます。
――前編では「言葉の発達とママ・パパの役割」というテーマでお話を伺いました。今回は「コミュニケーションのための言葉力」の育み方について教えていただきたいと思います。
皆川先生:前回の続きにもなってしまいますけれども、まずお話したいのは、子どもの誰かに何かを伝えたい、コミュニケーションしたいという気持ちを高めることの大切さです。私たちが生後6か月の赤ちゃんを対象に行った研究でも、笑顔や声でお母さん・お父さんに働きかけた時に、すぐに反応してもらえる子は言葉の発達が良好になっています。
これは2歳、3歳でも同じです。2歳ぐらいの子どもだと何を言っているか、意図を汲み取れない言動も多いでしょうが、親が笑ったり、「そうだね」とうなずいたり、「アリさん、いるね」と理解や興味を示してくれると子どもは嬉しくなって、言葉のやりとりをしたいという意欲がどんどん高まっていきます。
――人に何かを伝えたいと思う意欲が、コミュニケーション力には必要ということですね。ここでちょっと話はそれますが、大人になると話が上手な人とそうではない人との差って、結構ありますよね。しゃべりのプロである芸人さんなんて、なんであんなに言葉が出てくるのか、語彙のセンスとタイミング(間)もすごい。究極のコミュニケーション能力を持ってるなぁと思うのですが、あれは先天的なものなのでしょうか?
皆川先生:先天的な能力も大きいかもしれませんね。でも、その素地の部分に加えていろいろな経験をするうちに、よりうまく話すコツを身につけていくのだろうと思います。つまり「しゃべり」のうまさは、もって生まれた能力、環境要因、いずれも関係してくるのだと思います。
――芸人さん的な「しゃべり力」も一つの能力として、論理的に言葉を話せるのもすごい能力だと思うんですが、たとえば親が日頃から子どもに対して論理的に話すようにしてみたり、子どもが言うことに対して「どうしてなの?」「そう考える理由は?」などと問いかけて、よりロジカルな考え方や伝え方ができるように導くと、話し上手になったりするものでしょうか?
皆川先生:私が教えている心理学に「言語が思考を決める」という1つの考え方がありますが、わかりやすく論理的に話す習慣がつけば、思考も整理され話し上手になれるのかもしれません。とはいえ、「話し上手」をどう定義するかの話にもなりますが、立て板に水のようなスピーチをする能力と、人とうまくコミュニケーションできる力は違うとは思いますよ。
――たしかに(笑)。
皆川先生:「コミュニケーションのための言葉力」には、相手の立場に立って、思いやる気持ち=社会情動的スキル(非認知能力)が不可欠でしょう。言い換えると社会情動的スキルがあってこそのコミュニケーション力ということになりますね。