寒さの厳しい冬。妊婦でなくても、冷えに悩む女性は多いでしょう。もちろん妊婦さんにとって冷えは大敵。吉村先生はこういいます。
「そもそも女性は皮下脂肪が多く、脂肪は熱を通しにくいものなのでいったん冷えると温まりにくい性質をもっています。さらに、筋肉が血流をつくって熱量をつくるのですが、そもそも男性と比べて女性は筋肉が少ないですよね。だから女性は冷え性になりやすい。妊婦さんの場合、運動量が減り、筋肉量も減るため、この傾向が顕著になることもあります。そうやって冷えると血管が収縮します。すると血流が悪くなって、子宮に行く血流量も減るわけです。これは赤ちゃんのところへ行く血流量も減るということですから、あまりいいことではありませんね」(吉村先生)
冷えが原因で起こりうることには、どのような症状があるのでしょうか?
「妊娠初期においては、つわりを悪化させたり、中期であれば、お腹の張りを誘因したりということもあります。腰痛がひどくなることもあるでしょうね。妊娠中は便秘しやすいものですが、相対的な水分摂取の低下のほかに冷えが原因の場合もあります。腸のぜん動運動が悪くなるというのは、血流量が減っているからという要因もありますから」(吉村先生)
吉村先生は、「冷えは“体を温めなさい”というシグナル」といいます。冷えを感じたら、温めて危険を予防しましょう。
なお具体的な対策としては、
「靴下やレッグウォーマーで足元を温めたり、外出の時には手袋をしたり、末梢を温めることが大事。また、腹巻も躯幹(くかん=頭と手足を除いた胴体部分)を温めることになるから、とてもいいですね。日中は寒いからといって家に閉じこもっているのではなく、妊娠中期以降なら軽い運動をしたり、ウォーキングをしたりすることもいい。夜はお風呂で38度、せいぜい39度くらいのお湯にゆっくり浸かるのも冷え対策になりますね。バランスのとれた食事や規則正しい生活も大切です」(吉村先生)
とのこと。やはり妊婦さんにとって冬の冷え対策は必須なのですね。
細川さんが主宰する「まるのうち保健室」は20代〜30代の働く女性の健康支援を目的とした大人の保健室。こちらでもやはり冷え性の相談は多いといいます。細川さんは冷え性で悩む女性にはこのようなアドバイスを送っているとか。
「冷え性の方は使い捨てカイロやしょうがドリンクなど、外部から熱を取りこもうとしがち。その前になぜ冷えてしまうのかメカニズムをちゃんと考えたほうがいいですね。熱は外から与えるものではなくて、体から生み出すもの。だから熱を生む出す体になることが大事です。その原理は筋肉が“着火”して、体脂肪が保温するというものですから、やっぱり筋肉と体脂肪が少ない人、BMIが低い人は、冷えの傾向が強い。やせすぎの体型が影響するのです」(細川さん)
冷えにくい体づくりが大切だという細川さん。また、基本的なこととして毎朝しっかり朝食を取ることが大事だとも。
「朝食欠食は低体温の原因になりやすいんです。また、私たちの調査では、冷え性に悩んでいる人が足りなかった栄養素は、タンパク質、鉄、ビタミンB1、B2で、血液に関係している栄養素と食事をエネルギーに変える栄養素が足りていませんでした。冷え性の背景には貧血がある。冷え対策のために貧血改善をすべきです」(細川さん)
貧血症状をなくすために体に取り入れたい食材は、赤身の牛肉、豚肉、赤身の魚、貝類、卵といったタンパク質。妊娠初期で毎食「片手ひと盛り」の量が目安。+α血流改善効果のあるビタミンEを含むナッツやごまなどもおすすめ。中期、後期にはさらにプラスしましょう、とのことです。
さらに、分娩時には正常な出産でも多くの血液が失われます。そのためにも、妊婦さんのときに貧血を改善しておくことは大事だと細川さんはいいます。
続けて、「冬の妊婦さんに限ったことではありませんが」と前置きしたうえで、「出産後、貧血だとそれでなくても体力を消耗しているので相当つらいと思います。疲れやすいとメンタルも安定せずに、場合によっては産後うつになる人もいます。産後のいろいろなトラブル対策にもつながるので、冷えの原因を考え、食生活を見直すことが大切です」とアドバイスしてくれました。