100%の予防策がないように、新生児期からどんなにこまめに保湿をしていてもアトピー性皮膚炎を発症する赤ちゃんはいます(アトピー性皮膚炎の原因は様々あるためです)。
一度、炎症を起こしてしまった肌は保湿剤だけでは症状を改善することはできません。そのために多くの医療機関で使用されているのがステロイド外用薬。
「私たちもステロイド外用薬を塗って炎症の治療を行っています。ただ、ステロイドはなにかと勘違いされている側面もあり、未だにステロイド外用薬はよくない薬だと信じている方たちもいらっしゃいます。たしかに間違った使い方をすると、ひどい症状に苦しめられることもあります。これは断言できますが、用法、容量をきちんと守って使えばまったく心配はいりません」(山本先生)
ステロイド外用薬には強さのランクがあり、患部や症状に合わせて使い分けます。同センターで先生たちが推奨しているのは“プロアクティブ療法”と呼ばれ、症状が治まっても塗り続けるのが特徴の治療法です。
「使用量の基本は“フィンガーチップユニット(人差し指の先端から第一関節までの長さ)”を大人の手ふたつ分ぐらいの広さに塗り広げるぐらいとされています。症状が改善すると、塗る量を減らしたり、やめてしまったりしがちなのですが、上手にしっかりと治療できたら使用間隔を調整していくなどで薬の量を減らしていって、ステロイド外用薬の塗布を間欠的に副作用がでない範囲でと塗布を続けていくこと(プロアクティブ療法)が大切な場合もあります。軽症であれば、リアクティブ療法といって症状があるときだけステロイド外用薬を塗布するだけでもよいのですが、中等症や重症のアトピー性皮膚炎のお子さんは、ステロイド外用薬を塗るのをやめてしまうと、炎症がぶり返し症状は悪化してしまいます」(山本先生)
ステロイド外用薬はその特性を熟知し、治療に精通したお医者さまの指導のもとに使うことも大切なようです。また保湿剤を併用することも奨励されています。これは皮膚の乾燥状態を良くするだけでなく、ステロイド外用薬の使用量も減らす効果があるそうです。
「最近はSNSなどで情報を得ることが当たり前になってきましたが、皮膚関係の情報については玉石混交。なかにはとんでもなく誤った情報もあり、それを信用してしまうと治療どころか症状を悪化させることにもなりかねません。是非とも、独立行政法人環境再生保全機構や小児科学会など公的な機関が出す情報を見ていただきたいと思います。また、日本アレルギー学会と厚生労働省が運営する『アレルギーポータルサイト』(https://allergyportal.jp/)も参考にしてください」(山本先生)
ステロイド治療でアトピー性皮膚炎が治まって、保湿剤だけで肌をきれいに保てるようになる赤ちゃんも多いそうです。アレルギー性疾患をコントロールし、湿疹やかゆみに悩まされることがなくなった子どもたちは毎日をのびのびとすごせるでしょう。
赤ちゃんの肌に何か問題があったら医療機関で診てもらい、保湿やお肌の治療を始めてあげたいものですね。
〈参考資料〉
(※1)「アレルギー疾患の現状等」(厚生労働省 平成28年2月)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf
(※2)アレルギー疾患対策基本法(平成26年6月27日公布)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78ab4117&dataType=0&pageNo=1
(※3)「子どもの健康と環境に関する全国調査」(環境省)
https://www.env.go.jp/chemi/ceh/index.html
(※4)「授乳・離乳の支援ガイド」(厚生労働省 2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf
(※5)「離乳期早期の鶏卵摂取は鶏卵アレルギーの発症を予防することを発見」(国立成育医療研究センター 2016年12月)
http://www.ncchd.go.jp/press/2016/egg.html
【プロフィール】
山本貴和子(やまもと きわこ)
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター アレルギーセンタ―・総合アレルギー科医師 日本小児科学会・小児科指導医 日本アレルギー学会・専門医 医学博士 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)メディカルサポートセンター・チームリーダー 「妊娠中からの児のアレルギー疾患予防ヘルスリテラシー教育プログラムの開発と評価」プロジェクト代表