日本人女性の10人にひとりが発症する乳がん。今回は「乳がんとの向き合い方」をテーマに、乳がん検診を受ける時に知っておきたいことから、手術をはじめとする治療の方法、手術後の妊娠・出産などについてまとめています。お話を伺うのは、がん・感染症センター都立駒込病院乳腺外科の医師・才田千晶先生です。
鹿児島大学医学部卒。がん・感染症センター東京都立駒込病院乳腺外科勤務 。外科専門医、乳腺認定医、マンモグラフィー読影認定医、遺伝性腫瘍専門医。今年7月に第1子を出産し、現在育休中で、新米ママとして奮闘する日々を送っている。「妊娠・出産を経験して、ママたちのがんばりや家族を思う気持ちを自分事として理解できるようになりました。復帰したら今まで以上に患者さんの気持ちに寄り添える医師を目指します!」
腫瘍が見つかりにくいタイプの乳房があります
担当編集I(以下、I):万が一乳がんを発症しても、少しでも早く見つけられれば治療の負担が軽くなることを前回の記事「知っておきたい『乳がん』の基礎知識」で教えていただきました。そこで今回は「乳がんとの向き合い方」について伺いたいと思っています。
才田先生:はい。治療のお話に入る前に、まず乳がん診断の際に知っておいていただきたいふたつの問題についてお話しますね。ひとつ目は高濃度乳房について。高濃度乳房というのは乳腺の多い乳房のことです。マンモグラフィー画像では乳腺は白く写りますから、高濃度乳房だと画像が白っぽくなります。ところが腫瘍の部分も白く写るので、乳腺の影に腫瘍が重なると見つかりにくくなってしまうんです。
I:確かに脂肪が多いと乳腺がくっきり写りますが、高濃度乳房はぼやけてしまっていますね。これはからだに異常があるからなのでしょうか。
才田先生:いいえ。高濃度乳房は病気ではなく、乳房の脂肪と乳腺の割合、つまり乳房の構成を示すもので、乳房の個性のようなものです。乳腺は加齢とともに減少していくもので、日本人女性の高濃度乳房の割合は40歳以上で約4割(※1)と推測されています。
I:4割とはかなり多いですね。マンモグラフィーで見つかりにくいなら、どうやって乳がんを見つければいいのでしょう。
才田先生:たとえばエコー(超音波)検査は、高濃度乳房であっても腫瘍の有無がわかりやすくなります。体に負担をかけることなく簡単に行えるのですが、良性の病変がみつかることも多く、再検査の割合が増えるという欠点もあります。しこりがあって受診された方が高濃度乳房で、マンモグラフィーで病変が見えにくいのであれば、エコー検査も行っていただくのがいいと思います。
I:現状では、まずマンモグラフィー検査をするということですね。そして高濃度乳房なら、がんが見つからないリスクが少なからずあるのが現実であると。
才田先生:はい。もちろん高濃度乳房でも、マンモグラフィーで見つかるがんもあります。マンモグラフィーについては、大規模な調査・研究が行われ、40~74歳で25%の死亡率減少効果(※2)が実証されています。マンモグラフィーとエコー検査を併用した場合の減少効果は現在研究中という段階なので、任意型での検診や、触診でしこりがあるのにマンモグラフィーで診断できない場合などに、追加的にエコー検査を行うケースが多いです。
I:エコー検査は状況に応じて行われるということですね。高濃度乳房の可能性については、私たちも検査を受ける時に理解しておいたほうがいいですね。
才田先生:もうひとつの乳がん検診の問題点としてあげられているのは、過剰診断の可能性です。乳がんだけでなく他のがんでも言われていることですが、がんの中には、非浸潤がんのまま進行しないものや、浸潤がんに成長するまでに長い時間がかかるものも確かにあるようなんです。
I:治療が必要ないがんもあるということですか?
才田先生:おそらくある、といわれています。将来は治療が必要のないがんの種類が明らかになるのではないかと思いますが、今の時点では、この腫瘍なら放っておいても大丈夫という判断は非常に難しいと思います。早期発見できたがんは少しでも早く治療を始めるのが、現状では最も確実でスタンダードな方法です。乳がんの早期発見に重要なのは、女性が自分の乳房の変化に気をつける習慣を持つことです。乳がん啓発運動の中で「ブレスト・アウェアネス(Breast awareness)」という言葉がよく使われています。入浴や着替えのときなどに自分の乳房を観察して、異変を感じたらすぐに医療機関を受診するようにしていただきたいです。