50歳でも出産できる? 今、知っておきたい「卵子凍結」にまつわる課題

ミキハウス編集部

卵子は若くても、高齢出産のリスクはあります

卵子は若くても、高齢出産のリスクはあります

最初の議論が始まってから10年。日本でも卵子凍結を検討する人も増えており、生殖補助医療の新しい市場として急激に拡大しつつあります。将来的に子どもを望む女性にとっては“いい流れ”にも思えますが、吉村先生は「そう楽観視もできません」と漏らします。

なお2023年3月4日、日本産科婦人科学会は、健康な女性の卵子凍結について「最終的に決めるのは本人」としつつも、学会としては「推奨はしない」とする立場を改めて示しています。なぜ一部の“専門家”たちから、このような意見が出てくるのでしょうか?

「アメリカにせよ日本にせよ、現状のノンメディカルな卵子凍結がうまく“運用”できているとは言い難いのです。たとえば卵子採取時期。これは当然、若い時期に卵子を採取することが望ましいし、それを前提として“適齢期”をすぎても妊娠出産を可能にしているわけですが、多くのケースは若い時期ではなく35歳を超えてから卵子凍結をしています。

知識として卵子凍結のことを知っていても『このままだと妊娠が遅れてしまうかも』という切実な危機感を持ってはじめてアクションを起こすことが多いので、どうしても初動が遅れがちです。当然、採取時期が遅くなると妊娠率は下がります。できれば30代前半、遅くとも35歳までに採取しておくことが望ましいのですが、現実はそうなっていないことが多いのです」(吉村先生)

50歳でも出産できる? 今、知っておきたい「卵子凍結」にまつわる課題

若い卵子を取っておけば40歳を超えても妊娠率は高いままキープでき、出産も可能ですが、高齢出産のリスクは変わりません。凍結保存で卵子の老化を止めることができても、母体そのものの老化は止めることはできない、というわけです。その“抗えない事実”について、卵子凍結を奨めるクリニックも、検討する女性も「見ようとしていないように感じる」(吉村先生)といいます。

「仮に20代~30代前半までの若い卵子を凍結保存しておけば、50歳を超えても妊娠・出産はできますよ。でも出産に伴うリスクは年齢が上がれば高くなるのは避けられません。高血圧、糖尿病、子宮筋腫などの妊娠合併症の発症率はどうしても高くなります。当然、生まれてくる子どもへの負担もより大きなものになるのです。早産も多くなるので、低出生体重児で生まれてくる可能性も高い。卵子採取の年齢は36歳未満が望ましいし、若い卵子を使用した場合でも45歳以上の妊娠は母子ともどもリスクが高まるという大前提はもっと共有された方がいいように感じています」(吉村先生)

またノンメディカル卵子凍結は費用面での課題も大きいといいます。医療機関により費用感に幅はあるものの、採取・凍結する際に50万円〜80万円の手術費がかかると吉村先生は指摘します。

50歳でも出産できる? 今、知っておきたい「卵子凍結」にまつわる課題

「加えて毎年の保存料もかかってきます。一般的に10〜20個の卵子を採取して凍結保存することになるのですが、現状は1個単位で価格が決まっており、だいたい卵子1個=1万円/年が相場のようです。もし20個採取していたら年間20万円、10年凍結することになったら保存料だけで200万円にもなります。

これだけの金額を若い女性が払えるでしょうか。そもそもパートナーはいつか見つかるかもしれない。それだけのものに年間20万円もかけられますか? そしていつまでかければいいのかもわからない…だから“決断”は遅くなってしまう。遅くなることで将来、子どもを持てる確率も落ちてくる、という負のループに陥るわけです」(吉村先生)

医学的には20代~30代前半までに卵子を採取して凍結、そして40歳になるまでに妊娠をしておくことが、リスクの少ない出産につながるわけですが、女性の意識としても、また経済性の面からいっても、そんな若くから「準備」をしておくことは難しいのが現実です。

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