高橋孝雄先生のなんでも相談室「子どもの食事、そして睡眠のこと」

高橋孝雄先生のなんでも相談室
「子どもの食事、そして睡眠のこと」

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健康を保つ上で、“バランスのよい食事と充分な睡眠”はとても重要なもの。それは子どもにとっても同じです。そこで「乳幼児期の食事と睡眠」はどうあるべきかについて、慶應義塾大学医学部教授で小児科医の高橋孝雄先生に伺いました。

 

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<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

 

離乳食期は無理をさせず「見守る」ことが大切です

離乳食期は無理をさせず「見守る」ことが大切です

――今回は小さな子どもに「食」と「睡眠」のよりよい習慣を身に着けさせるために、ママ・パパは何ができるかについて教えていただきたいと思います。まず離乳食についてです。食べる食べないは個人差があり、「うちの子は食べなくて困る」というママ・パパも少なくありません。

高橋先生:病院でも離乳食についてのお悩みをよく耳にします。ただ「思ったように食べてくれない」というだけであれば悩む必要はないのでは。

――でも離乳食を食べてくれず、ネットや本に書いてある月齢の摂取基準量に足りないようだと、この先どうなるかと心配になってしまうのですが…。

高橋先生:元気で体重も増えているなら心配はいりませんよ。摂取基準量はあくまで目安であり、母乳やミルク主体から1歳すぎぐらいまでに食事主体に移行すればいいわけです。ほとんどの子どもで半年以上かかる気の長い作業ですよね。食の好みは人それぞれだし、いわゆる偏食の子もいます。極端な偏食や食事嫌いの場合、自閉症や知覚過敏といった可能性もないことはないのですが、「本やネットに書いてあるように離乳食が進まない」と案じている程度なら、それは気にすることはないと思います。

高橋先生:バランスの取れた常識的な食生活を心掛けていれば、子どもの成長や発達に支障をきたすほど栄養が偏ることはまずないと考えられます。あまり心配しすぎないことです。離乳食の時期は親子の絆が深まる愛着形成期でもあります。食事の内容や量、食べ方ばかりに気を取られて、赤ちゃんの気持ちを無視して嫌がる食物を押し付けたり、叱ったりする方が問題だと思います。

――そこは気を付けなければいけませんね。「赤ちゃんの気持ち」と言えば、イギリスが発祥を言われているBLWという離乳食の与え方が、最近日本でも一部で流行っているそうです。

高橋先生:BLW? なんですかそれは?

――Baby Led Weaningの頭文字をとったもので、要は赤ちゃんの自主性に任せた、赤ちゃん主導の食事方法のことです。たとえば、赤ちゃんの前に大人と同じ固形の肉や野菜、果物などを並べて、赤ちゃんに自分で食べたいものを選ばせ、手づかみで食べるのを見守るというものですね。

高橋先生:そんなのが流行っているなんて、まったく知らなかったです。医者の立場から言わせてもらうと、まだ十分に咀嚼(そしゃく)できない赤ちゃんが大人のマネをして食べ物を口に入れると、窒息することもあるのではないかと心配になりますね。一方、個人的には、乳児期後半の子どもたちが、何を求めて食物に手を伸ばすのかには興味があります。色、形、匂い、味…何に興味をひかれるのか、そもそも、食物であることを理解して口に運んでいるのか。

――子ども主体で離乳食を進めるというアイデアは目新しいのかなとも思うのですが、お医者さま方から推奨できるものではないと?

高橋先生:たしかに赤ちゃんの自主性に任せるとか、赤ちゃんが主導する離乳食、という言葉はとても響きがいいですね。ただ、耳障りのいいコピーはお母さんやお父さんにとっては魅力的に聞こえるかもしれませんが、それが赤ちゃんのためになるかは別です。たとえば自然食志向の親御さんで、食品添加物を心配しすぎるがあまり、食べられないものが多くなり、結果としてバランスの悪い食事を与えてしまっている、なんてこともあります。

――赤ちゃんのことを思ってやったことが赤ちゃんにとってよくないことにもなりかねないですね…。

高橋先生:そうなんです。僕も、お母さん・お父さんの愛情のこもった手づくりの離乳食が赤ちゃんにとって一番だとは思います。ただ、忙しくて時間がないなら、市販されている瓶詰のベビーフードでもかまわないのでは。無添加のものもあるようですし、仮に微量の添加物が入っていたとしても、それがただちに赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼすなんてことは常識的にはありません。そんなことを気にするより、手づくりでも、そうでなくても、赤ちゃんの立場になって食べやすいものを準備し、無理なくバランスよく与えればいい。これが僕の離乳食に対する基本的な考え方です。

親の愛情や家庭の温もりを感じる食卓に

親の愛情や家庭の温もりを感じる食卓に

――2歳、3歳になると、好き嫌いがはっきりして野菜を食べなくなったり、甘いものばかり欲しがるなど、親を困らせる言動が多くなりますが、偏食はどれくらい容認していいものなのでしょうか?

