約10か月の妊娠期間中、ママは子宮の中で赤ちゃんを育てます。そして、出産。お医者さまや助産師さんの手助けをもらって、誕生するわが子。そのとき、新米ママ・パパはこの上のない幸せを感じます。
しかし出産という大仕事を終えたママの体の中では、その瞬間にも劇的な変化が起きているのです。子宮は妊娠前の状態に戻ろうと収縮し、おっぱいは母乳をつくり始めます。体のあちこちに、今まで経験したことのない違和感や痛みが起こり、みんな少しずつ、少しずつ、「ママ」になっていくのです。
新しい命の誕生をパパや周りの人たちに喜んでもらい、幸せをかみしめていても、何となく気持ちが晴れなかったり、だるさや痛みに悩まされて、そんな自分に不安を感じてしまうママたちは、実は少なくないようです。
出産にあたって、どう産むかだけでなく、その後のママの体に起きる変化についても理解しておけば、心の準備ができて、回復を早めることができるかも知れません。
そこで、ミキハウス「出産準備サイト」は、武蔵野大学付属産後ケアセンター桜新町のセンター長で、武蔵野大学看護学部臨床教授の萩原玲子先生に、産後のママの体に起こりがちなトラブルについて伺いました。
「急がないで、どうかゆっくりママになってください」
東京都世田谷区にある「武蔵野大学付属産後ケアセンター桜新町」は、出産後のママの体と心の回復を手助けし、赤ちゃんの健やかな成長を支援するために、世田谷区と武蔵野大学が協働して10年前に開設されました。赤ちゃんが生後4か月になるまでの間、最長1週間のショートステイができ、滞在中は助産師さんによる24時間体制のサポートがあり、保健士さんやカウンセラーの方のアドバイスも受けながら、過ごせるようになっています。
センター長の萩原先生は助産師歴43年。 多くの新米ママを支え、体のケアや子育ての相談に乗ってきました。
「私たちのセンターでは、産後のママが自分自身の心と体をいたわりながら、子育てを少しずつ覚えられるようにお手伝いをしています。お産で終わるわけではなく、そこからがスタートですから。まず、ママたちの心身の状態を確認させていただきながら、『困っていることはありませんか?』『休めていますか?』と問いかけるようにしています。ママたちは育児の初心者。赤ちゃんのお世話が上手にできなくて当たり前です。私は常に、『ゆっくりママになってください』と伝えています。急ぐ必要はないのです」(萩原先生)
なお東京都世田谷区は高年齢出産が多い地域。年齢が高いと妊娠・出産で受けるダメージは大きいし、親も高齢で頼る人がいないためにこうした施設を利用する方も多いのだとか。ママに出産時のダメージが残ったままだと、赤ちゃんのお世話どころではないでしょう。
「そうですね。出産直後のママはホルモンの影響で、『赤ちゃんのお世話をしなきゃ』と思うようになっているんです。でも体はそこまで回復できていない。そのアンバランスが産後のトラブルの大きな原因になります。一昔前は、出産後3週間は何もせず、家族に面倒を見てもらうものでした。でも最近は病院での入院期間が短く、ママの体の回復に支障が出るケースも見受けられます。赤ちゃんを取り巻く生活環境も変化していて、核家族化の中で、ママ・パパは赤ちゃんの世話などの練習が充分にできないという現実もあります。育メンパパが活躍するご家庭もあるようですが、それも数は多くありません。病院から自宅に帰ると、パパは仕事に行かなきゃならない、頼れる家族や親戚は近くにないというケースも多い。ママ自身が出産時のダメージで苦しんでいるのでは、不慣れな赤ちゃんのお世話は大変です。がんばりすぎると、ママの体と心のバランスは崩れやすくなってしまって、ますます回復が遅れてしまうことにもなります」(萩原先生)
産後の体の痛みや不調については、あまり語られないもの。出産より本当は産後の方がつらかったという先輩ママも少なくありません。どんなにつらくても、赤ちゃんは待ってくれないので、自分のことは後回しでひたすら頑張ってしまう新米ママにとって、「休みながら、少しずつ進んでいけばいい」と教えてくれる萩原先生たちの指導は、大きな救いになっています。