アトピー性皮膚炎は「諦めなくていい」疾患になっています
専門医が語るアトピー治療の最前線

2024.03.28

ミキハウス編集部

アトピー性皮膚炎とは、かゆみを伴う湿疹(しっしん)が、良くなったり悪くなったりを繰り返す病気のこと。乳幼児・小児期に発症するパターンの場合、成長とともに湿疹は改善していく場合が多いのですが、なかなか治らずに成人型アトピー性皮膚炎に移行することもあります。一方で、治療に難渋するのは、乳児期よりも学童期以降に多く、小学1年生から6年生にかけて中等症以上の患者が増加していきます。

かつてアトピー性皮膚炎は、重症化すると人の成長や発達にも影響を与え、本人はもちろんのことまわりの家族のQOL(Quality of life=生活の質)にも影響を及ぼしかねない疾患だとされていました。しかし、今や最新の治療により諦めなくていい疾患になりつつあるといいます。

アトピー性皮膚炎の予防や悪化しないための日常的なケアとは。また「諦めなくていい」という最新の治療法とは。国立病院機構三重病院小児科の医師で、日本アレルギー学会専門医でもある長尾みづほ先生にお聞きします。

 

乳児湿疹とアトピー性皮膚炎の違いは?

乳児湿疹とアトピー性皮膚炎の違いは?

――乳幼児期に肌荒れをする赤ちゃんはたくさんいます。乳児のアトピー性皮膚炎や、その他の乳児湿疹との違いについて教えていただけますでしょうか。

長尾先生:乳児湿疹というと赤ちゃんに現れるお肌のトラブル全般をさします。アトピー性皮膚炎以外では「新生児ざ瘡」(赤ちゃんニキビ)や「乳児脂漏性皮膚炎」などがありますが、これらはいずれも生後1〜2か月くらいで落ち着いてくるものです。一度落ち着いた後に、頬などに湿疹が再び出始めて、赤ちゃんもかゆがる仕草をしだしたらアトピー性皮膚炎を疑うようなことが多いです。

ただし、その時点ではアトピー性皮膚炎かどうかを確定することは難しいので、診てもらったお医者さんによって診断結果が違うということもあります。いずれにせよアトピー性皮膚炎かどうかに関係なく、石鹸で洗う、保湿をする、炎症があるところにお薬を塗るといったお肌のケアは変わりません。ですので、その時点ではアトピー性皮膚炎なのかどうかついて過剰に心配される必要はないと思います。

――アトピー性皮膚炎だった子どもは、成長するにつれていろいろなアレルギー症状が現れる「アレルギーマーチ」が起こりやすいと言われていますよね。本マガジンの過去記事でも、新生児期から保湿剤を塗って赤ちゃんの肌の乾燥を防げば、アトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下するという研究(※1)を紹介しています。

長尾先生:そうですね。過剰に心配する必要はありませんが、乳幼児期からのスキンケアはとても大切です。スキンケアは、入浴時に全身をきめ細やかな泡でやさしく洗って、入浴後は保湿するという基本を守ればいい。保湿剤は特別なものでなくてもよくて、市販薬で気に入ったもので十分ですし、肌にトラブルがあるお子さんは小児科や皮膚科などで処方される保湿剤やワセリンなどでよいでしょう。ちょっとした肌のトラブルはそうした日常的なスキンケアで改善されます。

アトピー性皮膚炎は「諦めなくていい」疾患になっています  専門医が語るアトピー治療の最前線

〈▲ しっかり泡立てて、「ごしごしこすらず」にやさしく洗ってくださいね〉

長尾先生:ただ、それだけでは治まらないのがアトピー性皮膚炎です。ちょっとよくなったと思ったら、また悪化してしまい、お薬で良くなるけれど止めると悪化して…の繰り返し。悪化する状態を放置するのが一番よくないことなので、初期の段階から、かかりつけのお医者さんか専門医の指導のもとステロイド外用薬などの炎症を抑えるお薬で症状をコントロールしながら、いい肌の状態をキープすることが大事です。

