軽いつわりと重いつわりで生まれてくる赤ちゃんの体重が違う? 

2022.07.21

ミキハウス編集部

つわりの「程度」と生まれてくる赤ちゃんの大きさには関係がある、という話を聞いたことがあるでしょうか? 実は医学界ではある“通説”があるそうです。

今年4月、国立成育医療研究センターがそんな“通説”をテーマにした論文を発表。そのタイトルは「『つわりがあると赤ちゃんは大きく生まれるのに、重いつわり(妊娠悪阻)では赤ちゃんが小さく生まれる』の謎を解明」。

つわりがどう関係しているのか? そもそも、この研究から導き出されるものとは? 同センター・教育研修室長で産婦人科医の永田知映先生に、お話をお聞きしました。

目次
  1. 妊娠中期以降のプレママの体重増と赤ちゃんの成長の関係
  2. パートナーや周囲の理解は辛さの解消に役立ちます
永田 知映(ながた・ちえ)
国立成育医療研究センター 教育研修センター 教育研修室 室長 大分大学医学部卒。医学博士、公衆衛生学修士。専門分野は産婦人科学、女性の健康、周産期医学、母子保健。現在の主な研究テーマは「女性の健康、周産期関連の大規模データを用いた解析」

妊娠中期以降のプレママの体重増と赤ちゃんの成長の関係

妊娠中期以降のプレママの体重増と赤ちゃんの成長の関係

I:今回発表された論文を拝見して、まず驚いたのは、「つわりがあると赤ちゃんは大きく生まれるけれど、ひどいつわりの場合は小さく生まれる」という“通説”があったということでした。これは一般にはあまり知られていないのではないかと思いますが、医学界では常識だったのでしょうか?

永田先生:周産期疫学の世界では以前から言われていたことです。周産期医療の現場でも、「つわりがあったお母さんからは大きな赤ちゃんが生まれることが多い。でも妊娠悪阻になってしまうと赤ちゃんは小さく生まれる」という感覚を持っている医療従事者は多いのではないかと思います。

つわりとは、妊娠初期に吐き気がしたり吐いてしまったりする状態で、それがひどくなって脱水になったり、体重が減ったり、電解質異常を伴ったりするのが妊娠悪阻です。症状としては連続性があるけれども、軽症だと赤ちゃんが大きく生まれて、重症だと赤ちゃんが小さく生まれるのは、不思議な現象だと言えますよね。その背景にあるものはなんなのか、しっかりとデータを取り分析をしたら、それが起きる理由を解明する手掛かりになるのではないかと考えたんです。

I:妊娠・出産の現場での経験から浮かんできた疑問を、きちんとしたデータにもとづいて解明しよう――それが、今回の調査の動機になったわけですね。


I:基本的な質問で恐縮ですが「つわり」と「妊娠悪阻」はどのあたりで線引きできるものなのでしょうか。明確な診断基準はあるんですか?

永田先生:いい質問ですね。実は国際的に共通した明確な診断基準はなく、「つわりがひどくなったのが妊娠悪阻である」というぐらいの共通認識しかありません。先程も申しましたが、症状として体重が減っている、脱水状態である、電解質異常が起きているといったときに、妊娠悪阻と診断します。しかし国際的に共通した明確な診断基準がないため、複数の研究結果を比較したりする際に困難が生じることがあります。

なお、私たちの研究では、妊娠悪阻の定義を“妊娠初期に妊娠前の体重から5%以上減った妊婦さん“としました。これは、英国の産婦人科学会のガイドラインで、妊娠悪阻の診断基準として「5%を超える体重減少」が含まれており、これまでの研究でもこの基準を用いているものが複数あることにもとづいています。


I:妊娠悪阻だと、妊娠初期に体重が5%以上減るものなのですね…。つまり50キロの場合、2.5キロ減ということになる。

永田先生:妊娠悪阻があると、嘔吐や食欲不振で妊娠初期に体重が大きく落ち込んでしまいますからね。妊娠悪阻がある妊婦さんも、その後は徐々に体重が増加していくのですが、落ち込んだ分を取り戻せなかったり、中にはずっと症状が続いて思うように体重が増加しない妊婦さんもいます。

I:妊婦さんは、出産時には妊娠前に比べて10㎏ぐらい増加しているのが理想(※)とされていますよね。妊娠悪阻だとそこまで増えないことがあると。

永田先生:はい。私たちの研究では、妊娠悪阻があった妊婦さんは、妊娠悪阻のなかった妊婦さんと比較して、体重が平均3㎏少ないまま出産を迎えていることがわかりました。そして、妊娠悪阻で妊娠初期の体重減少が大きいほど、赤ちゃんは小さく生まれていました。

一方で、妊娠初期に妊娠悪阻により体重が大きく減っても、妊娠中期までに一般的な妊婦さんと同じぐらいまで体重を戻すことができた方では、むしろ大きな赤ちゃんが生まれるということが明らかになりました。

この2つの事実から、一般的に妊娠悪阻の症状がおさまるとされる週数以降も体重が十分に戻らないことが、赤ちゃんが小さく生まれる原因のひとつになっているのではないかと考えることができるんですね。


I:それは興味深い結果ですね。つまり妊娠悪阻で体重が減ってしまっても、妊娠中期までに適正な体重に戻すことができれば、赤ちゃんはむしろ大きくなると。

永田先生:そうです。妊娠悪阻で吐き気や食欲不振に悩まされ、赤ちゃんは大丈夫かなと心配になる妊婦さんは多いと思うのですが、症状が治まってから体重をしっかりと増やすことができれば、ちゃんと赤ちゃんは大きく生まれます。

I:低体重で生まれた赤ちゃんは将来の生活習慣病のリスクが高いという説もありますね。

永田先生:はい。妊娠悪阻と赤ちゃんの将来的な健康については、これまでに様々な報告がなされています。ただ、私たちの研究では、妊娠中期までの体重増加を勘案すると、妊娠悪阻の影響が逆転するという結果が得られています。このことから、どのような状況下であれば、どのような影響が生じうるのかなど、良質なデータと精緻な解析にもとづいて、さらなる解明が必要だと考えています。

今回の研究結果から、妊婦さんが妊娠悪阻で減った体重を十分に増やすための食生活の指導や医療の介入の必要性が見えてきたのかなと思います。日本産科婦人科学会の事業など、今後も大規模データにもとづく研究が行われると思いますので、つわりや妊娠悪阻と適切な妊娠中の体重増加については、将来的にもっと解明されていくことでしょう。

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