--お話を伺いながら、粉ミルクとは赤ちゃんのことを第一に考えてつくられているものだと改めて感じました。開発者としてのこだわりなどがありましたら、教えていただけますか?
上野さん:粉ミルクは、母乳の補助が本来の役割と私たちは考えています。母乳があげられなかったり、足りなくて粉ミルクが必要なら、必要な分だけ使ってもらえばいい。母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養ですし、母乳育児は母親の健康にとっても有益なので、粉ミルクはまだまだ母乳に追いつけていない部分があります。だからと言って、赤ちゃんやお母さんの健康に深刻な影響を及ぼすほど劣っているものでもありません。端的に言うと“母乳の代用品”ですが、代用品としてはかなり優れているものだとお考えいただいてよいかと思います。
--母乳の“最強の代用品”というところでしょうか。
上野さん:そうですね。粉ミルクは当社でもおよそ60年前からつくられており、最も歴史のあるサプリメントなんですね。長年に渡り、各メーカーが母乳に近づけるための研究をずっと行い、着実に進化してきたんです。最近でもたんぱく質や脂質の量について、国が定める基準が10年前と比べるとかなり見直され、改良されています。
--医療や栄養の常識は時代によって変わりますからね。
木村さん:ええ。私たちメーカーが目指しているのは、そういう基準を満たしたうえで、赤ちゃんにとってよりよい粉ミルクを開発していくことです。弊社では、1960年から全国規模の母乳調査を実施しています。現在も第3回目となる調査が2015年から行われており、授乳中のママからご提供いただいた母乳の分析、研究に取り組んでいます。
--実際の母乳の「今」を研究することで、よりよい商品をつくろうということですね。ちなみに母乳はママが食べるものでも成分が変わってきますよね。ということは年齢や地域によってもずいぶん違うのでは?
上野さん:違いますね。ですから、調査を続けて、今の日本のママと赤ちゃんにとって必要なこと、粉ミルクに求められていることを見つけていきたいと思っています。基本の成分に何をプラスしたらよりよいものができるのかを追求していくということは、各メーカーがそれぞれに研究しているところです。
木村さん:現時点で私たちが目指しているのは、母乳に含まれる免疫機能を強化できる成分、つまりできたての母乳に近い働きをするものを、粉ミルクにも加えられないかと考えているんです。免疫成分そのものでなくても、赤ちゃんが持っている免疫などの機能のスイッチを押す成分は何か、どんな食品から取り入れることができるだろうかという研究を進めています。
--それが実現したら、粉ミルクがいっそう母乳に近づきますね。
上野さん:そうですね。母乳の成分やその働きにはいまだに解明されない部分も多いので、母乳とまったく同じ粉ミルクができるのはまだまだ遠い未来のことになりそうですが、現在の粉ミルクが赤ちゃんの健やかな成長のために、必要なときに必要な栄養を提供できるサプリメントであることは間違いありません。母乳と粉ミルクを上手に使い分けていただくのもよいと思います。わたしたちは「これを飲ませていれば大丈夫」と親御さんたちに安心してもらえる製品を提供していきたいと思っています。
--粉ミルクって、育児をしているとすごく身近にあるものなのに、お話を伺ってみると知っているようで知らない事ばかりでした。赤ちゃんとママ・パパにとって、便利で安全で栄養価が高い貴重な食品と改めて感じさせられました。今日はありがとうございました。
粉ミルクはママの母乳についての悩みを解消してくれるだけでなく、パパの育児参加を容易にするという利点もあります。赤ちゃんのためにママのからだで作られる母乳と、その母乳により近づこうと進化を続ける粉ミルク。それぞれの特徴を生かした授乳で、ママ・パパが赤ちゃんのお世話をもっと楽しめるといいですね。
- 上野 宏(うえの ひろし)
- 雪印ビーンスターク株式会社商品開発部 博士(農学)
2004年に北海道大学院農学研究科修士課程を修了し、雪印乳業(株)に入社。技術研究所(現・雪印メグミルク(株)ミルクサイエンス研究所)の研究員として配属された。2012年よりビーンスターク・スノー(株)開発部(現・雪印ビーンスターク(株)商品開発部)の研究員に就き、2013年に平成25年度日本酪農科学会奨励賞受賞、農学博士取得(北海道大学)などを経て現在に至る。牛乳や母乳に含まれる栄養成分の応用に関する研究、牛乳アレルギーに関する研究などを担当している。
- 木村 恒介(きむら こうすけ)
- 雪印ビーンスターク株式会社 育児品事業部 営業企画グループ 課長
雪印乳業㈱に入社以来、一貫して育児品事業に従事。東北・関東での営業を経て2018年から現職。