――取材にしろ撮影にしろ、お二人は“他人”の出産の現場に何度も立ち会っていますよね。そのとき、どういう思いを抱かれているのでしょうか?
繁延:私の場合は、自分の子を出産するときに、「生まれてきてくれればいい」とたった一つの願いを持っていたことを思い出します。子どもが大きくなると、もっとあれができるようになればいいとか、親としての欲が出てくるじゃないですか。
――たしかにおっしゃるとおりですね。
繁延:でも、出産の現場で撮影していると“原点”に帰れるんですね。だから、撮っているそばから家族に会いたくなる。他人の出産に立ち会っているのに、自分の家族を感じます。それで家に着くと、また赤ちゃんが欲しいなと思っちゃうんですよね。3人いますけど。
鈴ノ木:まだ欲しいですか(笑)。
繁延:まぁ、リアルには難しいかもしれないですけどね(笑)。きっと、鈴ノ木さんの作品を読まれる人も同じような感情をもつんじゃないですかね。産んだことのある人や、子どものいる人たちが、「やっぱり、子どもはかわいいな、自分の子どもは大事だな」と思って、何度も読むんじゃないかなと。
鈴ノ木:いろいろな読者の方がいるとは思いますが、そう思ってくれるといちばんうれしいですね。僕は読んだ後に、「家族が好きだな」「子どもはかわいいな」「奥さんのこと、好きだな」と普段は恥ずかしくて思えないことが、ぽっと芽生えれば、それだけで十分だと思って描いています。あづささんはこれからも出産撮影を続けますか?
繁延:まだやめないと思います。鈴ノ木さんは、出産にまつわる物語を描いていきますか?
鈴ノ木:僕の場合は、別に出産だけを描きたいわけでもないんですよ。だけど今後も描きたいのはやっぱり「家族」のこと。だからこの先、出産というテーマから離れたとしても、そこは変わらないと思います。結局、僕は家族が好きなんですよ。
* * *
鈴ノ木ユウさんと繁延あづささんの特別対談、いかがでしたでしょうか。出産の現場を見つめ、作品に昇華してきたお二人の言葉は、とても心に響くものばかりでした。妊娠、出産、子育ては、本当に奇跡の連続。そのことを教えてくれるお二人のご活躍、これからも期待しています。
【プロフィール】
鈴ノ木ユウ(すずのき・ゆう)
1973年、山梨県甲府市生まれ。大学卒業後はロックスターを目指していたが、漫画家に転向。「ちばてつや賞」入選後、『モーニング』誌で2012年8月、短期集中連載を行った『コウノドリ』が人気となり、2013年春から週刊連載に。昨年10月には本作が綾野剛主演で『コウノドリ』(TBS系)としてドラマ化。今年5月、第40回講談社漫画賞(一般部門)に輝き、現在、単行本の発行累計が350万部に達する大ヒット作になる。プライベートでは妻と8歳の息子の3人暮らし。
繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
1977年、兵庫県姫路市生まれ。県立明石高校美術科卒業後、桑沢デザイン研究所ID科に学ぶ。その後、写真家の道に進む。雑誌・広告の写真撮影や執筆、カメラ教室の講師をするとともに、ライフワークとして出産撮影に取り組んでいる。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)、『カメラ教室~子どもとの暮らし、撮ろう~』(翔泳社)など。今年夏に、写真を担当した『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)と、10月に『こどものみかた 春夏秋冬』(福音館書店)が出たばかり。現在、長崎で夫、11歳・9歳の息子、3歳の娘の5人暮らし。
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