妊娠初期とは妊娠13週6日までのことを指します。この時期は、体調の変化やつわり、いつもと違う“違和感”などもあり、なにかと心もざわつき不安を募らせがち。初めての妊娠はちょっぴり不安なもの。でも体調不良の原因はどんなことで、その症状がなにを意味するのかを知るだけで、気持ちも楽になるはず。そこで「妊娠初期」について、慶應義塾大学名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生に監修のもと、まとめました。
妊娠初期はいつからいつまで!?
妊娠初期は妊娠13週6日までのこと。つまり最後の月経が始まった日を0週0日として、13週6日までの3か月半を妊娠初期と言います。
ちなみに子宮に胚(受精卵)が着床するのは、最後の月経が始まって約3週後。つまり妊娠が成立した時点ですでに妊娠3週と数えるのです。ということで、次の章では妊娠3週からどのようにして受精卵は胎児へと成長していくのか、おなかのなかの赤ちゃんの様子を週ごとにまとめていきます。
妊娠初期の赤ちゃんの様子や大きさは?
〈妊娠3週〉 着床=妊娠の成立です!
受精卵が着床し、妊娠が成立します。着床した受精卵は「胎芽(たいが)」と呼ばれますが、これは妊娠10週未満の呼び名。妊娠10週以降は「胎児」となります。
〈妊娠4週〉 妊娠検査薬にも反応
子宮内に「胎のう」(=赤ちゃんが育つためのお部屋)ができ、その中で赤ちゃんの原型となる胎芽が育ち始めます。この時期の胎芽は1mm前後。超音波(エコー)で確認できないほど小さいですが、受精直後の胎芽の大きさは0.1~0.2mmなので、かなり育っているのです。なおこの頃になると、妊娠検査薬に反応するようになります。
〈妊娠5週〉 エコーで確認できるように
この頃になると超音波(エコー)検査で胎のうが確認できるようになります。妊娠5週~11週までは、赤ちゃんの脳や脊髄(せきずい)、心臓、胃、目や耳などの器官が作られる「器官形成期」です。特に心臓は早くに作られ、拍動するようになります。これは赤ちゃんが自分の体内に血液を循環させて、ほかの臓器たちの発育を支えるためなのです。
〈妊娠6週〉 早ければ赤ちゃんの心拍も確認できます
胎芽は約6mmになります。手足や目、耳、口などの原型がつくられ始めます。この時期になると、超音波検査で赤ちゃんの心拍を確認できるようになります。ただし、同じ妊娠週数でも6週0日と6週6日では「まったく違うステージ」です。妊娠6週とされる7日間のうち、いつ検査を受けるかにもよるので、6週なのに心拍が確認できなかったからといって心配する必要はありません(7週末までに確認できれば問題ないでしょう)。
〈妊娠7週〉 羊水が溜まってきます
赤ちゃんの頭からおしりまでの長さ(CRL=Crown-Rump Length)は約12mm、体重は約4gまで育ちます。この時期に、脳や脊髄(せきずい)の神経細胞の約80%がつくられて、脳の神経や目の視神経、耳の聴神経などが急速に発達しています。胎盤や臍帯(さいたい=へその緒)のもとになる組織も発達し、羊水(ようすい)も少しずつ増えていきます。
〈妊娠8週〉 大切な器官の基本形がほぼ完成
赤ちゃんの脳や心臓、肺などの基本的な形があらわれます。頭と胴だけの“2等身”から“3等身”になり、首ができて、手足も少し伸びてくるので随分と人間らしい容貌になってきます。また脳をはじめ、心臓や肺、肝臓、腎臓などの器官の基本的な形がほぼ完成する重要な時期でもあります。手足の指や目、鼻、耳などの感覚器官も、細部まで徐々に形づくられていきます。
〈妊娠9週〉 手と足の基本形が出来始めます
手(腕)や足(脚)の基本形ができ始めます。CRLは20~30mm。頭の骨や太ももの骨も徐々にできる時期なので、超音波検査でも、その様子がわかります(骨は白く映ります)。
〈妊娠10週〉 手足を動かすようになります
超音波の画面で、羊水の中でからだを動かしている赤ちゃんを見ることができます。水かきのようにそれぞれくっついていた手足の指も、分かれていき指の形になっていきます。ちなみに足の指より、手の指のほうが先にはっきり分かれ始めます。
