特集「産前産後のママのからだ」(第1部)妊娠中の体重はしっかり増やすのが「正解」その理由とは

特集「産前産後のママのからだ」(第1部)
妊娠中の体重はしっかり増やすのが「正解」
その理由とは

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最近日本で生まれる赤ちゃんたちの中に、低出生体重児と呼ばれる出生時の体重が2,500g以下の赤ちゃんが増えています。1990年代から見られるようになったこの傾向は、徐々に顕著になり、最近では約10人に1人と言われるようになりました。

最大の原因は、プレママたちの“やせ志向”。あまり体重を増やさずに妊娠・出産する女性は今や珍しくないのです。そこで、今回は特集「産前産後のママのからだ」と題して、妊娠中のプレママの体重増と産後の体型の関係や赤ちゃんの健康について取り上げます。

第1部でお話を伺うのは、国立成育医療研究センターの森崎菜穂先生。先生は、人の生涯にわたる生活や習慣の中で病気の原因となるものについて探り出し、予防に結びつける“ライフコース疫学”の研究者であると同時に、3歳の子どもさんを育てるママでもあり、妊娠や産後について、研究者とママの両方の視点をお持ちです。それでは妊娠時の理想的な体重増とママと赤ちゃんの健康のために必要な栄養などについて、学んでいきましょう。

 

BMI正常値のプレママは妊娠時12キロ増までOK

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森崎先生は「日本人の妊婦のやせ傾向」に関する複数の論文を発表しています。

この中で先生は、日本ではBMI値(体重÷身長÷身長であらわされる体格指数)の低い“やせ”のプレママから低出生体重児が生まれる傾向があること、低出生体重児は将来、低身長化や糖尿病のリスクがあることを紹介し、日本のプレママのやせ志向に警鐘を鳴らしています。

日本で低体重児が増えてきたのは、20年以上前から。しかしながら妊娠糖尿病や高血圧症など、肥満による母体のリスクの方が問題視されていた上に、医療が充実している日本では小さく生まれた赤ちゃんでも育てることができるため、妊婦のやせが大きく取り上げられることはありませんでした。

WHO(世界保健機構)が定めたBMI値の正常範囲は18.5以上25未満で、18.5未満は低体重(やせ)、25.0以上なら過体重(太り気味もしくは肥満)と分類されます。日本ではBMIが正常値のプレママは、出産までに7~12㎏の範囲で体重を増やすように指導されているのですが、これは国によって基準が違います。例えば米国では14~17㎏で、生まれてくる赤ちゃんの体重は、日本人の3,093gより約300g重い3,381g。同じアジア系の韓国でも3,272g。日本人の赤ちゃんは調査対象となった16人種の中で最も小さいそうです。

平成25年の「国民健康・栄養調査」で20代女性の5人に1人以上が“やせ”と分類されていることからも、もともと日本人女性はやせ志向が強いと言えます。妊娠前からやせている女性が多いことに加えて、まじめで自制心が強い国民性もプレママのやせに拍車をかけていると、森崎先生は見ています。

「日本の妊婦さんは、産科で7~12㎏の体重増を指導されてもほとんどの人が10㎏ぐらいで抑えてしまう。12kgまで増やす人はほとんどいません。なお、“やせ”の妊婦さんは早産率が高いというデータもあります」(森崎先生)

先生によると、BMI値が18.5未満の“やせ”の範囲なら12㎏の増加、BMI値18.5~21ぐらいなら11~12㎏は増やした方がいいとのこと。身長が158㎝で体重が53㎏の女性なら、BMIは21.2ですから、12㎏増が出産時の適正体重ということになります。

「また、私が過去に行った研究では、妊娠中に体重増を10㎏未満に抑えたママと、推奨上限ギリギリの12㎏まで増やしたママの産後1年経ってからの体重にはほとんど差はありませんでした。つまり、妊娠中にがんばって体重を増やさないようにしても、産後の体型の戻りにはあんまり関係ないということは広く知れ渡ってほしい“事実”のひとつですね」(森崎先生)

