日本産科婦人科学会では、不妊を「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、1年経っても妊娠しないこと」と定義しています。赤ちゃんが欲しいと思っているのに、1年経っても妊娠の兆しがないなら、男性か女性のどちらか、もしくは両方になんらかの不妊の原因があると言えます。つまり、不妊の原因は女性だけでなく男性にもあるのです。
そこで特集「男性不妊」では、獨協医科大学埼玉医療センターの小堀善友先生に男性が原因の不妊についてインタビュー。前編の「精子の話」に続き、後編では「不妊に対する男性の意識改革」を考えていきましょう。
不妊治療の一歩目にすべきは男性の「精液検査」
「妊娠するのは女性」ということから、長い間不妊は女性の問題と考えられていました。でも受精には男女の存在が必要です。原因がどちらにあるにしろ、不妊は2人の問題と言えるでしょう。
WHO(世界保健機構)の調査でも、男性側にも不妊症の原因があるケースは48%と約半数に上るとされています。
ところが、自分が不妊かも知れないと考える男性は、「実態よりもかなり少ない」と小堀先生は指摘します。
「男性側に不妊の原因がある場合、多くは精子の機能に問題があります。故に、不妊治療の第一歩目にやるべきことは、男性の場合は精液検査になります。これをやっておけば、まず自分の精子が自然妊娠できる能力を有しているかどうかがわかるわけですから。しかし、“男の沽券”にかかわると思っているのか、精液検査をする男性は非常に少ない。自分の妊娠能力に疑いを持つ人が少ないというか、不妊はパートナー側の問題だとどこかで思っているのでしょう」(小堀先生)
不妊の疑いがあれば、男性はまず精液検査をすることが重要です。ちなみに精液検査を受けた男性に対するアンケートでは、検査のタイミングは「パートナーの検査が終わってから」という回答がほぼ半数を占めていたそうですが、「加齢により精子の質も劣化することを考えれば、少しでも早く検査を受けておいた方が得策です」と小堀先生。
男性の不妊に対する「意識改革」は急務だと言えます。しかし、男性不妊を検査する医療機関が足りていないという別の問題もあるようです。
「男性も気軽に受診できるような不妊治療専門のクリニックは、大都市圏にわずかにあるだけです。ある調査では、精液検査を受けた男性の70%以上が、最初の精液検査を受けたのは産科・婦人科だという結果が出ています。産科や産婦人科で男性が検査をする、というのはなかなか抵抗を感じられる方も少なくないと思います。今後はもう少し、抵抗感なく精液検査ができる医療機関、たとえば男性不妊専門の泌尿器科を増やすなどの対策が必要でしょう」(小堀先生)