高橋先生:偏食と言ってもその程度は様々ですし、成長とともに変わっていくこともありますね。健康にいいレシピと称して「これがお勧め!」とか、「これとこれを組み合わせると吸収率が上がる」とか、そういう話がたくさんあり、それはそれで間違ってはいません。ただ、実際の違いをよく調べてみると従来の食事と比較しても誤差範囲だったりします。現代の日本では、特定の栄養や食品にこだわりすぎなくてもいいのではないでしょうか。

――たとえばですがDHAがたくさん含まれた食品を食べさせると、子どもの頭がよくなる、“育脳”につながる、みたいな話もよく聞きます。そうすると、親としてはつい食べさせたくなるんですよね…(苦笑)。

高橋先生:欠乏すると病気になる栄養素は沢山ありますが、だからと言ってそれを2倍与えると2倍頭がよくなるとか、2倍元気になることはありません。“ちょうどいい塩梅”って大事です。子どもを元気に賢く育てなくてはという親としての責任感から「こんな食生活では子どもがちゃんと育たないかも」と心配するのでしょうが、今の日本で子どもをダメにする食事はほとんどないと思います。

――そうなんですか。食事関連の記事は、どちらかというと警鐘を鳴らすものが多いから、どうしてもそっちに引っ張られてしまうんですよね…。

高橋先生:何を食べるかというより、どう食べるかということの方が大事なのではないでしょうか。「子どもをダメにする食事はほとんどない」というのは、食事の内容のことであって、「子どもをダメにする食卓」はあるかもしれません。楽しい会話もなく、食事のマナーや内容について小言ばかり言われていると…。ダメにするは言いすぎかもしれませんが、そんな食卓は子どもにとっても、親御さんにとってもお勧めできません。

――たしかに。

高橋先生:極端な話に聞こえるかもしれませんが、日曜日くらいはみんなで朝寝坊して、遅めの朝食をしに近くの店に行く、なんていかがでしょうか。

――たとえば朝からファストフード店とかですか?

高橋先生:ええ。お母さん、お父さんとフライドポテトつまんで「おいしいね!」と笑い合うのは、子どもにとってめちゃくちゃ楽しいことなんじゃないかな。それから家族みんなで公園に行って遊べば、最高の休日になるでしょう。

――そうですね。楽しいとは思うのですが「食生活」としては、さすがによくないですよね?

高橋先生:何事も程度問題です。毎日、毎食がファストフードではそれは栄養学的にも大問題ですし、そもそも子どもの食生活にあまりに無関心なのは行きすぎです。だからといって週に数回利用する程度では食生活が乱れているなんてことにはならないと思います。ファストフード店は一切利用しない、オーガニック食品しか与えない、という価値観を否定はしません。ただ、そうしたことは「自分のため」にやるのであれば結構ですが、子どもにまでそれを徹底させることには賛同しかねます。

僕は仕事の前に走ることが多いのですが、それは子どものためではないし、親の姿を見習ってほしいわけでもありません。自分がやると決めたからやっているだけ。食事も同じことです。親のストイックな食生活に子どもをつきあわせるのは違うんじゃないかな。本当にそれを子どもが望んでいるのか、子どもにとって幸せなことなのかを考えていただきたい。食事の時間は、子どもが親の愛情に直に接し、家族で食べることの楽しさを実感できるひとときにしてあげてほしいものです。

早寝早起きが難しいなら、早起き早寝を心がけて

早寝早起きが難しいなら、早起き早寝を心がけて

――話は変わりますが、幼児期の睡眠についての質問です。2009年にOECD(経済協力開発機構)がまとめた「睡眠時間の国際比較」(※1)によると、働く日本人の睡眠時間は平均で約7.7時間。イギリス、フランス、ドイツなどヨーロッパ7か国と比較すると一番短くなっています。ママ・パパの睡眠時間が短いということは、子どもにも影響があるのかなと思っていて、実際わが家でも毎晩子どもを寝かしつけるのが遅くなってしまうのが気になっているのですが…。

