I:子どもを信じないわけではないのですが、ホントに自分で興味の種を見つけてくれるものでしょうか。
高橋先生:ピンと来るときは来るし、これだと思うものがあれば夢中になってくれるものです。それが、どんなにつまらないものでもいいんです。親が望むようなものでなくてもね。とにかく夢中になっている様子があったらちょっと放っておいてあげた方がいい。
I:どんなつまらないものでも、ですか。
高橋先生:そう。うちの長男なんて、子どものころ「これだ!」とピンと来たのは道端の石ころだったんですよ(笑)。外に出るといつもたくさん石を拾って、家に帰ってくるころには服のポケットの中は石ころだらけでした。
I:おお、先生のお子さんでも……って言い方も失礼かもしれませんが、ちょっと面白そうな話ですね(笑)。
高橋先生:まぁ、親としては困惑しないでもなかったんですけど、好きなようにさせていたんです。そんなある日、お隣の宝石商をしているおばちゃんが、「私も子どもの頃から石が大好きだったのよ。あなたいいセンスしてるね~」と褒めてくれて、宝石展に連れて行ってくれたんです。そうしたらもう夢中になって、その場から動こうとしなかったそうです。まぁ、大人になった現在は、石とは関係のない仕事をしていますが、いまだに石のことは大好きですよ。蒐集はしていないようですが、けっこうな知識も持ち合わせているようで石の話となると嬉しそうにしています。その姿を見ていると、「あの時、おばちゃんのおかげで発芽したんだな」と思うんです。
I:興味に共感してくれる人がいたことで、興味の「種」が「発芽」したと。
高橋先生:ええ。繰り返しになりますが、強調したいのは子どもが自分で見つけて興味を持ったり、夢中になっていることがあるなら、それが親にしてみればつまらないもの、役に立ちそうもないものであっても、その行為に水を差さないことがとても大切だということです。もちろん危険なこととか、ひととして間違った行為は止めるべきですが、そうでなければ、とことんやらせてあげたらいいんじゃないでしょうか。ただ、親としては子どもがなにかに興味を持っただけで、子どものやる気や才能にスイッチが入ったとか、将来の役に立つかもしれないとか、そんなことを期待してしまうのでしょうが、それは違いますね。子どもは多くのものに興味を持つ才能を持っています。興味の守備範囲が広いのです。興味が長続きしなかったとしても、それを「飽きっぽい」「すぐ目移りする」と否定するのはお門違いです。
I:親はついその視点で見てしまいがちですからね。ちなみに、子どもがのめり込んでいるかどうかの判断基準、バロメーターみたいなものはあるんでしょうか?
高橋先生:親であれば、子どもの様子を見ているだけで分かるのでは。興味が湧かない時、子どもはとても冷静に「いらない」「やらない」と言うものですよ。
I:興味のないことをやらせても、あまり伸びないものですか?
高橋先生:興味のないことでも繰り返しやることで上達するものです。それはそれでいい経験です。そして、なにかのきっかけで興味がわいてくることだってあるかもしれません。でも、努力を積み重ねることで得意になったり興味を持ったりすることはあっても、おそらく夢中にはならないと思うんです。夢中になるものって、ある意味で「ひとめぼれ」です。ピンとくるものなんですよね。つまり、身の回りに漂っているものの中から、「ピン!」ときたものに子どもは夢中になるんですよ。「これが好き!」とか「やってみたい!」と思う気持ちが一番大切です。
I:そうですよね。
高橋先生:私たち大人は“集中”という言い方をしがちですが、子どもたちにとって「集中しろ」と言われることはむしろ苦痛です。それよりも夢中になることが大切。夢中になっている時が一番、幸せなんじゃないですか。夢中になるためにはふたつの条件が必要です。ひとつ目は、それをやることで快感が得られること。ふたつ目は、いつまでも飽きないことです。その意味では何かに夢中な状態とは “中毒”になっている状態に似ているような気がします。もし、そんなものがあるなら飽きるまでやらせてあげてください。もしかしたら一生飽きないかも知れない。それはきっと素晴らしいことですよね。ただ、中毒が依存症になるとまずいです。ネットゲームなどに夢中になった挙げ句、ゲーム依存症、つまりゲームが無くては不安、不快になる状態になったら問題です。そこだけは気をつけてあげてくださいね。
I:はい! 夢中になっていることがあれば、ママ・パパはむやみに干渉せずに見守ってあげるべきという先生のお言葉は心に留めておきたいと思います。今日のお話も大変参考になりました。ありがとうございました!
<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経 1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。