アトピー性皮膚炎から始まる“アレルギーマーチ”からわが子を守る方法

アトピー性皮膚炎から始まる
“アレルギーマーチ”から
わが子を守る方法

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日本人の2人に1人がなんらかのアレルギー疾患に悩まされている――そんな衝撃的な数字が平成23年に厚生労働省から発表されました(※1)。平成17年の調査では3人に1人だったので、わずか6年で急増したことが分かります。こうした現状をうけて、政府は平成26(2016)年6月27日にアレルギー疾患対策基本法(※2)を成立させ、アレルギーの予防や啓もうに国をあげて取り組むことを決めました。

そんな中、アレルギー疾患の原因のひとつとして注目されているのが、乳児期からのアトピー性皮膚炎です。子どものアレルギー研究で国際的にも高い評価を受けている国立成育医療研究センター・アレルギーセンタ―の山本貴和子先生に乳児期からのアレルギー疾患の対策について教えていただきましょう。

 

増える食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関係

アレルギー疾患は20世紀の後半から先進国を中心に急激に広がりを見せています、特に食物アレルギーを発症する子どもが20年ほど前から急増し、社会問題にもなっています。環境省が行った全国調査(エコチル調査 ※3)で約10万人近い妊婦さんを調べたところ、約半数の妊婦さんがアレルギー疾患になったことがあることがわかりました。これはアレルギー体質をもった赤ちゃんがたくさん生まれていることを意味しています。

食物アレルギーとは、特定の食品を食べた時に起きるアレルギー反応で、かゆみや蕁麻疹(じんましん)など皮膚の症状が多いのですが、腹痛や呼吸困難などが見られることもあります。特に赤ちゃんは体の不調を上手に伝えることができないので、離乳食などで初めての食べ物をあげる時にはアレルギー反応がないか注意深く見守ることが必要とされていますが、赤ちゃんの食物アレルギーが増えている原因のひとつとして、国立成育医療研究センターの山本先生が教えてくださったのが、「湿疹により食物アレルギーを引き起こすIgE抗体を作ることと、離乳食を始める時期が遅くなっていること」です。

「食べる前に湿疹などでバリア機能が壊れた皮膚からその食べ物のアレルゲンを体内に取り入れてしまうと、からだはそれを異物と認識してアレルギーを起こす抗体(IgE抗体)を作ることがわかってきました。初めて食べた時にアレルギー反応が起きることがありますが、これは食べる前からアレルギー反応を引き起こす可能性のあるIgE抗体を体内に作ってしまっているからです。一方、口から食べることで、その食物に対する免疫寛容(体がその食物を異物と認識しないで受け入れるようになること)ができるのですが、離乳食を始める時期が遅くなると、免疫誘導が遅くなり食物アレルギー性になる可能性が高くなるというわけです」(山本先生)

アトピー性皮膚炎は序章だった? そこからはじまる“アレルギーマーチ”とは

Cute little baby feet

子どものアレルギー疾患はアトピー性皮膚炎から始まり、離乳食で食物アレルギーを発症し、幼児期には喘息やアレルギー性鼻炎になってしまうという具合に変化していくというデータがあります。これが“アレルギーマーチ”と呼ばれるものです。山本先生も「アトピー性皮膚炎を発症した子は他のアレルギー疾患も出てくるケースが多い」と感じているそう。

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「すでに当センターのスタッフが論文を発表していますが、生後1~4か月でアトピー性皮膚炎を発症している赤ちゃんは、食物アレルギーになるリスクが非常に高いことが分かっています。食物アレルギーを予防するためには、乳児期早期に湿疹やアトピー性皮膚炎が見つかったらすぐに治療してあげることが重要です」(山本先生)

湿疹がでたらしっかり治療して健康的な肌を保ち、最新のガイドライン(※4)を参考に赤ちゃんが食べ物を食べられる時期になったら、できるだけ早く口から食べさせてあげる。それが食物アレルギーを防ぎ、喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギーマーチへの対策にもなるということです。

厚生労働省は今年3月に改定した「授乳・離乳の支援ガイド」(※4)の中で同センターの研究結果(※5)を取り入れ、これまで7~8か月頃としていた卵黄を離乳食に取り入れる時期を5~6か月頃と改めました(卵アレルギー対策は、卵を避けるのではなく卵を少しずつ食べることが重要ということです)。

こちらの記事でも取り上げたように、私たちの身の回りには無数のアレルゲンが存在しています。それらすべてを取り去ることはできませんが、肌のバリア機能を正常に整えて、外からのアレルゲンの侵入を防ぎ、アレルギー反応の原因となるIgE抗体を作らないようにすれば、食物アレルギーも予防できるはず――そう考えた国立成育医療研究センターは2017年から「乳児アトピー性皮膚炎への早期介入による食物アレルギー発症予防研究」(PACI Study・パッチスタディ)を始めました。