肌に関する「誤情報」は世の中に溢れています

――ステロイド外用薬は副作用を心配される親御さんもいますよね。実際にステロイドの副作用に悩まれる方もいらっしゃいます。

長尾先生:そうですね。ただ、知っていただきたいのは、ステロイド外用薬は間違った使い方さえしなければ安心して使えるお薬だということ。顔にはこれ、身体にはこれ、と指示されたお薬で用法・用量をきちんと守って使えばまったく心配ないのですが、ステロイド外用薬は軽微〜重症まで効果を元に5段階に分類されていますので「皮疹の重症度」に見合った薬剤を使うことが前提となります。

一方で、ステロイド外用薬の使用を途中で止めたことで、症状を悪化させてしまう人もいます。アトピー性皮膚炎が改善するか否かは、適切な治療を継続するかどうかにかかってきます。

アトピー性皮膚炎は「諦めなくていい」疾患になっています  専門医が語るアトピー治療の最前線

――ネットで検索をすると、ステロイドの「よくない話」をたくさん目にします。問題は、それが正しい情報なのかどうか一般の人には判断がつきづらいことです。

長尾先生:そこは本当に悩ましいところです。医療情報の中でも、皮膚に関するものは、誤情報が非常に多く出回っています。藁にもすがる思いでいる人や困っている人にとっては、民間療法的なものも含めて、「治るかもしれない」と誤情報であっても信じ込んでしまいやすい。

――先生から見て、皮膚やアレルギーの情報に関して信頼できるサイトはありますか?

長尾先生:厚生労働省と日本アレルギー学会が運営している「アレルギーポータル」がおすすめです。アレルギーに関する基礎情報や医療機関情報、アトピー性皮膚炎に関する情報などが上手にまとめられています。さまざまなサイトへのリンクが貼られているので、このサイトを入口にすれば有用な情報にたどり着くことができるのはないでしょうか。

 

アトピー性皮膚炎は「諦めなくていい疾患」になっています

アトピー性皮膚炎は「諦めなくていい疾患」になっています

長尾先生:先程、ステロイド外用薬での治療は有効だというお話をしました。ただし、中等症から重症のアトピー性皮膚炎の場合、ステロイド外用剤などの適切な治療を適切に続けていても、なかなかよくならない患者さんもいます。重症度が高ければ高くなるほど睡眠の質は低下し、ストレスも高くなるので生活の質、つまりQOLも低下してしまうことが明らかになっています。

また多動傾向など少し落ち着きの無いお子さんの場合は、アトピー性皮膚炎の痒みがコントロールできていないと、その傾向が強く出てしまいますので本人も家族の負担が大きくなることがあります。お子さんは痒いから肌をかきますが、それをみている親はつい叱ってしまう、というのも双方にとってよくないですよね。

――アトピー性皮膚炎の状態がよくないと、生活に様々な影響があるということですね。もしアトピー性皮膚炎の湿疹や痒みに難渋している場合、どのような治療が今、もっとも有効なのでしょうか?

長尾先生:かつては、保湿とステロイド外用といった標準的な治療では治しきれないような重症の方は、痒みも強く、毎日の外用に手を抜けないなど日常生活の負担が大きい状況だったのですが、2017年に欧州と米国で、皮下投与薬「デュピクセント®」が承認されたことが大きな転換期となり、アトピー性皮膚炎の治療を巡る状況は一変しました。

2018年には日本でも成人で製造販売が認められ、2023年秋には生後6か月以上の小児のアトピー性皮膚炎の適応が承認されました。ほかにも使用可能な年齢は異なりますが、飲み薬やデュピクセントとは異なるタイプの注射薬などいくつか新しい治療薬が登場しています。これにより小さな子どもから大人まで、事実上アトピー性皮膚炎は「諦めなくていい疾患」となっているんです。

アトピー性皮膚炎は「諦めなくていい疾患」になっています

――皮下投与薬というのは注射ですよね。何度も接種する必要があるものですか?

長尾先生:年齢や体重にもよりますが、2週間もしくは4週間ごとに皮下注射します。

――この注射は症状を抑えるのか、それとも根本的に治すものなのかでいうとどちらなのでしょうか?

