【専門医監修】 他人事じゃないから知っておきたい
「乳がん」との向き合い方

ミキハウス編集部

手術後の妊娠・出産ばかりでなく、授乳が可能な女性もいます

手術後の妊娠・出産ばかりでなく、授乳が可能な女性もいます

I:最後にお聞きしたいのは、乳がん治療の後のことです。30代前半で乳がん治療をして、5年経って再発の危険が少なくなった頃の妊娠・出産は可能ですか? 乳がん治療を受けた影響というのはないのでしょうか?

才田先生:乳がんの治療は切除手術だけではなく、内分泌療法や抗がん剤といった薬を使う治療も組み合わせて行われます。そうした薬の中には卵巣機能を低下させるものがありますから、乳がんの治療中と治療後しばらくの期間、月経は止まります。治療が終わった後に自然に再開するようなら、妊娠は可能です。治療が完了していれば生まれてくるお子さんや胎児への影響はないといわれています。

I:これから赤ちゃんが欲しい女性には朗報ですね。

才田先生:ただ卵巣機能の回復には個人差があります。30歳ぐらいの方だと回復する可能性が高いのですが、40歳以上だと半数以上の方がそのまま閉経してしまうようです。そうなると自然な妊娠・出産は難しくなりますから、治療が終わったら妊娠したいというご希望があれば、治療前に受精卵の凍結や卵子の凍結をおすすめしています。

I:授乳についてはいかがでしょうか。

才田先生:温存手術の後は残った乳房に放射線治療を行います。放射線を当てた乳房は乳汁をつくる機能が失われるので授乳は難しくなることが多いのですが、反対側の乳房からは普通に授乳できます。治療が終わった後なら、赤ちゃんへの影響もないと言われています。

I:治療中は妊娠や授乳は無理なのですね。

才田先生:乳がんの治療薬は、母乳を通じて赤ちゃんに影響を与える可能性がありますから、授乳中にがん治療を始めることになったら、授乳は中止することになります。また赤ちゃんの体に影響を及ぼす催奇形性がある薬を使うこともあるので、これから妊娠したいという方には、治療後一定の期間は妊娠を控えていただくことになります。乳がん治療後の妊娠・出産について詳しく知りたい方は、日本がん・生殖医療学会の「乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診察の手引き」(※3)を参考にしていただくといいでしょう。

I:乳がん治療は進化していて、早期発見で完治できることも多いし、妊娠や授乳も可能な場合があるというお話は心強い限りです。それにつけても、今でも乳がんで命を落とす女性は少なくないようですが、この現実を私たちどう考えればいいのでしょう。

才田先生:乳がんを発症すると、再発や転移を予防するためにどうしても長い治療や経過観察が必要になります。終わりの見えない治療の中で、いかに病気と上手に付き合っていくかが、治療のゴールと言えるかも知れません。そこで大切なのは心のケアです。治療を負担に感じる患者さんの中には、自然療法に頼ってしまう方もいるということだろうと思います。

I:広告などでがんに効くとうたった食品などを見かけることもありますね。

才田先生:自然療法の中には、特に心のケアに効くもの、痛みを緩和するものもあるかと思います。でも「がんを治療する」という目的であれば、現在医療機関で行われている標準治療がもっとも確実です。標準治療は、大規模な臨床試験の結果に基づくコンセンサスの得られた治療法ですから。そうした医科学的に信頼のおける治療法ではなく、自然療法のみに頼るのは危険を伴うということは理解していただきたいです。

I:乳がんの5年生存率はおおよそ92%とのことですが、最初の5年を乗り越えたら、リスクはかなり下がると考えていいのでしょうか?

才田先生:乳がんのタイプによります。乳がんの中には2年以内に再発しやすく、その期間をすぎれば再発率は下がるものもあります。でも長く再発のリスクが変わらないというタイプもあるんです。乳がんは治療で治りやすい病気ですが、長いケアが必要です。基本的には乳がん手術の後10年間は最低でも毎年1回、フォローアップのための検査を受けていただいています。患者さんの心理的な負担の大きさも考慮しながら、私たちもできるだけ患者さんの気持ちに寄り添って治療を行いたいと思っています。

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乳がんの治療はまだまだこれからも進化を続けていくでしょう。それでも10人にひとりは発症するという病気ですから、自分は絶対に大丈夫といい切れるものではなさそうです。早期発見のためのセルフチェックと検診は必ず行いたいものですね。

<参考資料>

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