――2歳、3歳になると、好き嫌いがはっきりして野菜を食べなくなったり、甘いものばかり欲しがるなど、親を困らせる言動が多くなりますが、偏食はどれくらい容認していいものなのでしょうか?
高橋先生:偏食と言ってもその程度は様々ですし、成長とともに変わっていくこともありますね。健康にいいレシピと称して「これがお勧め!」とか、「これとこれを組み合わせると吸収率が上がる」とか、そういう話がたくさんあり、それはそれで間違ってはいません。ただ、実際の違いをよく調べてみると従来の食事と比較しても誤差範囲だったりします。現代の日本では、特定の栄養や食品にこだわりすぎなくてもいいのではないでしょうか。
――たとえばですがDHAがたくさん含まれた食品を食べさせると、子どもの頭がよくなる、“育脳”につながる、みたいな話もよく聞きます。そうすると、親としてはつい食べさせたくなるんですよね…(苦笑)。
高橋先生:欠乏すると病気になる栄養素は沢山ありますが、だからと言ってそれを2倍与えると2倍頭がよくなるとか、2倍元気になることはありません。“ちょうどいい塩梅”って大事です。子どもを元気に賢く育てなくてはという親としての責任感から「こんな食生活では子どもがちゃんと育たないかも」と心配するのでしょうが、今の日本で子どもをダメにする食事はほとんどないと思います。
――そうなんですか。食事関連の記事は、どちらかというと警鐘を鳴らすものが多いから、どうしてもそっちに引っ張られてしまうんですよね…。
高橋先生:何を食べるかというより、どう食べるかということの方が大事なのではないでしょうか。「子どもをダメにする食事はほとんどない」というのは、食事の内容のことであって、「子どもをダメにする食卓」はあるかもしれません。楽しい会話もなく、食事のマナーや内容について小言ばかり言われていると…。ダメにするは言いすぎかもしれませんが、そんな食卓は子どもにとっても、親御さんにとってもお勧めできません。
――たしかに。
高橋先生:極端な話に聞こえるかもしれませんが、日曜日くらいはみんなで朝寝坊して、遅めの朝食をしに近くの店に行く、なんていかがでしょうか。
――たとえば朝からファストフード店とかですか?
高橋先生:ええ。お母さん、お父さんとフライドポテトつまんで「おいしいね!」と笑い合うのは、子どもにとってめちゃくちゃ楽しいことなんじゃないかな。それから家族みんなで公園に行って遊べば、最高の休日になるでしょう。
――そうですね。楽しいとは思うのですが「食生活」としては、さすがによくないですよね?
高橋先生:何事も程度問題です。毎日、毎食がファストフードではそれは栄養学的にも大問題ですし、そもそも子どもの食生活にあまりに無関心なのは行きすぎです。だからといって週に数回利用する程度では食生活が乱れているなんてことにはならないと思います。ファストフード店は一切利用しない、オーガニック食品しか与えない、という価値観を否定はしません。ただ、そうしたことは「自分のため」にやるのであれば結構ですが、子どもにまでそれを徹底させることには賛同しかねます。
僕は仕事の前に走ることが多いのですが、それは子どものためではないし、親の姿を見習ってほしいわけでもありません。自分がやると決めたからやっているだけ。食事も同じことです。親のストイックな食生活に子どもをつきあわせるのは違うんじゃないかな。本当にそれを子どもが望んでいるのか、子どもにとって幸せなことなのかを考えていただきたい。食事の時間は、子どもが親の愛情に直に接し、家族で食べることの楽しさを実感できるひとときにしてあげてほしいものです。