次に伺った大阪府堺市の北花田こども園には、0歳から6歳まで約100人の園児が通っています。この園では、子どもたちが自分で考えて行動することを促し、豊かな人間性を育てるために、保育環境やカリキュラムに様々な工夫がなされています。
同こども園の森本優子園長にお話を伺いました。
————こちらの園の活動は、アクティブ・ラーニングの考え方と重なるところが多いようですが、保育の面で気をつけているのは、どんなことでしょう。
子どもはこの世に生まれたその瞬間から、自分を大切にしてくれる身近な大人を信頼し模倣することで学び、成長します。だから両親や保育者といった身近な大人は、そこを意識する必要があると思います。
0歳児に接するとき、私たちが心がけているのは、目を見て話すことです。笑ったり、困った顔をしたりと、保育者が表情豊かに関わると、赤ちゃんもそれにこたえてくれるものです。1歳になると、「よいこと」、「いけないこと」の区別を理解しはじめます。自分で食べること、衣服の着脱、トイレを使うなど生活習慣を教え、覚え始めるのもこの時期です。
体が自由に動かせるようになり、会話もできるようになる2歳児には、自然に親しみ、手足を動かして遊ぶことを教え、たくさん話しかけるようにしています。3歳児からは、社会性が発達し、友だちとのかかわりが増えてくるので、「約束を守る」ことの指導に力を入れています。年齢に合わせたこうした保育が、子どもの自主性や人間性を育てるのではないでしょうか。
また、一人ひとりの子どもの良いところを認めてあげることは、自信や自己肯定感を育てるために大切です。一つ認めてもらえると、自信がついて、その子は別のこともできるようになってくるものです。
————子どもたちが自分で考えて行動するようになるために、こちらでは具体的にはどんな事がおこなわれているのでしょう。
3歳児、4歳児、5歳児は縦割りのクラス構成で遊びと学びの環境が十分に整えられた環境を構成しています。教室には、園での一日の流れを子どもたちが確認するスケジュールボードを用意しており、そのボードを使って活動の確認を行うサークルタイム(朝の会と夕方の会)を実施しているので、一日をどう過ごすのか、次に何をするかなど、見通しを持ち主体的に動け、安心して活動できます。
また自由時間についても、子どもたち自身で主体的に遊びを決められるよう、廊下に掲示されてあるセレクトボードで自分が使用する遊具を選びます。こうすることで、遊具を取り合いになることがなく、一人ひとりが興味のあることに集中して取り組むこともできるし、秩序が保たれる。こうして異年齢の友だちとも育ち合う環境ができていると思います。また、教室内は、他の子の活動を邪魔しないように導線を考え机や玩具棚などの配置も工夫してあります。
————自主性がより育まれやすい環境をご用意されているということですね。
はいそうです。もちろん年齢別の活動もあります。その中で、子どもたちが特に楽しみにしているのが、遊び心コンサルタントの橋本さんとの時間です。月に数回ですが、入浴剤を使ってのロケット実験や、箱庭サファリ作り、そして各年齢の育ちに合わせたルールで学び育ちあえるアナログゲームなど、遊びを通じて子どもたちの好奇心や想像力を刺激するプログラムとなっています。
また就学前の1年間、5歳児向けに、「セカンドステップ」という教育プログラムも行っています。これは、対人葛藤場面(人と人の利害・意見が不一致した場面)の写真を見ながら、子どもたち同士で話し合うことで問題を解決する力をつけるためのソーシャルスキルトレーニングです。自分の考えを友だちに伝えたり、人の話を聞いて理解しようとすることは、よい人間関係を築き上げるために大切なスキルであると私たちは考えています。
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子どもたちは、乳幼児期の生活や遊びの体験から、人の話を聞くこと、自分の考えを話すこと、考えること、工夫すること、協力すること、我慢することなど人間形成の基礎になる力を身につけます。これらは、自分から周りと関わり合って問題を解決する「主体的、対話的で深い学び」を目指すアクティブ・ラーニングに欠かせない能力です。パパ・ママ、保育者、先生など、身近な大人が、子どもと一緒にすごす中で、自らこうした姿勢を見せることも有効な教育になりそうですね。
続く後編では、昨年春に開園した東京都文京区立お茶の水女子大学こども園の取組みを紹介します。