鈴ノ木:話は変わりますけど、僕、子どもの誕生日に毎年、彼が生まれた日の話をするんですよ。出産当日は雨が降っていて、お母さんは病院に行ったけど1日目には産むことができなくて、結局、丸々2日かかってお前を産んだんだよ、と。いい加減、毎年同じ話をしているから、息子がだんだんうんざりして「また?」って顔はするけど、どこかうれしそうにしているんです。だから、僕にとって“その日”がいかに大切な日だったかっていうことを毎年息子に話しています。
繁延:いいですね。
鈴ノ木:僕、子どもができたって言われたとき、36歳だったんですが漫画家として大成しておらず、アルバイトしかしていなかったし、やりたいこともまだいっぱいあって、「やばい、人生終わったな」と思ったんですよ。
――やりたいことできなくなるじゃないかと?
鈴ノ木:そうそう。でも、実際に子どもが生まれた日に「ぜんぜん終わってなかった!」って心の底から思ったんです。そのときに初めて本気でがんばらなきゃなと思った。そのきっかけをくれたのが息子で、それが彼の誕生日でもあるんで、伝えたいんですよね。
繁延:かなり詳しくお話されるんですか?
鈴ノ木:はい。妊娠したときはお母さん(妻)と二人でワンルームのアパートに住んでいたとか。お前(息子)が3歳までは6畳二間のアパートに住んでいて、すきま風がすごく入っていた話とか、そういうしんどかったときのことも話します。今、息子は欲しいものがあればすぐに買ってもらえる環境にいるけど、そのときのことも伝えたいんですよ。
繁延:私もしんどいときってありましたね…。うちは妊娠のときじゃなくて、つきあっていて、私の子宮に病気があることがわかったときに、主人が無職だったんですよ。『コウノドリ』にも、子どもが産めなくなって離婚を切り出す女性が出てきましたけど、病気がわかったときに、私も「別れようか」と話しました。子どものいない人生に巻き込んでしまう気がして…。結局、結婚しましたが。無職の彼と、産めないかもしれない私という、心もとない二人家族のスタートでした。
鈴ノ木:ええ。
繁延:その当時の話を、私も息子にしています。今、家族5人で一緒に暮らしている風景が当たり前じゃないということ、子どもを産めないかもって思ったことがあったんだよ、という話を知ってほしくて。でも、息子は何度もこの話を聞いているから、「はいはい」って感じで、話が終わる前に「で、3人で産んだでしょ?」とオチを言われてしまう(苦笑)。
鈴ノ木:うわー、その感じすごくわかる(笑)。
繁延:息子には伝わらないんですよねぇ。
――伝わってると思いますよ(笑)。
鈴ノ木:どうかなぁ(苦笑)。まぁ、伝わらなくてもね、いいと思うんですよ。ある意味、自己満足ですから。
繁延:ええ。でも、うちの上の息子は『コウノドリ』を読んでるんですよ。だからね、産めないかもと思った私の気持ちがわかってくれるかなって期待はしています。
鈴ノ木:僕が言うのもなんですけど、あれを読んでるなら、気持ちは伝わっていると思います(笑)。
――間違いないです。
鈴ノ木:でも、伝わらなくてもいいんです。自己満足であったとしても、僕と妻がどういう思いで君を迎えたのか、毎年誕生日に言いたいんです。息子はあっという間に8歳になって、このあと息子としゃべる時間はあんまりないなと思うとね、なんでも話しておきたいんですよ。中学生や高校生になるとますます話す機会は減っていくじゃないですか。自分がそうでしたし。だから、今すごくしゃべっています(笑)。
繁延:小さいときの1年と大きくなってからの1年って、ぜんぜん親子関係の密度が違いますしね。うちの長男は11歳なので、私との時間も、もう少ししか残っていないなと思っています。