赤ちゃんにお歌を聞かせたい。でも、昔から音痴で自信がない。こんな下手なお歌を聞かせたら、赤ちゃんも音痴になってしまうかも……なんて心配をしているママ・パパもいるかも知れません。でも大丈夫! 梶川先生は、「音痴は親の歌声だけで決まることはありません。音程が合っているかなんて気にしないで、好きなお歌を、心をこめて歌ってあげてください」とアドバイスをされます。たしかに、外した音でお歌を教えると、赤ちゃんはその音でそのお歌を記憶する可能性はあります。ただ、音感そのものが狂うかというと、それはまた別の話で、その後の音楽体験によって音感を修正していく能力が子どもにはあるそうです。
梶川先生はさらに、赤ちゃんとママ・パパが音楽を通してつながりあえることが証明された実験について教えてくださいました。
「生後6か月から12か月までの6か月間、赤ちゃんとママ・パパには定期的に教室に来てもらって、一つのグループには、一緒に音楽を習い、お家に帰っても赤ちゃんと一緒に音楽を楽しむことをお願いしました。もう一つのグループは、教室には来てもらうのですが、音楽はBGMとして流していただけです。6か月後に、ママ・パパに赤ちゃんのコミュニケーション能力を評価してもらったんですが、一緒に音楽を楽しんだグループは、それをしなかったグループに比べて、わが子に高い評価を与えるママ・パパが多かったんですね。一緒に音楽を楽しむことで、ママ・パパは赤ちゃんの“コミュニケーションをしたいという気持ち”をくみ取れるようになったと考えることができます」
また、ママ・パパとの触れ合いの中で音楽を楽しんだ赤ちゃんは、音楽を聞いたり、歌ったりすることが大好きになるようです。
「こうした経験は、0歳、1歳ぐらいの赤ちゃんにとって大切な事です。CDの音楽を聞いて一人で眠るのは、赤ちゃんにとってあまりいいことではありません。それがどんなにいい音楽であっても、です。それよりも、ママ・パパが一緒に声を出してくれるとか、一緒に手を振ってくれるとか。そういうことだけでいいと思うんです」
ママ・パパが愛情をこめて赤ちゃんに歌いかけ、一緒にお歌を楽しむことが、赤ちゃんの感性を豊かに育むということでしょう。
こうしてママ・パパのお歌を聞いていた赤ちゃんが成長して、2~3歳ぐらいになると、声を出して一人でお歌を歌うことができるようになります。大好きな幼児向けアニメの主題歌を覚えて、一生懸命に歌う姿は何とも愛らしく、ママ・パパは一緒に声を合わせて歌いたくなってしまいますね。
それなのに、「ダメ! ひとりで歌うから、ママ(パパ)は歌わないで!」なんて言われるのもありがちなこと。「一緒にお歌を歌いたいのに…」なんて、がっかりしないでください。その言葉には理由があるようですよ。
「一つは、お歌を自分のペースで歌いたいと思う自立心が育っているということでしょう。また、人の声が重なると自分の声が聞きにくくなり、自分の声がちゃんと聞こえていないと歌いにくいということを子どもが意識できるようになったからとも言えます。このような時には、無理に一緒に歌おうとせず、子どもの声を聞いて、身体の動きや表情で反応してあげたり、上手に歌えたことをたくさん褒めたりして、一人でできたことを認めてあげましょう。そうすれば子どもの歌いたい気持ちをどんどん伸ばしていけるのではないでしょうか」(梶川先生)
心の成長をうながし感性を育む音楽やお歌を、赤ちゃんとの毎日におおいに取り入れてみてはいかがでしょうか。成長に合わせて一緒に楽しむ音楽は、子どもの心を豊かなものにしてくれそうですね。
《参考文献》
(※)EFFECTS OF EXPERIENCE ON FETAL VOICE RECOGNITION(PSYCHOLOGICAL SCIENCE)