2:「早産の可能性が出て、絶対安静に…アクティブに活動したせい?」/Bさん(27歳、生後4か月の女の子のママ)
「妊娠初期のつわりが重く、体もだるくかったのですが、安定期に入るとそれまでの不調がウソだったかのように復活。それからは、気分転換も兼ねて外出するようになりました。地下鉄に乗って、買い物に行ったり、映画を見に行ったり、普段と変わらない生活を送っていました。そしたら、妊娠後期になって早産の可能性があることがわかって、お医者さんから『絶対安静』を命じられました。出産まで外出もできず、家のことも夫にほとんど任せることに…。やはり、動きすぎたことがいけなかったのでしょうか?」
妊娠後期で絶対安静と言われるまで、健診でも順調で、「普通の生活」を送っていたBさん。順調すぎてアクティブになりすぎたあまり、「ちょっと危ない状態に近づいた」(Bさん)といいますが、こういうケースは一般的なのでしょうか?
<吉村先生の答え>
早産とアクティビティとの関係はまったくなし
「後期になって早産の可能性ありと診断され、絶対安静という妊婦さんはいらっしゃいますね。でも、これは、動きすぎたということと関係はありませんので、悩むことはないです。
早産になるかもしれないと診断されるのは、細菌性腟症から絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)になっている場合が多いです。胎盤の一部が感染を起こしている状態で、感染症によって起こるものですから、妊婦さんの行動とは関係ありません。清潔にしていなかったからとか、性交渉をしたからというわけでもないですし、なる人はなってしまうとしか言いようがないのです。
あとは、多胎の人、高齢出産でも早産になりやすいと言われています。それから、羊水過多になる病気の場合ですね。
多胎でない人に限れば、絶対安静と言われた妊婦さんの8割以上、感染症が原因です。もう少し詳しく説明すると、腟の中には『デーデルライン桿(かん)菌』という菌がいて、腟内を強い酸性状態にしてくれています。これが外からカビや細菌が入ってこないようにしてくれているのですが、なんらかの原因で腟内の環境が変わると、絨毛膜羊膜炎になりやすいのです。そうなると、お腹が痛くなり、絶対安静ということになります。
感染症にかかると妊婦さんの体は、赤ちゃんに感染しないように早く産もうとするんですね。赤ちゃんを守るために、体から出そうとする。これは、みんな生体の合目的反応で、たとえば、咳が出るのと同じこと。咳によって、菌が体にこもらないように、排菌する。それと同じなのです。
治療の仕方は、抗生剤で絨毛膜羊膜炎をたたきながら、お腹の貼り止めを使います。絶対安静と言われるので、その前の動きすぎが原因だと勘違いする方が多いのかもしれませんね。けれどまったく関係ないので、気にする必要はありません」
3:「妊娠中もアウトドア派。でも、これってよかったの?」/Cさん(35歳、4歳の男の子のママ)
「もともと、山登りなどのアウトドアが好きで、今でも息子を連れて山や川に行ったりしています。妊娠中もちょっとしたトレッキングやキャンプには出かけていました。とくに妊娠中期は体調もよく、夏から秋の季節はとくに気持ちがよく、気分転換にもなるのでよく自然に触れにいっていましたよ」
アウトドア派のCさん。つわりも軽かったため、アクティブにアウトドアを楽しんでいたそうです。自然と戯れることでストレスも解消され、妊婦さんにとってもメリットはありそうですが、妊娠中のアウトドアでの活動は、専門医の目からはどううつるのでしょうか?
<吉村先生の答え>
軽めにしておけば問題ない。ただし、臨月はおすすめしない
「これは僕、いいと思いますよ。けれど、注意したいのは活動量を3分の2程度にしておくこと。もちろん、Aさんのときにお話した、胎盤の位置と子宮頚管の長さに問題がなく、早産の兆候のないことが前提です。
でも、くれぐれも転ばないように。お腹が大きくなると、以前はパパっと渡れていたところが渡れなくなったり、バランスが取りづらくなったりするので、十分気をつけられたほうがいいと思います。そのうえで、自然に触れて気分転換するのはすごくいいことだと僕は思います。
ただし、予定日近くになったら控えたいですね。妊娠10か月に入ったら、いつ破水してもおかしくないので、すぐに病院に行ける態勢にしておいたほうがいいですから。
今でも車の中で生まれたとか、トイレに産み落としたなどという話は本当にあるんですよ。赤ちゃんをバスタオルにくるんで、病院に連れてくる人もいます。言うまでもありませんが、いつ産まれてもおかしくない時にアウトドアはしないことです(笑)」
4:「外勤で今までどおり働きたかった…考え方がアクティブすぎますか?」/Dさん(24歳、妊娠8か月)
「広告営業の仕事から、事務の仕事への配置転換があり、現在、内勤のフルタイム勤務になりました。職場は女性の社員が多いものの、子どもを持つ人は少なくて、私が小走りしただけでも『危ない』『ダメダメ』と言われます。残業も禁止で定時になると『はい、〇〇さんは帰ってね』と言われ、“戦力外”な気がして少々落ち込みます」
初めてのお子さんを妊娠中のDさん。順調な妊娠生活を送っていて、仕事帰りに1~2時間ショッピングをしたりすることもあるので、まわりの気づかいを少々過剰なものに感じているそう。まだ仕事でのキャリアが浅いこともあり、できれば外勤営業も続けたかったとのこと。Dさんは仕事を変わらなくてもよかったのでしょうか?
<吉村先生の答え>
アクティブすぎるということはない。この方の場合は大丈夫
「定期健診でも異常がなく、健やかに過ごされている。こういう生活ができているなら、Dさんはこれまでどおりの仕事ができたかもしれませんね。
24歳という年齢もひとつのアドバンテージでしょうね。日本の初産年齢は、30歳を超えていますから、Dさんのようなタイプのほうがめずらしいかもしれません。
妊婦さんにやさしい職場で、ありがたいなと思って、穏やかに過ごされればいいのではないかと思います。ただ、先ほども言いましたが、お腹が大きくなると妊娠前とまったく同じには動けませんから、元気なことを過信しないことも大切ですね」
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吉村先生のお話を聞いて、妊婦さんが過度に行動を制限する必要はないことがわかりました。ただ、これは、日頃の健診を受け、問題ないと診断されているプレママに限ったこと。また、免疫機能が落ちているという体の特徴もわかっておくこと、そして、もしものときのためにすぐに病院に駆け込めるような場所にいることが大事なのですね。
「何事も過度にするのがいちばんよくない」と吉村先生。怖がってまったく動かないのも、アクティブに動きすぎるのも、どちらもよいとは言えません。その境界線を知って、適度に体を動かし、健やかな妊娠生活を送りましょう!