育休取れても取らないのはナゼ?
「父親育児」の現状を専門家にお聞きしました

ミキハウス編集部

平成28年に総務省が行った調査(※1)によると、男性が育児・家事を行う時間は1日あたり1時間23分で、女性の約7時間30分と比べると依然として大きな開きがあります。令和3年の労働力調査(※2)では、25~44歳の女性の8割近くが就業しています。働く母親は急増しているというのに、父親の育児・家事の時間が増えないのはどうしてなのでしょう。

NPO法人ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さんに男性育児の現状と課題について伺いました。

 

イクメンブームから10年超 日本の男性育児の現在地はどう?

イクメンブームから10年超 日本の男性育児の現在地はどう?

担当編集I(以下、I):2022年4月から改正育児・介護休業法(※3)が施行され、育児休業が取りやすい職場環境が整備されることが期待されており、10月には男性の育児休業取得を促進するための「産後パパ育休(出生児育児休業)」や育児休業の分割取得制度が導入される予定です。男性の育児参加への期待感が高まっている状況ではありますが、まずは現状についてお聞きしたいと思います。

「ユーキャン新語・流行語大賞」で“イクメン”がトップテンに選ばれたのは2010年。それから10年超が経過したわけですが、イクメンブーム以前から、男性育児の啓蒙活動や職場環境の整備に携わっている安藤さんは、この10年〜15年の状況をどう見られてますでしょうか?

安藤さん:ファザーリング・ジャパン(以下FJ)が「笑っている父親になろう」をキーワードにNPOとして活動開始したのが2006年のこと。あの頃は、男性は外で仕事をして、女性が家庭を守るというのが“常識”であり、男性は子育てに参加しない、もっと平たく言うと男性は子育ての戦力として見なされていないことが、半ば当然のように受け止められている時代でした。

安藤さん:その頃に比べると、社会の状況はかなり変わったとは思います。国の子育て制度も拡充し、おっしゃるようにイクメンブームもあり、その言葉すら古くなりつつあるほど、男性が子育てをするということへの「理解」は進んでいると思います。とはいえ、さまざまな調査で指摘されているように、日本はまだまだ欧米に比べて男性が育児・家事をする時間が少ないのが実態です。

I:前向きに見れば「変わってはきているが道半ば」といったところでしょうか。

安藤さん:そうですね。企業でも男性育児を推奨している会社の社員と、そうではない会社の社員とでは相当の格差があると思われます。また地域間格差もあるでしょう。東京や大阪など大都市では女性が出産後も働き続ける職場環境が徐々に整ってきていますが、地方都市では、出産を機に仕事を辞めて子育てに専念し、子どもが大きくなったらパートで働くという女性がまだ圧倒的に多い。このあたりは都市部から先行して「変わっていく」のではないかなと思います。

I:男性の育児参加を促すためにすべきこととはなんでしょうか。

安藤さん:間違いなく「働き方」を変えることにあると思います。2017年に「働き方改革」が始まってから、長時間労働の見直しが進んでいるし、2020年からはコロナ禍でテレワークになって、在宅時間が長くなった父親も多い。ただし男性が育児・家事をする時間が増えたのかと思ったら、ほとんど変わっていません。それどころか、女性は家事時間が増えたという民間の調査結果もあるほどです。

I:なるほど。ここは注視すべきところかもしれませんが、育児取得率だけを見ると数字はすごく上がっています。具体的に言うと2006年男性の育休取得率は0.6%だったのですが、2020年には12.65%と20倍以上。にもかかわらず男性が育児・家事をする時間が増えていないとしたら、これはなにを意味しているのでしょう?

安藤さん:非常に残念ですが、育休を取ってもほとんど家事や育児はしていないということになるのでしょうね。「とるだけ育休」という言葉も一部流行ったりもしましたが、これは〈うちの夫は育休を取った…けれど、何もしてくれない〉という実態を可視化した現象で、それにより母親から父親への不信感を増長させることにもなった。もっとも育休取った男性のすべてが「取るだけ」になっているわけではなく、僕の実感では8割の男性は「取って何をするか」を理解し、しっかりやっていると思います。

安藤さん:男性が子育てをするということへの「理解」は進んでいる、と先ほど申しましたが、意識レベルでは前進しているけれども、実態はまだまだ伴っておらず、子育てや家事における男女間の不平等は解消できていないんですね。

I:世界経済フォーラムが毎年公表する「ジェンダーギャップ指数」によると、日本の「ジェンダーギャップ」指数の順位は156カ国中120位(2021年)です。これはなかなかの結果です。こうした状況を変えていくには、さまざまな人たちの意識を変えていく必要があるのかもしれませんね。

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