漫画家・鈴ノ木ユウさん×出産カメラマン・繁延あづささん対談
――出産、そして家族のものがたりを紡ぐということ<前編>

ミキハウス編集部

自然分娩も帝王切開も出産は誰もが必死…その風景を伝えたい

繁延:出産撮影を始めるとき、とても容姿端麗で落ち着いたご夫婦の出産写真を撮影したことがあったのですが、初産では奥さんも旦那さんも必死なわけです。登ったことのない山を登るようなものですものね。みんな必死で余裕がなくて、いつものきれいさや落ち着きは、もうなくなっている。奥さんは髪を振り乱し、必死の形相でしたし、旦那さんは焦燥している顔でした。でも、私はそれを美しいと思ったんです。そのときにご本人たちには言えないけど、とても素敵な風景ですよって思って撮っていました。出産の瞬間だけでなく、産後放心している様子とか、全部が素敵な風景に見えました。私は、その感動と美しさを写真で伝えるべく撮っている感じがします。

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鈴ノ木:すごくわかる気がする。取材で帝王切開の出産に立ち会ったこともあるんですが、陣痛もないし、お医者さんと最初はにこやかに話しながら臨むわけですが、いざ始まるとお腹は開くし壮絶で…これは決して楽な出産ではないと思いました。赤ちゃんが生まれたときに感じることって、自然分娩でも帝王切開でも一緒。知らない子でも感動しました…もうおじさんなんで、感動しやすくなっているってこともありますが(笑)。

繁延:いえいえ、出産は感動しますよ。それに無事に生まれて当たり前でないこと、いま生きているのが当たり前でもないということに気づかされますよね。まだこの世に生まれていない子の人生が、出産から、そこから始まる。出産は「命」の存在を強く感じます。

鈴ノ木:それは本当にそう。男の人は、生まれるまで妻のおなかの中で命が宿っていることがリアルじゃない気がするんですよね。おなかをさすって赤ちゃんが動いているのがわかっても、どこかで「本当に?」と思っている。そういう、今まで経験したことのない10か月を過ごして、生まれてきた赤ちゃんを見て「本当にいたんだ!」と思って、やっと実感する。非常に不思議な感じがします。男は妊娠や出産について、当事者ではないから理解しようと思ってもすごく難しいことが多いんです。理解はしたいけど理解できない部分は絶対にある。その理解できない部分を僕は『コウノドリ』で描きたいんでしょうね。

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『うまれるものがたり』(マイナビ出版)より

繁延:出産には、あまり知られてないけどもっと知られるべき現実がある。鈴ノ木さんの作品には、それがたくさん描かれているじゃないですか。私が出産する前に読んでいたら、「イメージと違う」「間違えてしまった」と思わずにすんだかもしれません。だから『コウノドリ』を読んで出産できる女性や、その旦那さんはいいなと思います。

鈴ノ木:ありがとうございます。たしかに僕が『コウノドリ』の連載を始めたとき、出産の問題はタブーという雰囲気はちょっとありましたよ。女の人は知ってほしいけど「どうせわからないでしょ」と思っている部分があるし、逆に男の人は聞いちゃいけない、知っちゃいけないと思っている。そういった、面と向かっては話しづらい事柄を漫画という形で描くことによって、出産の現実を受け入れやすいと思ってもらえるようになったとすれば、うれしいことだなと思いますね。

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繁延:私も出産のことを夫にわかってもらいたかったけど、それを伝えるのって難しいですから。

鈴ノ木:ですよね。でもまあ、偉いのはなにより女性です。僕はもう、子どもを産んだときの妻を見ているので、彼女には一生逆らえないと思っています。女の人にはかなわない。だから、いま8歳の息子が妻に生意気な口をきいていたら、ゴツンします。基本、子どもに手を挙げることはないですが、それだけは必要なことだと信じています。

繁延:なんだか、鈴ノ木さんの優しさを感じますね。

鈴ノ木:優しいですよ、僕は…それが、妻にも伝わっていればいいんですけどね(笑)。

対談の<後編>はこちらからどうぞ。

 

【プロフィール】
鈴ノ木ユウ(すずのき・ゆう)
1973年、山梨県甲府市生まれ。大学卒業後はロックスターを目指していたが、漫画家に転向。「ちばてつや賞」入選後、『モーニング』誌で2012年8月、短期集中連載を行った『コウノドリ』が人気となり、2013年春から週刊連載に。昨年10月には本作が綾野剛主演で『コウノドリ』(TBS系)としてドラマ化。今年5月、第40回講談社漫画賞(一般部門)に輝き、現在、単行本の発行累計が350万部に達する大ヒット作になる。プライベートでは妻と8歳の息子の3人暮らし。

繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
1977年、兵庫県姫路市生まれ。県立明石高校美術科卒業後、桑沢デザイン研究所ID科に学ぶ。その後、写真家の道に進む。雑誌・広告の写真撮影や執筆、カメラ教室の講師をするとともに、ライフワークとして出産撮影に取り組んでいる。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)、『カメラ教室~子どもとの暮らし、撮ろう~』(翔泳社)など。今年夏に、写真を担当した『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)と、10月に『こどものみかた 春夏秋冬』(福音館書店)が出たばかり。現在、長崎で夫、11歳・9歳の息子、3歳の娘の5人暮らし。
http://adusa-sh.sakura.ne.jp/

 

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