ちなみに妊娠前には、やせに近かった森崎先生は「自分の研究を信じて」15㎏増やして出産に臨んだそうです。「私の場合は、体重を適度に増やしたことで、その後の育児が楽になったと感じています」と森崎先生。なぜ、体重を適度に増やしたことで子育てが楽になったと実感できたのでしょうか? 次の章でその理由を伺います。

低出生体重児でもちゃんと育ちますが、問題点も…

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平成24年に厚生労働省から発表された「21世紀出生児縦断調査結果の概況」(※1)を見ると、「体重及び身長の身体発達曲線」は月齢が高くなるほど、差が開く傾向が見て取れます。たとえば男の子の場合、2,100gで生まれた赤ちゃんは1歳のお誕生日を迎える頃には約7,500gですが、出生児に3,000gだった赤ちゃんは9,000gを超えています。出生時は900gの差が、12か月後には1,500gにも広がっています。

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出典データ:「21世紀出生児縦断調査結果の概況(体重及び身長の身体発達曲線)より」

「大きく生まれた赤ちゃんは、(体力があるからか)初めからおっぱいをちゃんと吸える子が多いようです。おっぱいが吸えるから、母乳も出やすくなる。ママにとっても赤ちゃんにとってもよい授乳ができやすくなるようです」(森崎先生)

この傾向は6歳になっても同じ。小さく生まれると、平均的な体格の子どもたちを超すのはなかなか大変なようです。もちろん成長するにつれてママ・パパの遺伝子の影響でぐっと成長することもあるでしょう。ただ、低出生体重児が増えてきた日本では、平均身長がわずかながら低下しているのも事実なのです。

なお、低出生体重児は成人してから心臓病や糖尿病などになりやすいというバーカ―氏仮説(※2)は、最近の医学界では常識になりつつあります。これは、胎児に充分な栄養が届かないと、少ない栄養で生きていくために、体は細胞の数を減らして“省エネ”体質になって生まれるので、普通の食生活でも生活習慣病になりやすいというものです。

やせ気味のまま育つ子どもは、病気に対する抵抗力が低いなどの問題も明らかになりつつあります。とはいえ、もちろん大きければ大きいほどいいというわけではありません。「新生児の適正体重2,500~4,000gの範囲内になるように、ママも体重を増やしていただきたいです」と森崎先生。何事も「適正」が望ましいですね。

さて、本記事ではやせ志向を脱却して、「しっかりと適正体重まで増やしていきましょう」としてきましたが、やはり心配になるのは産後にまた体型を戻せるか否か。妊娠・出産を経てスッキリと素敵な先輩ママたちも少なくありませんが、彼女たちはどうやってその体型を実現したのでしょうか。続く「産前産後のママのからだ」第2部では、産後のからだのケアについて助産師さんにお話を伺い、体型戻しにチャレンジしている先輩ママたちの経験談も紹介していきます。

 

〈参考資料〉
※1 21世紀出生児縦断調査結果の概況(厚生労働省平成24年) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/tokubetsu/kekka03.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001tmct-att/2r9852000001tmea.pdf

※2 胎生期から乳幼児期における栄養環境と成長後の生活習慣病発症のリスク(日本産科婦人科学会雑誌60巻 2008年9月)
http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63/60/9/KJ00005041847.pdf

 

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【プロフィール】
森崎 菜穂(もりさき・なほ)

国立成育医療研究センタ―研究所 社会医学研究部 ライフコース疫学研究室長。医学博士。東京大学医学部を卒業後、沖縄県立中部病院、東京大学の小児科を経て、東京大学医学部附属病院、東京都立墨東病院、東京都小児総合医療センターに勤務。2012年ハーバード大学公衆衛生大学院にて公衆衛生学修士号を授与される。主な研究テーマは「胎児期・幼少期の環境要因暴露が健康に与える影響に関する研究」など。3歳の子どもを保育園に預けて仕事をする先輩ママ。

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