--母乳のメリットとして、スキンシップの効用も取り上げられていますが、先生はどうお考えですか?
和田先生:母乳をあげると母性が育まれやすいということはあるかも知れません。肌と肌を触れあうのは、赤ちゃんの精神的な安定につながるようですし、肌から直接刺激を受けることが赤ちゃんの成長を促すこともあるでしょう。でも、お母さんたちにご理解いただきたいのは、母乳でなくてもスキンシップは取れるということです。
--赤ちゃんはママ・パパとの触れあいの中で心も育っていくということですね。そして粉ミルクをあげていてもスキンシップは成立するんですね?
和田先生:もちろん粉ミルクでも大丈夫です。あと最近、医学界で注目されているのは「菌」の存在です。
--菌、ですか?
和田先生:はい。人間のからだは30兆から60兆の細胞で構成されているのですが、私たちの体の中にはそれよりも多くの数の菌がいることが分かっています。口腔内、腸管、肌などあらゆるところに非常にたくさんの種類の菌が共生し、それらは私たちの健康を守ってくれているんです。そして授乳や抱っこなどのスキンシップを通じて、赤ちゃんはママやパパから菌をもらうことができる。そうした無数の菌が、免疫のバランスを整えたり、アレルギー反応を抑制することに大きく役立つと言われています。
--授乳やスキンシップにより、体に有益な菌を与えることができるとは知りませんでした。
和田先生:はい。特に母乳育児の場合、ママのおっぱいには人間にとって有益な菌があり、それが赤ちゃんの口腔内、腸管に行き渡る。一方、ミルクの場合は摂取する菌が全く変わってきて、菌の種類によって抵抗力やアレルギーの発症に影響があるということが言われてきています。そういうことを考えると母乳育児の最大のメリットは、たくさんの菌を赤ちゃんに与えられることにあるのかもしれません。
--粉ミルクではどうでしょう。母乳でなくても、肌が触れあうことで菌をあげることができるのではないですか?
和田先生:もちろん、抱っこするだけでも菌を与えることができると思います。そういう面でもスキンシップは非常に大切です。ママでなくても、パパでもいいんです。たくさん抱っこして触れあって、有用な菌をあげてくださいね。
--母乳でも粉ミルクでも、肌と肌を合わせて授乳することでママ・パパは栄養だけではなく、体を守るための菌や精神的な安定を赤ちゃんに与えているんですね。そして、こうした毎日の繰り返しが親子の絆になっていくのかもしれません。
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ママの血液から作られる母乳の栄養は赤ちゃんの成長に合わせて、濃度や成分を変えているという先生のお話には、生命の神秘を感じます。でも母乳が出ないからと悩む必要はないようです。特集記事の後編は、粉ミルクの開発に携わる研究者の方に、知っているようで知らない「粉ミルクの基礎知識」について伺います。
【プロフィール】
和田 雅樹(わだ まさき)
東京女子医科大学新生児医学科教授 医学博士。新生児指導医・専門医、日本小児栄養消化器肝臓学会認定医。新潟大学地域医療教育センター魚沼基幹病院教授を経て、現在は東京女子医科大学の母子総合医療センターで新生児疾患の治療と研究に当たっている。専門は新生児医療一般、新生児蘇生法、消化管機能評価など。