【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】
幼少期に教えておくべき「もっとも大切なこと」とは

小児科医 / 高橋孝雄先生

小さいときに教えておくべき「もっとも大切なこと」とは

小さいときに教えておくべき「もっとも大切なこと」とは

I:それにしても子どもの成長は早いとつくづく感じています。ちょっと前まで何もかも親に頼っていた子が友だちと遊べるようになり、公園を駆け回っている。こうしていつの間にか巣立っていくのかと思うと、幼いうちに教えておくべきことがもっとあるのではないかと考えてしまうんです。

とはいえ時間にも限りがあるので、結局は「選択と集中」みたいなものが必要になる。そう考えると、幼少期という限られた時間の中で、親が子どもに教えるもっとも大切なことってなんでしょうかね。

高橋先生:また壮大な悩みを持ち出してきましたね(笑)。実に難しい問いですがあえて言えば「失敗を恐れないこと」を教えることはすごく大切だと思います。言い換えるならば、どんどんと失敗をさせること。もちろん失敗にもさまざまなレベルのものがあるのですが、僕が言っているのは「小さな失敗」です。

高橋先生:失敗をすれば悔しい思いもするし、泣くことだってあるでしょう。でも、子どもの頃に小さな失敗をたくさん積み重ねておくと、失敗する=ゲームオーバーではないことを体感的にわかるようになる。つまり、失敗してもその先があることを知るし、失敗した時に自分には仲間や家族など味方になってくれる人がいることを学ぶのです。そして失敗した時とか苦境に立った時にこそ仲間の大切さを実感する。それを小さなころから体験し、知っておくことはとても大切なことだと僕は思います。

I:失敗しても受け入れてくれる友だちがいる。それが自己肯定感をも育む――そういうことですかね。

高橋先生:そうです。子どもが失敗しないように親が先回りしてお膳立てをするのは、子どものためにならないと僕は常々言ってます。子どもは毎日小さな失敗を繰り返して、いろいろな事を学び、成長していくものなのです。自分で決めたことで失敗をするのは、いい失敗、必要な失敗ですよ。

I:いい失敗は買ってでもせよ、ですね。ちなみに“よくない失敗”もあるわけですよね?

高橋先生:まぁ、誰かにやらされて失敗するのは、いい経験とは言えないでしょうね。失敗の前に、本人に選択・決断をさせることが大切だと思います。

絶対にやってはいけない危険な行為や人に迷惑を掛けるようなことをしようとした場合は、当然大人が止めるべきですけど、仮に大人の目で見て失敗するとわかっても、そこは本人の判断に任せるべきではないかと。

高橋先生:たとえば「今日は寒いから、上着を着なさい」、「イヤだ」というやり取りの後、上着を着ないで外に出たら本当に寒かった、なんてよくあることですよね。子どもはそれで寒い思いをし、学ぶわけです。少しぐらい寒くても風邪を引くわけじゃないですしね。というか風邪くらい引いてもいいじゃないですか。もしくは隠し持った上着を優しく差し出して「寒いでしょ。実は上着を持ってきてんだけど、着る?」とフォローすればいい。

I:そこのフォローは大切ですよね。先ほど仰ったように、失敗したときでもフォローしてくれたり、守ってくれる家族や仲間がいることを実感することが子どもにとっても大切な経験になる。

高橋先生:そうなんです。自分で決めて失敗しても、周りは受け入れてくれる。大人も仕事をそうやって覚えていくでしょう。子どもの成長も同じことです。そんな大人たちの対応で、失敗を恐れない子どもになると思うんですね。逆に失敗の体験が少ない子は、失敗を恐れるようになるんじゃないでしょうか。

I:いままで「小さな失敗」を前提としてきましたけど「大きな失敗」はどう考えればいいでしょうか? たとえば中学受験は、最近は小学校低学年から準備するような流れになってきています。1年生や2年生の頃から塾に通い、親の期待を背中に受けつつ、必死になって勉強を続けて志望校に合格できなければ、それは「小さな失敗」ではないように思うんです。そういうレベルの失敗をしたとき、親はどう対応したらいいのでしょうか。