高橋先生:睡眠はたしかに大事ですが、実際どれくらい必要かは個人差が大きいんです。厚生労働省のHPにも子どもたちの睡眠時間の調査結果(※2)が出ていますけれど、あれは平均的な子どもたちはこれくらい寝ていますよという現状を示したもので、これ以上短くなると病気になるとか、成長に影響があるというものではありません。

大人でも“ショートスリーパー”と呼ばれる短い睡眠でも元気に活動している人がいますよね。長く眠るから仕事ができるとか、幸福だとか、一概に言えないのでは。睡眠時間と幸福度や知能の関係についての子どもを対象としたデータも非常に限られていると思います。

――「寝る子は育つ」ということわざがあるように、充分な睡眠は成長に不可欠かと思っていました。

高橋先生:それもまた真実です。脳の奥深くには、睡眠に関わるメラトニンというホルモンを分泌している松果体(しょうかたい)や全身の感覚を脳に伝える視床(ししょう)、食欲や性欲など原始的な感情をコントロールする視床下部(ししょうかぶ)などがあり、生命活動に必要な多くのホルモンを分泌する脳下垂体もすぐそばにあります。

こうした脳の働きを阻害し、からだの自然のリズムを大きく乱すような睡眠のとり方は、やはり避けなければなりません。子どもにとっても同様で、個人差があるとはいえ、平均的な子どもの睡眠時間より極端に短かったり、昼寝が必要な年齢なのに昼寝をしない場合は注意が必要です。

――やっぱり、睡眠は大切ですよね。

高橋先生:その通りです。でも、僕がここでお伝えしたいことは、「睡眠が大切だ」という言葉にがんじがらめにならないで、ということ。子どもを早く寝かせるためにと、ひとりで晩御飯を済ませてひとりで入浴させるぐらいなら、ちょっと遅くなっても家族でご飯を食べ、お母さん、お父さんとお風呂の時間を楽しんだ方がいいと僕は思うんです。もちろん、子どもの生活リズムは親が作るものですから、無理のない範囲で早目に寝かせたりすることも大切だとは思います。

――これもネット上の“与太記事”だと一刀両断されるかもしれませんが、「東大生は、就学前は夜9時頃には寝ていた」みたいな話が、まことしやかに語られていたりします。このあたりについての高橋先生の見解をお聞きしたいのですが。

高橋先生:う~ん、相関関係と因果関係は違うんですよね。今の例は(たまたま調べた少数の人々については)就学前の就寝時刻と東大進学の間に“相関関係”があるかも知れない、といいたいのだと思います。だからといって「早く寝かせる→勉強ができるようになる」という“因果関係”を述べることはできないんです。僕が言えるのはそれくらいです(笑)。

睡眠は長さだけではなく質も大事なことは専門家も指摘しているところですよね。たとえば睡眠の質は、昼間のすごし方に左右されると言われます。子どもには早く寝て欲しいし、充分寝て欲しいですけれど、日中よく遊んで(仮に遅寝であっても)ぐっすり眠るようであれば、あまり心配はないでしょう。子どもの場合、早寝早起きではなくて、早起き早寝と言いたいですね。早く起き、存分に遊んで、楽しく食事をとれば、早い時間に眠くなるものでは。

――たしかにそうですね! 昨日は夜遅かったからと遅くまで寝かせておかないで、決まった時間に起こして、その代わり早めにお昼寝をさせてもいいかもしれません。そうすると一日のスタートが早くなって夜は早く寝てくれそうです。 本日もいいお話、ありがとうございました!

 

食についても睡眠についても、乳幼児期は生活習慣を確立する大切な時期。それと同時に、家族の絆を強くする愛着形成期ということも忘れずにいたいものです。こうすべき、こうあるべき、という「理想」に縛られることなく、わが子と向き合って、ママ・パパなりの「良い食事」「良い食卓」「良い睡眠」を探してみてください。そこにちゃんと愛があれば、それがきっとママ・パパ、そして子どもにとっての“正解”になりそうですよ。

 

〈参考資料〉
(※1)平成26年度版厚生労働白書~健康・予防白書~(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/14/backdata/1-2-3-22.html
(※2)第4回21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)(厚生労働省/平成29年)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/16/dl/h22_kekka_02.pdf

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