〈妊娠11週〉 赤ちゃんが両足を動かすようになります
この頃になるとCRLは約40mm、体重約20gぐらいです。鼻も高くなり、鼻の穴ができます。さらにまぶた、耳たぶ、くちびるなども形成され、人間らしい顔つきになります。男女を区別する外性器はこの週の終わりごろにはできます。
また“原始歩行”と呼ばれる、両足を交互に動かし、まるで歩くような仕草を見せるようにもなります。この動作は赤ちゃんの中枢神経が発達していることを示しています。
〈妊娠12週〉 脳が左脳と右脳に分かれていきます
脳が左脳と右脳に分かれ、超音波検査でも左脳と右脳を分ける「ミッドライン」が確認できるようになります。また心臓も4つの小部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)に分かれていきます。
〈妊娠13週〉 小腸が急速に発達していきます
CRLは約8㎝、体重は約35gになります。妊娠7週にできはじめた小腸が、この頃から急速に発達します。食べ物の栄養を消化・吸収できるからだになる準備を整えていくのです。
妊娠初期の症状とは?
妊娠が成立すると、プレママのからだでは赤ちゃんを育てるための環境づくりが始まります。そのためホルモンの働きやホルモンバランスが大きく変わって、胸やおなかが張ったり、腰痛や頭痛を感じることがあります。こうした妊娠初期の症状は多くの場合、そのままつわりになっていくようです。
つわりのピークは8~9週と言われていて、15週をすぎると落ち着いてくるものですが、ほとんど自覚のない人もいれば、入院が必要なほど症状が重くなる人もいて、個人差が大きいのも特徴です。つわりの代表的な症状と乗り切り方をまとめました。
◆吐き気がする
胃や胸がむかつき、吐き気を感じます。食欲がなく、食べても吐いてしまうようなら、とりあえず水分補給を心がけて。反対に何か食べていないと吐き気がする“食べつわり”を訴えるプレママもいます。その場合は少量を何回にも分けて食べるようにして、食べすぎを防ぎましょう。
◆匂いに敏感になる
匂い(臭い)に敏感になり、炊きたてのご飯の匂いや以前は好きだったアロマの香りでさえ嫌でたまらなくなることもあります。そのせいで食事もままならないことも。匂いが気になる料理でも、冷やすと食べやすくなることもあるので試してみてください。気になる臭いのものは、身近に置かないようにする、避けるようにするなど工夫をしましょう。
◆食べ物の好みが変わる
特定の食べ物を受け付けなくなったり、嫌いだった食べ物が無性に食べたくなったりするのもつわりの特徴的な症状です。この時期は栄養バランスを気にするより、食べたいものを食べましょう。ただし、赤ちゃんのからだの基礎を作る葉酸やビタミンが不足しないように、サプリなどを上手に利用してください。
◆眠い、イライラする
きちんと睡眠をとっているのにいつも眠かったり、頭痛やだるさを覚えたり、イライラしがちなのも妊娠初期の症状のひとつです。妊娠に伴うからだの変化ととらえて、眠れる時には眠り、散歩や友人とのおしゃべりで気分転換をするなどの対策も有効です。
もちろん無理は禁物です。特につわりの症状がある間は、家の事はパートナーにがんばってもらい、(外で働いている方は)職場でも早めに妊娠を報告して、時差出勤やリモートワークなど無理のない働き方ができる環境を整えましょう。
一日に何度も吐く、体力が落ちてふらつくなど「つわりがひどい」と感じるなら、迷わず産科で診察を受けましょう。
妊娠初期にするべきこと、気をつけるべきこと
母子健康手帳をもらい、妊婦健診を受けましょう
住民票のある市区町村に妊娠届を提出すると母子健康手帳が交付されます。母子健康手帳は、プレママの妊娠や出産の経緯、生まれてくる子どもの小学校入学前までの健康状態や予防接種などの記録を残しておくものです。
妊婦健診は妊娠初期には4週間ごとに受けることになっています。プレママとおなかの赤ちゃんの健康状態を確認し、妊娠中に起きる疾病を早期発見するための大切な健康診断ですから、決められた日にかかりつけの産科で受診しましょう。