長尾先生:病気そのものを完全に治すものではありません。このお薬に限らず、現時点では病気そのものを完全に治す薬物療法は確立されていません。ただこの注射を一定期間続けた後、注射を中止しても安定している患者さんもいますし、再び悪化してしまい注射を再開される患者さんもいます。お子さんの適応は承認されてからまだ日にちが浅いので、これからいろんなことがわかってくると思います。注意したいのは、特にお子さんの場合、アトピー性皮膚炎に困ったらすぐに注射をすればいい、というものではありません。

お子さんのアトピー性皮膚炎について、保湿とステロイドなどの炎症を抑える塗り薬が適切にできているか、汗や乾燥など悪化する要因に対処できているかなど十分な知識と実践がまず先になりますから、湿疹のコントロールが上手くいっていないときは専門の医師に相談されるのがまず先です。

これまでアトピー性皮膚炎があることで、大きな負担を感じられていた方も多かったと思います。医師が「注射による治療が望ましい」と判断するのは、この注射が、お子さんより先に成人にたくさん使用されていること、それにより快適に日常生活を送ることができるようになった方がたくさんいらっしゃること、そしてなにより目の前にいる患者さん自身の症状を診てのことでしょう。

アレルギー疾患への対応に“強い”病院はどうやって探せばいい?

アレルギー疾患への対応に“強い”病院はどうやって探せばいい?

――小児のスキンケアやアレルギーに関する情報は、近年アップデートされ続けていますよね。自分が住んでいる地域で専門的かつ最新の治療が受けられる病院はどうやって探せばいいのでしょうか?

長尾先生:各都道府県でアレルギー疾患の拠点病院が制定されていますので、どこに行けばいいかわからない場合は、そこで診てもらうことをおすすめします。拠点病院についてはネットでお住まいの地域名と「拠点病院」と検索すれば出てきます。もしくは先程、ご紹介したアレルギーポータルの検索ページから探すことができますよ。

――子どもの場合、小児科と皮膚科はどちらに相談すべきでしょうか?

長尾先生:地域差があるので、一概には言えません。ただ小児科は生後2か月からワクチン接種もはじまりますので、頻繁に通うことになりますよね。なので肌の状態に心配があれば、かかりつけの小児科の先生に相談してみるのがいいでしょう。状態がひどい場合は、皮膚科をご紹介していただけたりすると思います。どちらをメインで受診されるとしても、先ほどのデュピクセントのようなお薬を使う場合は、生ワクチンの接種のときに注意事項がありますので、かかりつけの先生にはそのことを伝えておくことが、上手な連携につながります。

――お子さんの肌の状態に悩まされている親御さんは多いと思います。最後に、そんな親御さんにメッセージをお願いします。

長尾先生:お子さんがアトピー性皮膚炎になると、親御さんは自分の責任だと感じられる方も少なくありません。たとえば肌の弱い子に生んでしまってごめんね、と反省するママもいる。でも、親御さんの責任なんかではありません。アトピー性皮膚炎の患者数は2017年までの30年間で約2倍以上に増加しているほどで、もはや“現代病”のひとつですから。

お子さんは、たまたまアレルギーを強く持って生まれたかもしれないけど、今やアトピー性皮膚炎は適切な治療によりコントロールできる時代です。初期段階で塗り薬を継続することで症状を抑えるだけでなく寛解に近づけることができるし、仮に治療に難渋したとしても注射薬で日常生活を問題なく送れるようにもできるんです。繰り返しますが、アトピー性皮膚炎は、もはや「諦めなくていい」疾患です。ですから、今、ひどい痒みに悩んでいる方も、お子さんの症状に絶望されている方も、健やかに暮らせることを諦めずに、前向きになってほしいと思います。

 


 

子どもの肌荒れやアトピー性皮膚炎にお困りの方は多いと思います。あまりに大変で治療も諦めてしまっている方もいらっしゃるかもしれません。でも、先生がおっしゃるように、アトピー性皮膚炎は、もはや「諦めなくていい」疾患です。どうかひとり、もしくはご家族だけで悩まず、まずは近くの病院などにご相談してみてくださいね。

 

<参考資料>

 

長尾 みづほ

1997年岐阜大学医学部医学科卒業。同年岐阜大学医学部附属病院小児科研修医、2004年国立病院機構三重病院小児科。13年3月から現職。16年5月から三重大学大学院医学系研究科連携准教授を併任。
日本小児科学会認定小児科指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医・代議員。

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