「保湿で肌のバリア機能が回復すればアトピー性皮膚炎の発症を予防できることは2014年に発表した研究結果で証明できておりますが、食物アレルギーの発症予防効果示すことができませんでした。食物アレルギーに一番なりやすいのは、乳児期早期の湿疹やアトピー性皮膚炎のあるお子さんです。そのため、今回のパッチスタディの目標は、乳児期早期に発症するお子さんに対して、湿疹・アトピー性皮膚炎を早期に治療を開始して積極的に治療することができれば、食物アレルギーが予防できるという科学的根拠を示すことです」(山本先生)

パッチスタディは全国各地の17の医療施設の協力を得て、650人の赤ちゃんを対象に行われていて、現在参加者を募集中です。1ヶ月健診で湿疹を指摘された赤ちゃんは参加を検討してみるといいかも知れませんね。応募はPACI Study(http://paci-study.jp/)のHPからできます。

ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎の治療に有効です

100%の予防策がないように、新生児期からどんなにこまめに保湿をしていてもアトピー性皮膚炎を発症する赤ちゃんはいます(アトピー性皮膚炎の原因は様々あるためです)。

一度、炎症を起こしてしまった肌は保湿剤だけでは症状を改善することはできません。そのために多くの医療機関で使用されているのがステロイド外用薬。

「私たちもステロイド外用薬を塗って炎症の治療を行っています。ただ、ステロイドはなにかと勘違いされている側面もあり、未だにステロイド外用薬はよくない薬だと信じている方たちもいらっしゃいます。たしかに間違った使い方をすると、ひどい症状に苦しめられることもあります。これは断言できますが、用法、容量をきちんと守って使えばまったく心配はいりません」(山本先生)

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ステロイド外用薬には強さのランクがあり、患部や症状に合わせて使い分けます。同センターで先生たちが推奨しているのは“プロアクティブ療法”と呼ばれ、症状が治まっても塗り続けるのが特徴の治療法です。

「使用量の基本は“フィンガーチップユニット(人差し指の先端から第一関節までの長さ)”を大人の手ふたつ分ぐらいの広さに塗り広げるぐらいとされています。症状が改善すると、塗る量を減らしたり、やめてしまったりしがちなのですが、上手にしっかりと治療できたら使用間隔を調整していくなどで薬の量を減らしていって、ステロイド外用薬の塗布を間欠的に副作用がでない範囲でと塗布を続けていくこと(プロアクティブ療法)が大切な場合もあります。軽症であれば、リアクティブ療法といって症状があるときだけステロイド外用薬を塗布するだけでもよいのですが、中等症や重症のアトピー性皮膚炎のお子さんは、ステロイド外用薬を塗るのをやめてしまうと、炎症がぶり返し症状は悪化してしまいます」(山本先生)

ステロイド外用薬はその特性を熟知し、治療に精通したお医者さまの指導のもとに使うことも大切なようです。また保湿剤を併用することも奨励されています。これは皮膚の乾燥状態を良くするだけでなく、ステロイド外用薬の使用量も減らす効果があるそうです。

「最近はSNSなどで情報を得ることが当たり前になってきましたが、皮膚関係の情報については玉石混交。なかにはとんでもなく誤った情報もあり、それを信用してしまうと治療どころか症状を悪化させることにもなりかねません。是非とも、独立行政法人環境再生保全機構や小児科学会など公的な機関が出す情報を見ていただきたいと思います。また、日本アレルギー学会と厚生労働省が運営する『アレルギーポータルサイト』(https://allergyportal.jp/)も参考にしてください」(山本先生)

ステロイド治療でアトピー性皮膚炎が治まって、保湿剤だけで肌をきれいに保てるようになる赤ちゃんも多いそうです。アレルギー性疾患をコントロールし、湿疹やかゆみに悩まされることがなくなった子どもたちは毎日をのびのびとすごせるでしょう。

赤ちゃんの肌に何か問題があったら医療機関で診てもらい、保湿やお肌の治療を始めてあげたいものですね。

 

〈参考資料〉
(※1)「アレルギー疾患の現状等」(厚生労働省 平成28年2月)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf
(※2)アレルギー疾患対策基本法(平成26年6月27日公布)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78ab4117&dataType=0&pageNo=1
(※3)「子どもの健康と環境に関する全国調査」(環境省)
https://www.env.go.jp/chemi/ceh/index.html
(※4)「授乳・離乳の支援ガイド」(厚生労働省 2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf
(※5)「離乳期早期の鶏卵摂取は鶏卵アレルギーの発症を予防することを発見」(国立成育医療研究センター 2016年12月)
http://www.ncchd.go.jp/press/2016/egg.html

 

dr

【プロフィール】
山本貴和子(やまもと きわこ)
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター アレルギーセンタ―・総合アレルギー科医師 日本小児科学会・小児科指導医 日本アレルギー学会・専門医 医学博士 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)メディカルサポートセンター・チームリーダー 「妊娠中からの児のアレルギー疾患予防ヘルスリテラシー教育プログラムの開発と評価」プロジェクト代表

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