流産・切迫流産について理解しておきましょう
流産とは妊娠22週より前に妊娠が終わること(※1)。受精卵の40~70%は発育過程で失われるという報告があります。その多くは母親が妊娠を自覚する前に消失するため、臨床的に流産として認識されるのは、全妊娠の10~15%程度。つまり100人の女性が妊娠すると、そのうち10〜15人は流産していることになります。そのうち8割が妊娠12週未満です。
昨今、早期の流産が増えているとされていますが、妊娠検査薬が一般的になり、以前は月経と間違われていた妊娠初期の流産が分かるようになったことも原因のひとつと考えられます。
ほとんどの流産は受精が完全な形で行われなかったことによる染色体異常が原因ですから、妊婦であれば誰にでも起こりえると言えます。とても残念なことですが、受精のチャンスはまた巡ってくると受け止めましょう。
万が一流産が疑われる腹痛や出血などがあったら、すぐに医療機関を受診してください。
日常生活を見直しましょう
喫煙は早産や流産につながります(※2)。飲酒(※3)も少量でも胎児に影響を及ぼす可能性がありますから、妊娠中は止めた方が良さそうです。コーヒーやチョコレートなど刺激物の摂りすぎにも気をつけて。薬も成分によってはプレママのからだやおなかの赤ちゃんに影響するものがありますから、服用する時はかかりつけ医に相談しましょう。
睡眠を十分に取り、規則正しい生活にすること。食欲があるのであれば、バランスのとれた食事を摂ることを心がけることが望ましいですが、「●●を食べなければいけない」「●●を食べるべきた」と神経質になる必要は一切ありません。
感染症予防も忘れずに
母子感染によって、おなかの赤ちゃんが先天性異常をきたす感染症にも注意が必要です。特に数年に一度、日本でも流行している風しん。妊娠を望んでいるなら、妊活の第一歩として風しんの抗体検査をパートナーと受けてください。
新型コロナウイルスの対策も忘れずに。妊娠中の感染は重症化するリスクが高い可能性が指摘されています。特に高齢(35歳以上)、肥満(BMIで30以上)、喫煙者、高血圧・糖尿病・喘息などの基礎疾患を持つ妊婦では重症化のリスクが高いことが報告されており注意が必要ですので、ワクチン接種、その他の一般的な感染対策は徹底してください。
猫の排泄物に含まれるトキソプラズマ菌、加熱していない食品などから見つかるリステリア菌、幼児の尿やよだれなどを介して感染するサイトメガロウイルス菌の感染にもご注意を。これらの感染予防には手洗いを徹底し、食品は加熱するなどの対策を取ってください。
睡眠不足やストレスもつわりを悪化させるなど、体調不良につながりますから、妊娠が分かったら規則正しい生活を心がけ、できるだけ穏やかに日々を暮らすようにしたいですね。
妊娠初期は体調や気持ちも不安定で、加えてつわりがひどいと、本当に辛い日々が続きます。それでも自分のおなかで赤ちゃんが育っていくのを実感するのは、プレママだけの特別な経験です。プレパパや家族もプレママの気持ちに寄り添いながら、妊娠期をみんなで乗り越えていきましょう。
- <参考資料>
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※1流産・切迫流産(日本産科婦人科学会)
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=4 -
※2最新たばこ情報/妊娠出産への影響(厚生労働省)
http://www.health-net.or.jp/tobacco/menu10.html -
※3女と男のディクショナリー/妊娠中にやってはいけないこと(日本産科婦人科学会)
http://www.jsog.or.jp/public/human_plus_dictionary/book_vol2.pdf
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※1流産・切迫流産(日本産科婦人科学会)
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。