「ハナ」「ナオミ」はグローバルな名前?
米国人研究者が分析する日本の名づけ

ミキハウス編集部

胎児ネームをつけられることは、とても幸せなことなのです

マタニティ

――今回の調査ではこの数年で広がりつつある胎児ネームについてもママ・パパに尋ねました。その結果がこちらです。

胎児ネームを知っていましたか?

――2017年12月の調査と比較すると、胎児ネームを知っていたママ・パパは2年弱で約1割増えています。お腹の赤ちゃんに胎児ネームで呼びかけることは欧米でも行われていますか?

ウンサーシュッツ先生:ありますよ。ほとんどの場合、実際に付ける名前とは全く関係ないニックネームで呼ぶんですけれど、「豆」という意味の「Bean」とか「My Bean」、「Beanie」なんて呼び方が割と一般的なのかなと思います。どう呼ぶかはともかく、お腹の赤ちゃんをニックネームで呼ぶママ・パパは多いですよ。

胎児ネームをつけていましたか?

――今回のアンケートでは「ポコちゃん」とか「たまちゃん」という胎児ネームが目立ちました。下のグラフを見ると、胎児ネームではなく、生まれてからつけるつもりの名前で呼んでいるママ・パパも15%前後いるということが分かります。

ウンサーシュッツ先生:日本のように周産期医療が整っている国ですと、ママ・パパは赤ちゃんが無事に誕生することを信じられるから、生まれてからつけるつもりの名前で呼べるんでしょうね。一方で、国や地域によっては、無事に誕生することを前提とできないところもあります。名前をつけると、そこにアイデンティティや個性が認められてしまうことになります。妊娠や出産は命に関わる大変な出来事なので、もしかすると何かが起きて赤ちゃんを失ってしまうことがあるかもしれません。そんな時名前がついていなければ、辛さもいくらかは軽くなる、という考えなんですよね。

――なるほど。胎児ネームを何気なくつけられること自体、とても恵まれたことなのかもしれませんね。

ウンサーシュッツ先生:そうですね。子の誕生はいつの時代もとても喜ばしいことだけど、かつてはどの国、どの地域でもリスクと隣合わせでした。それが医療の発達、社会インフラの整備、衛生面の向上などで、そのリスクをさほど考えなくてもよくなった国やエリアも増えてきたわけですね。同時に、価値観そのものが変わったし、出産人数も変わったことなども影響していると思います。さまざまな理由や背景があり、胎児ネームというものが一般化していっているのではないでしょうか。

――ありがとうございます。最後に今後の名づけについて、お聞きしたいと思います。令和元年だからここその質問になりますが、これから子どもの名前のつけ方はどうなっていくとお考えでしょうか?

ウンサーシュッツ先生:まず日本に限らず、広く現代社会を捉えた場合、人間の一生は100年前とはまったく違うものになっています。例えば、昔だったらとある場所で生まれて、その場所で学び、結婚する相手も子どもの頃から知っていた身近な人で、一生涯をすごす…という小さなネットワークの中で成立していたと思うんですが、現代は物理的にも広がっているし、インターネットの世界を考えると、その場にいながら、他のエリアの人ともつながることができるわけです。社会や生き方が変わってくれば、当然、名づけに関する考え方も変わってくると思うんです。ここ日本で暮らしていても、情報はどんどん増えていくと思いますし、グローバル化が進めば外国人移民も増えていくでしょう。そうすれば、自然と名づけも変わっていくのではないでしょうか。


今回のアンケートでは、今年生まれたわが子に元号にちなんだ名前をつけたママにその理由を尋ねたところ、「平成から令和へと変わった年に生まれてきてくれたわが子に、元号という日本文化を海外にいても感じられるように」(37歳ママ/第1子 男の子)、「平成という時代があったことを忘れないように」(32歳ママ/第1子 男の子)のようなコメントも寄せられています。

親がありったけの愛情を込めて考える赤ちゃんの名前は、社会の変化や時代の雰囲気を敏感に映すひとつの文化とも言えそうです。いつか名づけの由来をわが子に話して聞かせる日を楽しみに、慌ただしい子育ての日々を楽しんでくださいね。

ウンサーシュッツ・ジャンカーラ先生
ウンサーシュッツ・ジャンカーラ(ウンサーシュッツ・じゃんかーら)

立正大学心理学部 対人・社会心理学科 准教授 一橋大学大学院卒 博士(社会学)
米国・ニューヨーク出身 日本語を学ぶうちに、名前に使われている漢字の独特な読みに興味を持ち、日本人の名前の研究を始める。
論文等:「価値観として解釈する名前:名前を通じて観察する親の希望」(2019)、「For whom and by whom children are named: Family involvement in contemporary Japanese naming practices」(2019)、「『キラキラネームといわないで!』新しい名前に対する評価とその現象に取り巻く言説」(2015年)他多数

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