【専門家監修】 子どものコミュニケーション能力と「言葉力」の育み方(前編)

【専門家監修】
子どものコミュニケーション能力と
「言葉力」の育み方(前編)

妊娠・出産インフォ

1歳で言葉を発する子がいるかと思えば、3歳になっても上手にしゃべれない子がいるというように、言葉の発達は個人差が大きいようです。わが子がなかなか話し始めないと「どうしてだろう?」「どこか悪いのかな?」とママ・パパが気を揉むことも。

聞いたり話したりするだけでなく、思考や表現にも大切な役割を果たす「言葉」。今回は赤ちゃんの言葉の発達とコミュニケーション力の育み方について、慶應義塾大学で赤ちゃんラボを主宰する皆川泰代教授に伺い、前後編2回に分けてお届けします。

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<プロフィール>
皆川 泰代(みながわ・やすよ)
慶應義塾大学文学部教授 国際基督教大学卒 東京大学大学院医学系研究科、脳神経医学専攻 認知・言語医学講座終了 博士(医学)。慶應義塾大学赤ちゃんラボを主宰し、ことば、社会性、感覚・知覚、運動などの発達についての研究を行っている。1児の母。

 

“語彙爆発”が起きるタイミングは人それぞれ

“語彙爆発”が起きるタイミングは人それぞれ

――本日は脳機能の発達について研究しておられます皆川先生に「言葉の発達」について伺いたいと思います。そもそも赤ちゃんはどのように言葉を覚えていくのでしょうか?

皆川先生:赤ちゃんは最初に音として言葉を捉え始めます。具体的に説明すると、母国語の音のカテゴリーをまず覚えると言われています。日本語を聞いて育つ赤ちゃんなら5つの母音と子音、英語なら12ほどある母音と子音を聞き分けることから母国語を習得していくんです。

たとえば日本人には難しい英語のRとLの音の違いも、生まれたばかりの赤ちゃんなら分かると言われています。でも日本語を話す人に囲まれ、日本語のラ行を聞き覚えていくうちに、必要のないRとLへの敏感性はなくなってしまいます。

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――生まれたばかりの赤ちゃんに備わっていた能力も、その環境によって「必要ないもの」とされ、能力そのものが機能しなくなるのですね。

皆川先生:そして8~10か月になると子音も覚え、母国語を構成している母音子音の並びや、リズムの特徴、イントネーションなども同時進行で学んでいきます。

たとえば日本語はひらがな一文字が等間隔で発音される「こ・ん・に・ち・は」のような一定のリズム。赤ちゃんはママのおなかの中にいる時からそのリズムを聞いています。おなかの中ではママの声が音や振動で伝わってくるし、生まれてきてからも母国語のリズムのなかで育ち、リズムやイントネーションの特徴を学んでいきます。

――なるほど。言語習得のはじまりは、とても音楽的なのですね。

皆川先生:そういった音声的な面と同時に、周りの大人と触れ合い、意思を伝えたり、相手の意思を受け取ろうとしたりしながら、発音だけではない、言葉の意味というものを掴んでいきます。

おしゃべりはできないけれど、親の言っていることはだいたいわかる、みたいな時期もありますよね。生後半年ぐらいの赤ちゃんでも大人の言うことを結構理解していたりするんですよ。

――まずは言っていることを理解するようになる段階があり、次は自分の口からそれを言葉として表現できるようになる…とした場合、だいたいの目安としてどれくらいの時期かおしゃべりできるようになるものでしょうか?

皆川先生:もちろん個人差は大きいです。それを前提として大まかに言うのであれば、1歳前から1歳半ぐらいで「ワンワン」とか「ブーブー」とか、単語が出てくるのが一般的でしょうか。「ワンワン、いた」とか「ブーブー、きた」など2語文を話すのは1歳半~2歳半がおおよその目安です。このように2語文を話し始めるころに“語彙爆発”が起きると言われています。

――語彙爆発とは、使える語彙が急に増えるという意味ですか。

皆川先生:そんなイメージです。赤ちゃんの頃から耳で聞いて覚えた言葉を自分の中にため込んできたけど、いよいよ口にする単語のバリエーションが飛躍的に増えてくることを“語彙爆発”と言います。

――ひたすらインプットしていたものが、アウトプットできるようになる感じですね。

皆川先生:ええ。これが起きる時期も個人差が大きいし、早いから優秀だとか遅いのは心配というものでもないんです。それぞれのペースがあるんですが、ほとんどの子に起きることだと言えます。

――ちなみに、最近は0歳から英語教室などに通わせるご家庭もあるようですが、母音子音とリズムで日本語を学習している赤ちゃんにとって、同じ時期に母語以外のものを身に着けさせるのは、どういう影響をもたらすのでしょうか?