高橋先生:僕も半世紀近く前のことですけど中学受験をしましたから、本当は言える立場ではありません。ただ、中学受験については懐疑的です。小学校時代というのは人間性を培うのにすごく大事な時期。特に小学生高学年から中学生の数年間の子どもは、思春期を挟んで精神的にものすごく成熟していきます。

そんな時期の大半を受験のためだけに、すべてを犠牲にするようなことは避けたほうがいいと個人的には思っています。受験に合格したとしても、失うものも多いことには目を向けた方がいいし、ご指摘のように不合格になればそれは「大きな失敗」となります。

以前の記事でもご紹介しましたが、養老孟司先生と対談させていただいたとき、「子どもたちが今を楽しく生きることが何より大事」とおっしゃり、中学受験などで小学生の頃からお友だちと存分に遊べなかったり、家族との大切な時間を犠牲にしている実態について「幸せの先送り」と嘆いておられます。

I:「幸せの先送り」はなかなか強烈な言葉ですね。未就学児や小学生の頃にしか得られない「幸せ」を犠牲にして、どうなるかわからない将来のためにあまりに時間や労力を投資しすぎではないか、ということですよね…。

そのご指摘はごもっともだなと思いつつ、あえてお聞きします。受験の合否は大切ではありますが、もっと大切なことは勉強の過程。数年間に渡り、ひとつの目標に向かって努力した事実だと思うんです。つまり「努力は嘘をつかない」という性善説に立つなら、やっぱり頑張ったことで得られるものも相当あるのかなと。

高橋先生:それはそうでしょう。学力もつくし、努力する過程で得られる様々な体験も大切です。それに仮に受験に失敗しても、「報われない努力がある」ということを経験するので、それもポジティブに捉えることもできる。でも、そんなことは塾に通わなくてもそのうち経験するし、そもそも受験勉強で得られる学力はその後の人生で十分追いつける程度のものなんです。

高橋先生:もちろん僕も、受験勉強が無駄とは思っていません。ただ、時間の大切さはもっともっと考えて欲しいと思うんです。時計の針を戻すことは、どんなお金持ちでも、権力者であっても不可能。費やした時間はかえってきません。繰り返しになりますが、子どもが成長・発達する「極めて大切な時間」を、受験だけに費やすのはもったいないと僕は思っているだけです。

I:先生、めちゃくちゃ正論だと思います…。って、いつのまにか受験の話になってますね(苦笑)。最後の最後なんで強引にテーマに戻すと、幼少期に親が子どもに教えるべきことは「失敗を恐れないこと」だと。

高橋先生:そうそう。記憶にも残らないような日々の幸せやちょっとした失敗みたいなものをたくさん経験して人は成長していくんです。ですから、失敗を恐れず前向きなチャレンジができる子を育てるために親がすべきことは、子どもが実体験から多くの事を学べるように見守っていくことなんじゃないかと思いますよ。Iさんもお子さんが成長してきて、悩みの種類が変わってきているようですけど、すぎてしまえばどれも大したことではありません。あまり自身を追い込みすぎず、おおらかな気持ちで子育てをすることが親にとっても、子どもにとっても大切なことだと思いますよ。

I:そうですよね…。この連載をはじめて5年。上の子どもも6歳になったので、悩みや課題がどんどん変わっていくんですけど、先生がおっしゃるとおり初心を忘れずおおらかな気持ちで子どもと接し続けることが大切ですよね。今回もいろいろ学ばせていただきました。ありがとうございます!


シャイな子どもを“矯正”するのは余計なお世話で、なるようにしかならない。人前で緊張する性格でも、伝えたい何かを持っていることが「堂々と」できることの前提なのだから、まずは自分が伝えたいことを持つことが重要だという先生のお話。

また子どもにできるだけ「小さな失敗」を経験させれば、それがチャレンジ精神を育てたり、周りとの信頼関係を築いたり、自己肯定感を膨らますことになるというお話も興味深いものでした。

今回は2つのテーマでお話しいただきましたが、一貫していたのは子どもの主体性であり意志を大切にすべきということ。本人がどう思い、どう考え、どう行動しようとしているのか。本人の気持ちを尊重して、失敗を恐れず自らで決断、選択をさせることが重要だということを改めて感じました。

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