【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】
多様性社会、包摂する社会とは 「違い」を意識する子育ての大切さ

小児科医 / 高橋孝雄先生

近年、性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障害の有無などの多様性を指す「ダイバーシティ(多様性)」という言葉や、社会的に弱い立場にある人々も含め皆で支え合う「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という考え方を耳にする機会が増えてきました。

SDGsでも「誰一人取り残さない」ことを目指しており、ここ日本でも「包摂と多様性がもたらす持続的な社会」をつくろうという機運が高まっています。多様性のある社会、包摂する社会とはなにか。子どもたちのためにどんな社会を残していくべきか。子どもたちの持つ多様性、子どもの発育を取り巻く包摂と長年向き合ってきた小児科医の高橋孝雄先生にお話をお聞きします。

 

“違うこと”、“重なり合わないこと”

“違うこと”、“重なり合わないこと”

担当編集I(以下、I):今回は「多様性のある社会、包摂する社会」についてお聞きします。高橋先生は40年以上に及ぶ小児科医人生において、本当に多様な子どもを診てこられたと思いますが、先生が考える「多様性を認めあい包摂する社会」とはどういうものでしょうか。

高橋先生:たしかに多くの“多様な子どもたち”“包摂を必要とする子どもたち”と出会い、触れ合ってきました。発達障害(神経発達症)や生まれつきの難病と闘いながら、社会の一員として懸命に生きていこうとしている子どもたちと親御さんの姿を見てきました。

例えば、幼稚園や保育園、学校などで日常的なコミュニケーションを取ることに特別な配慮が必要な子がいます。そのような場合、社会性が欠如している、とみなされることも少なくありません。

多様性の観点からすると、また医学的見地からしても、病的とは言えない程度であっても、仲間外れ、いじめ、体罰を含めた厳しい“指導”などにより“社会”(園や学校など)から押しのけられることがあります。

【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】 多様性社会、包摂する社会とは 「違い」を意識する子育ての大切さ

I:ある意味で、私たちには見えていない“現実”も知っておられる先生から見たときに、多様性を実現する上で大切なことはなんだと思われますか?

高橋先生:多様性は人であることの証です。ひとそれぞれ、十人十色です。結論的なことを申しあげると、多様性のある社会に不可欠な条件は「違いがある」ということを認めることだと思うんです。簡単なことです。けれども一方で、包摂(インクルーシブ)について論じるときに、「人はみな同じだよね」という視点で考えようとしてしまうことがあると思います。そのような考えは善意のなせる業だとは思うんですが、その方向に突き進むと、いつかどこかで無理が出てくるのではないでしょうか。

基本は“みんな違って みんないい”だと思います。しかし、今の多様性に関する議論を眺めていると「違い」を認めるというよりも、あたかも「違い」が存在しないように扱う、つまり同質化・均質化の方向に進んでいるように見えるんですね。

I:なるほど。平等であろう、公平であろうという「善意」のベクトルが、違いを認めるというより、「人はみんな同じ」という方に向いてしまっているということですね。

高橋先生:ええ、僕にはそう見えています。人ってそれぞれが違っていて、みんなそれぞれ考えがあり、異なる価値観を持っています。もちろん中庸というか、大多数の他者と共有できる平均的な考えや価値観というものはあります。たとえば同じ時代、同じ地域や国で暮らす多くの人にとって共有・共感できるものが「マジョリティの価値観」とされているんだと思うんです。

でも、全部が全部、共有できるわけはない。考えや価値観が異なる部分、つまり重ならない部分は必ずあります。そして重要なことは、重なる部分、重ならない部分の比率は人それぞれであるということです。大多数の人々の感じ方、つまり平均的な価値観と“重なる部分”が極端に少ない人もいる。そんな人に対しても偏見を持つことなく、互いに認め合い、尊重しあえるかが重要だと思うんです。“違うこと”、“重なり合わないこと”。ここが大切なんです。

I:わかります。多様性を推進する中で、もし自分の考えや価値観とは異なっていたとしても、そんな他者の存在を尊重するというスタンスは大切だと思います。

高橋先生:子育てにおいても、そういうスタンスは重要です。みんながみんな同じように発育しないですからね。子どもであっても、むしろ子どもだからこそ、性格は十人十色、得手不得手も異なり、好き嫌いだって違う。全然、重ならない。多様性の尊重って、そこのところを見つめること、大事にすること、感謝することから始まるものだと思うんです。つまり、育児についてみんなで考えることは、多様性を尊重する社会の基本ですね。

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