皆川先生:基本は母国語をしっかり習得した方がいいかとは思います。だからと言って聞かせることが悪いことではないのですが、1歳半ぐらいまでは、一方的に音を聞かせるだけだと学習はしにくいと言われています。

一方で、赤ちゃんはすごく柔軟な脳を持っているので、お母さんが日本語でしゃべって、お父さんが英語で話していても、これは日本語、こっちは英語という風にちゃんと区別して同時進行で覚えることもできるんです。ただし、普通の2倍の量の情報を処理するわけですから、その分負担が大きくなります。

――負担が大きくなると、能力が高まる、とかそういうわけでもないですよね?

皆川先生:そうですね、使わない脳の部分も開拓して使っていくケースもあり能力を高めている部分もあると思います。ただ、そこの能力には個人差がありますし、一般論として言えば、バイリンガルの赤ちゃんは発語や言語発達が遅くなりがちです。もちろんどちらも器用に操る子もいますが、このあたりはいかにうまく大人が2か国語の情報を与えるかという所に大きく左右されます。

そういう意味では、両親が日本人のご家庭で、日本語しか使わない環境であれば、まずは母国語をしっかりと身につけることに注力した方が、長い目で見てもよい場合は多いかもしれません。

発話の練習は“オウム返し”で

発話の練習は“オウム返し”で

――言葉の発達についてのママ・パパの悩みは、「なかなかちゃんとした言葉を話せない」「発音が下手なようだ」というのが多いようです。「これがいい」とか「こうしたい」といった意思表示はできるので、コミュニケーションには困らなくても、言葉を声にして発音できない子どもの場合、どうしたらうまく話せるようになるのでしょうか?

皆川先生:本人が話したいと思えるかどうか、がとても重要です。発話には言葉でコミュニケーションをしたいというモチベーションも大きな役割を果たします。どうモチベーションを上げられるか。

たとえば赤ちゃんの頃に「あー」とか「うー」とか言ったら、その言葉に積極的に応答してあげてください。すると『おしゃべりすると大人が反応してくれるんだ』ということを学びます。それは子どもにとって何よりの“ごほうび”になります。お子さんが声を出すのが楽しいと思えるような環境を心がけてみてください。

――これは個人的な体験エピソードです。今、2歳半の息子がいるのですが、発話はするけれども、親にしかわからないような言葉でおしゃべりをしているんです。親はわかるけれども、第三者は全然わからない。友だちからは「よくわかるね?」って言われるんですが、パターン化されているので、なんとなくわかるんですよね(苦笑)。ただ、親が汲み取りすぎるのもどうかなと思うこともあります。

皆川先生:いいポイントですね。発話が上手にならない原因のひとつは、親御さんがお子さんの片言を理解してしまうために、それで用が足りていると感じ、それ以上、ちゃんと話そうとするモチベーションを削いでいる可能性もあります。

――なんと!

皆川先生:ですので、片言の意味が分かってもすぐに「そうね、わかった」と答えるのではなく、オウム返しで応答して、親子でまねっこ遊びをしながら、発話の練習につなげてみたらどうでしょう。

バナナを見て「バー」と言うなら、まず「バー」と返してから、「バナ?」と誘導する。そこで「バナ」と答えられるようになったら、次は「バナナ」と教えてみるというような、まねっこ遊びですね。そういうやり取りの中で少しずつ発話の訓練をするという方法もありますよ。

――音を少しずつ足して言葉を教えるんですね。やってみます。ちなみにその子は2番目の子どもなんです。2番目の方が環境的にも言葉は早いものだと思いこんでいたのですが、まったく違いました(笑)。ちょっと小柄ということもあり、それも影響しているのかなと…。要は、発話が遅いのは口腔内の筋肉が未発達だからだ、という話もよく聞きますので、体の発達の遅さとも関連があるのかな、とか。

皆川先生:そうですね、それよりも「動機」が関係していると思います。相手に何か伝えたい、発話したいという気持ちがとても大切。私たちの研究グループでも無発音のお子さんを療育するときは、まずは発声させることに重きを置いています。とにかく、なんでもいいから声を出させるんです。

――意味がない言葉でも発話させて、寄り添ってコミュニケーションを取ること。そのコミュニケーションの中で、自分の考えている感情を言葉に表せるようになる…そういう段階を踏んでいくわけですね。

皆川先生:はい。コミュニケーションの萌芽は7、8か月ぐらいから始まっています。その頃の赤ちゃんは喋らないですが、いろいろな形でコミュニケーションを取ろうとしていますので、そういう伝える気持ちに対してちゃんと応えてあげてください。そして“伝えたい気持ち”を継続して持たせ続けることが、言葉の発達にもつながってくるかと思います。

――わかりました。子どもの“言葉力”を高めるためには、なによりママ・パパとのコミュニケーションが基本になるということですね。皆川先生、ありがとうございました。

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おしゃべりができるようになる時期は、個人差があります。先生もおっしゃっていたように、早くお話できるようになったからいい、遅いからよくない、ということではありません。もし、なかなかおしゃべりしないな、と思っても焦ることなく、子どもに寄り添ってじっくりコミュニケーションを取り続けてください。あるときから、突然、言葉を話すようになりますよ。

さてインタビューの続きは後編で。こちらも是非、ご一読ください。

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