梶川先生は、「赤ちゃんラボ」で生後3か月の赤ちゃんを対象に、お歌と話し声を区別しているかを調べる「母親歌唱音声と朗読音声に対する3か月児の心拍反応」という実験を行いました。
「ママの歌声を聞かせる赤ちゃんたちと、ママが本を読む声を聴かせる赤ちゃんたちという二つのパターンに分けて、心拍数の変化を比較したんです。まずママの姿は見えない状態で、赤ちゃんをしばらく一人でベッドに寝かせておく。そうすると赤ちゃんの心拍数はあがって、手足の動きも激しくなります。いつもと違う状況で不安なのかもしれません。そこで、ママの声を、歌声と朗読、それぞれで聞かせたんです。すると、心拍数の変化の仕方や視線の向け方など、赤ちゃんたちの反応は明らかに異なっていました。つまり生後3か月で、すでに歌と語りかけを別のものとしてとらえていると考えられます」(梶川先生)
生後5か月ぐらいには、赤ちゃんは声に表れる感情の違いを認識できるようになり、やがてハッピーな声には喜び、怒っている声を聞くといやがって泣いたりするそう。また、日常的にクラシック音楽に親しんでいる赤ちゃんの場合、7~8か月の頃には、オーケストラなど生の楽器で演奏されたものとシンセサイザーなど機械音で演奏されたものを、はっきりと区別できるという実験結果もあるそうです。つまり、何度も聴いている音については、小さな違いでも気がつくようになる……赤ちゃんの記憶力はすごいものです。
それならCDやDVDでたくさん音楽や言葉を聞かせれば、学習効果が期待できるのでは、と思ってしまいますが「その点には注意が必要です」と梶川先生。
「赤ちゃんのためを思って、音楽や語学のCDをただ流しっぱなしにすることはお勧めしません。9か月児を対象にしたある研究で、言葉の音に関してはCDやテレビを通して聞くだけでは学習しないということが証明されています。言葉は、特に赤ちゃんにとっては人との実際のやり取りの中で学ぶものなんです。音楽も同じで、表情や身体の動き、声などで周りの人と気持ちを共有しながら、経験することがとても大切です。言葉や音楽は、人とのかかわりの中で身につけ使われていくコミュニケーションツールですから」(梶川先生)
赤ちゃんはお腹の中でママ・パパの声を聞くことから始まり、一緒にお歌を歌ったり、音楽に合わせて踊ったりする経験をたくさんすることで、人とかかわる楽しさを知り、一体感やきずなを感じていくのかもしれませんね。